地域創生推進コンソーシアムの活動 共創が形づくる地域創生への挑戦

第2回地域創生推進フォーラム「共創が形づくる これからの地域創生への挑戦」(主催:NTT西日本)が5月23日に開催された。フォーラムでは地域創生推進コンソーシアム各者による活動の紹介や、「デジタル田園都市国家構想」に関する講演、パネルディスカッションなどが行われた。

NTT西日本 自治体・産業・
共創のDXをサポート

NTT西日本 代表取締役社長 森林 正彰氏

西日本電信電話(NTT西日本)とパソナグループ、事業構想大学院大学、日本電信電話(NTT)、地域創生Coデザイン研究所は2021年7月に「地域創生推進コンソーシアム協定」を締結。互いのリソースやナレッジを結集、共有、進化させて地域創生を推進するための活動に取り組んでいる。

日本の生産年齢人口は、2050年には2021年比で3割減少すると予測される。これに伴い、産業の衰退や経済縮小のリスクがあるほか、社会資本の老朽化も進むとみられる。その一方で、社会のニーズや持つべき視点は多様化し、環境との共生も重視されている。

このような中、「地域で求められている人材の確保に向けて我々はデジタルトランスフォーメーション(DX)が非常に重要であると考えています」とNTT西日本代表取締役社長の森林正彰氏は指摘する。行政機能を効率化する「自治体DX」、色々な産業で持続可能な地域づくりをしていくための「産業DX」、そして産官学が連携し、BBXモデルによる持続可能な共創循環の創出を行なう際の「共創DX」が重要になる。

行政機能の効率化に関して、自治体は様々な課題に直面しているという。その1つは、自治体では20業務がシステム標準化の対象となり、ガバメントクラウドに移行するが、他の多くの業務を含めた最適構成をどのようにするかという課題である。そのほか、窓口で扱う事務の制度や仕組みが年々多様化・複雑化していること、現在は過渡期でオンラインとアナログの申請が混在し、稼働が増えていること、DX推進に係る専門知識や専門人材が不足していることなどがあげられる。

これに対し、森林氏は「私たちは課題解決の一助になりたく、4つの方向性を打ち出し進めています」と語る。第1の課題に対しては、自治体システムのクラウド化にまるごと対応していく。第2には、生成系AI(人工知能)等を活用し、スマート自治体の実現を支援する。第3には、人手不足への対応に向けた自治体業務のBPO(業務のアウトソーシング)を支援する。そして第4には、デジタル人材の育成をサポートしていく。

産業DXでは、NTT西日本が西日本の30府県で進めるさまざまな取り組みを紹介。その中には観光関連や地域ポイント活用によるまちづくり、森林・林業DXなど多様な地域課題・テーマについての取り組みが含まれる。

共創DXでは、サービス・技術・ソリューションを持つNTT西日本とパートナー企業(B)、地域の主体者(B)、地域社会・住民(X)による「B to B to X」の共創循環を創出し、地域の主体性を軸に事業を推進する持続可能な共創循環を作ることをめざしていると述べた。

内閣官房 「デジタル田園都市
国家構想総合戦略」を推進

内閣官房 デジタル田園都市国家構想実現会議事務局長 土生 栄二氏

地域創生に向けて政府は現在、従来の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をバージョンアップした「デジタル田園都市国家構想」を進めている。昨年末には、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(2023~2027年度)を閣議決定した。

内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局長の土生栄二氏は基調講演で「戦略は従来の『まち・ひと・しごと創生総合戦略』の大部分を引き継ぎながら、更に、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指し、デジタルの力を活用した地方の社会課題解決を図るものです」と述べた。

そこでは地方への仕事や人の流れを作り、結婚・出産・子育ての希望をかなえ、魅力的な地域を作ることを目指している。また、デジタル基盤の整備や人材確保、デジタルディバイドの解消も含めた誰一人取り残さないための取り組みを国が率先して進める方針だ。

さらに、デジタル田園都市国家構想基本方針で定めた取り組みの方向性に沿って各府省庁の施策の充実・具体化を図ると共に、KPI(重要業績評価指標)やロードマップ(工程表)を設定。そして地域ビジョンを具体的に示し、自治体ごとに地方版総合戦略を策定して取り組みを進めてもらう。

「今後はフォローアップを行うとともに、毎年、計画を具体化、進化させていくことも重要です。このため、当面の重点検討課題という形で、各省庁が連携して取り組むべき課題のリストを作ります。特に、優良事例の横展開について、交付金での財政支援も含め、できるだけ効果的、効率的に行い、それによって横展開のスピードを上げていくことも重要です」(土生氏)。

横展開の加速に向けては、先行して取り組んでいる行政サービス分野、防災分野に続いて、医療・健康・子育て、公共交通、教育等の主要分野ごとに優良事例を支えるサービス/システムを整理し、自治体が自分たちに合ったものを選べるようなカタログ化をデジタル庁と連携して進めていく。

また、従来から取り組んでいる地方創生推進策を、もう一段パワーアップしていくことも重要になる。2023年度予算では、子育て世代が移住する場合の移住支援金を拡充しており、今後は若者のUIJターンへの支援も検討していく。そして企業の移転に関しては「転職なき移住」のほか、「仕事ごと地方へ」という本来の地方移転も促進する。

これらの課題も含め、施策の深化・具体化や新規施策に関する当面の重点検討課題を整理した上で、政府内で検討を進め、年末に改訂を行う総合戦略に位置づけ、その実現を図る方針だ。

地域創生Coデザイン研究所
モデル化を進めて横展開も

株式会社地域創生Coデザイン研究所 代表取締役所長 木上 秀則氏

地域創生の取り組みを進めているNTT西日本では2021年に、地域創生Coデザイン研究所を設立した。「地域ごとに様々な課題があり、私たちはその単位でプロジェクトを進めてきました。今後はさらにモデルを絞り込み、『地域創生システム』として横展開していきたいです」と、地域創生Coデザイン研究所代表取締役所長の木上秀則氏は語る。

代表的なプロジェクトとして次の4つを紹介。①森林・林業DXによる自然資本循環型のプロジェクト、②地域の観光資源を起点とした持続可能な観光地経営のプロジェクト、③スマートシティを通じた地域共創型のまちづくりプロジェクト、④「デジタル通貨」をフックに市民の方々との共創したまちづくり、である。これらの実践事例を「地域創生システム」という形で水平展開していきたいと考えている。

「情報通信技術(ICT)は私たちの本業で、最新の技術を高度な形で安心・安全、丁寧にお届けすることが使命です。NTT西日本グループは30府県に支店を配置し、これらの実践事例を地域創生システムとしてさまざまな地域で展開しています。社員には各地域の地元出身者も多く、地元で活動できることが私たちの強みです」(木上氏)。

地域創生システムでは、「リアル活動」と「デジタル活用」を組み合わせた取り組みを行っている。例えば、森林・林業のDXでは需要と供給をデータでつなぎ、見える化やデジタル化、そして消費を活性化する取り組みがモデルのベースになっている。

「宮崎県諸塚村の森林・林業DXの取り組みでは、クラウド技術や人工衛星、ドローンを活用して様々なアナログデータをデジタルに変え、使う方々にもわかりやすいインターフェースを提供していきます。リアルの部分はNTT西日本宮崎支店や地域創生Coデザイン研究所、そして大学や県、各業界の組合の皆様にも入っていただき、テーマを共有しながら進めます」(木上氏)。

また、大分県では現在、「障がい者の雇用促進」と「地域企業のDX化」によって、多様性が活かされる共生社会を実現するための取り組みを進めている。障がい者の人たちの雇用を拡大し、地元企業の労働力不足を改善するため、マッチングを促進して中小企業のDXも進めていく。障がい者雇用の特例子会社であるNTT西日本ルセントのノウハウを活かし、今後は地域創生システムとして昇華させ、水平展開もめざすという。

デジタル活用による住民参加型の
持続可能なまちづくり

西条市長 玉井 敏久氏

パネルディスカッションでは、デジタル活用による住民参加型の持続可能なまちづくりに取り組む愛媛県西条市と奈良県天理市の市長を迎え、地域の課題や現在の取り組み、今後の展開について議論が交わされた。

西条市長の玉井敏久氏は、西条市と西条市SDGs(持続可能な開発目標)推進協議会が運営する地域ポイントサービス「LOVE SAIJOポイント」を中心とする地域創生への取り組みについて説明した。市では2019年にNTT西日本の提案を受け、新たな地域創生の実現に向けた検討を開始。地域ポイントの活用による住民行動の変容創出や、シビックプライドの醸成に着手した。

また、2021年度、内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、翌年、その推進体制構築に関する包括連携協定をNTT西日本四国支店などと締結。さらに内閣府のデジタル田園都市国家構想推進交付金にも採択され、「持続可能都市西条2050」の構築を目指している。

「LOVE SAIJO」はまちづくりのキャッチフレーズで、シビックプライドの醸成にも関わる。LOVE SAIJOポイント事業は、住民活動の促進や地域経済活性化を目的として実施している。この事業で使われているLOVESAIJOプラットフォームでは、SDGsに関する取り組みや貢献度を「SDGsメーター」で可視化している。LOVE SAIJOポイントは、市民がSDGs関連の活動に参加した場合や市内の取扱店で買い物などの消費をした時に付与され、市内の取扱店で利用できる。

「地域内の消費もSDGsに資する活動ですが、地域貢献活動でLOVE SAIJOを付与する際にはSDGsのゴール単位でメーター値を付与します。それによって、市民が自分のバロメーターという形で環境・社会・経済のバランスを見える化し、SDGsを自分事化できるような仕組みを構築しています」(玉井氏)。

市の人口は約10万人だが、昨年度末にはアプリのユーザー数が4万人を超えた。市ではこの取り組みを通じ、「自分の行動変容が地域づくりに役立ち、まちづくりの主役は市民だ」という意識が市民に芽生え、大きなムーブメントとなった。

一方、地方都市が抱える大きな課題は人口減少や少子高齢化で、四国では全国の他地域よりもそれらが速く進んでいる。「今後はその解決や持続可能都市の実現に向けて、私たちが先進的なモデルを構築していければ良いです」と玉井氏は語った。

西条市のアプリを横展開し
天理市もデジタル通貨を活用

天理市ではラグビーや柔道などのスポーツが盛んで、観光とも結びつけるスポーツ・ツーリズムの取り組みのほか、音楽関連のイベント開催にも力を入れている。他にも、地元の電気製品を扱う企業が若手農家と一緒にスマート農業に取り組み、CO2濃度や様々なデータを収集しながら新規就農者も農産品を作れる取り組みを進めている。

「農産品ではオーガニック等で付加価値を付けることに、農家が企業と一緒に取り組んでいます。市ではさらに公民館活動と学校教育の連携を強化し、生涯教育と学校教育を融合させようとしています。このような形の政策間連携でまちの価値を高めていこうとする中、デジタル地域通貨『イチカ』を活用した取り組みも始めています」。

天理市長の並河健氏は、市内の取り組みについてこう話す。イチカについては、2020年に市と「ICTを活用したまちづくりに関する連携協定」を締結したNTT西日本から西条市の事例が紹介されたことをきっかけに検討を開始した。

天理市長 並河 健氏

イチカでは健康増進活動等の地域の活動に参加した市民にポイントを贈呈し、そのポイントを地域の店舗やサービスで利用してもらうことで、地域の活動や経済の活性化を目指している。さらに、イチカによる地元消費の一部が子育て支援など地域の支え合い活動に還元される「イチカプラス」の取り組みも実施している。

現在、市内の約400店舗でイチカを使うことができ、そのうち40店舗では「イチカプラス」により売上の一部をこども食堂やスポーツグラウンド整備などの地域の活動に還元している。活動内容はSNSでも発信し、デジタル地域通貨を使ってまちを良くする仕組みへの共感を消費喚起にもつなげようとしている。

「大事なのは市民が『暮らしが便利になった』、『良くなった』と実感できることです。高齢者の方々に対しては、地域包括支援センターで困りごとの聞き取りを行い、デジタル上で助けてくれる人とマッチングするサポートも行っています。その際、イチカも活用します。ですから、デジタル弱者といわれる高齢者自身が操作しなくても、デジタル化の利益を受けていただくことは十分可能だと思います」(並河氏)。

一方、デジタルを活用した地域創生の取り組みでは、「西条市のアプリが天理市でも導入されたように、他地域への横展開も重要になります」と地域創生Coデザイン研究所の木上氏は指摘する。例えば、デジタル通貨の事業ではサービスやアプリを作るだけでなく、市民や事業者からの問い合わせを受けるコールセンターなども必要だ。また、地域ポイントに関わる精算など事務作業でも負荷が生じる。さらに安全・安心な形でのデータの保管や、不正使用を防止する認証の仕掛けづくりなども必要になる。

「一言でデジタル通貨と言っても様々な機能をしっかり備えて、垂直型のサービスとして展開していくことが大切です。そのためには横展開も重要になり、垂直的にかかる手間やコストをどのようにシェアしていくかがポイントになります。私たちはこれをうまく横展開し、縦にパッケージしていくことを目指していきます」(木上氏)。

パソナグループ
淡路島を「健康島」に

総合人材サービスのパソナグループは、人を活かす地方創生に取り組んでいる。2020年9月には、淡路島の兵庫県淡路市への本社機能の一部移転を発表し、当時の本社機能の1200人分の仕事を約5年かけて移転することとした。/p>

「3年半が経過して、500人弱の社員が移住しており、家族も含めると1000人弱の移住になります。さらに地元の方々も雇用して、現在約2000人のコミュニティができています。私たちはここで真に豊かな働き方や生き方、 Well-beingの実現を目指します。そして地方発の夢のある新産業や、そのモデルを作っていきたいという強い想いを持っています」パソナグループ常務執行役員の伊藤真人氏は、こう語る。

パソナグループ 常務執行役員 伊藤 真人氏

本社機能の一部移転に先立ち、パソナグループでは既に2008年から淡路島で持続的に事業に取り組んできた。その中で一貫して進めているのは農業と観光、そして地域の様々な遊休施設の活用だ。

2008年にパソナグループが初めて淡路島で始めた事業は、若者の独立就農を支援する農場「パソナチャレンジファーム」だった。「若者が農業をここで学び、会社に就職するような感覚で農業に参入できるよう育成しています。これまで約300人が学び、現在、淡路島も含めて全国で農業者として活躍し始めています」(伊藤氏)。

また、2022年からは淡路島を「健康島」にする構想も進めている。淡路島には農ある暮しを体感するレストランや禅を通じたリトリート施設があり、昨年秋からはWell-beingに関する様々なイベントも開催している。

パソナグループでは他にも、全国の様々な自治体と共に「地域共創プロジェクト」を進めている。「昨年からは特に、社員が自分の出身地に関わる地域活性のプロジェクトに取り組む事例が出て来ています」と伊藤氏は言う。例えば、山口県の下関市では2023年4月に協定を結び、廃校の利活用や移住促進に取り組んでいる。また、岡山県真庭市でも地域産品を活かした商品開発や移住・就農の希望者へのサポートなどを行うことで、しごとの創出と定住促進につなげる活動を始めている。

NTT社会情報研究所
  ワークインライフ充実を支援

地域創生推進コンソーシアムでは、「Social Well-being」をビジョンとして掲げている。「私たちはその中で、未来社会のデザインを担当しています」とNTT社会情報研究所所長の鈴木勝彦氏は説明する。

NTT社会情報研究所 所長 鈴木 勝彦氏

「Social Well-beingは、地域住民である個人の自律と地域社会における集団の調和が利他的共存していることを意味します。私たちはこれを実現し、誰もがどこにいても相互に助け合いながら生き生きと暮らし、働ける世界を目指します」と鈴木氏は話す。

これまでの社会では経済価値の最大化を目的に、仕事の選択肢が多い都市部に人口が集中していた。しかし、人口減少が進む現在は、価値観の転換が必要になっている。このような中、新しい価値観として求められるのは、仕事を人生の要素の1つと捉える「ワークインライフ」という考え方だ。そこでは仕事を、家族との時間や学びの時間、地域社会との時間と同等に扱う。

「ワークインライフという考え方は、地域の魅力を活かし、その地域で人々が生き生きと暮らすことを考えた場合に親和性が高いと思います。今後は大都市に集まっていた人たちが地域で暮らすようになり、その中でWell-beingの価値を高めていくことが大事です。私たちはそのような社会を『分散型ネットワーク社会』と捉え、推進していきたいと考えています」(鈴木氏)。

分散型ネットワーク社会を実現する上でのポイントは、以下の2つだという。第1に、どこでも暮らし、働けることがあり、その手段となるのはリモートワークだ。第2に、ワークインライフの充実がある。この点について鈴木氏は、「難しい課題ですが、人生を充実させるためには自分のことを知り、自分が何をしたいのかを考え、その実現に向けて人とのつながりにより共創していくことが大事だと思います」と指摘する。

分散型ネットワーク社会の実現に向けて、NTTグループは、どこにいても暮らし、働ける仕組みとして、2022年7月から「リモートスタンダード制度」を導入した。この制度では、社員は国内のどこに住んでも良く、ハイブリッドワークとしてリモートワークと出社を組み合わせた勤務が可能になっている。社員本人の希望を尊重する点も、制度のポイントだという。

コロナ禍が落ち着いてきたこともあり、現在はコミュニケーション不足やメンタルヘルス等への懸念から、世間では出社回帰の動きも多くみられる。しかし、NTT社会情報研究所ではリモートワークを地域創生の鍵と考え、その懸念を解消し、強みを活かすための研究開発を推進している。

その1つは、コミュニケーションを支援する「Well-being支援技術」だ。この技術ではWell-beingを感じる要因が書かれた「わたしたちのウェルビーイングカード」を利用して、価値観の相互理解やチームビルディング、アイディエーションの改善を行っていく。第2に、Well-beingの状態を計測して改善のサイクルを回すための「Well-being計測技術」だ。

「他にもワークインライフの充実を支援する仕組みとして、高野山の伝統文化を活かして自己認知とつながり構築を支援する研究開発も推進しています。これらの取り組みを通じて分散型ネットワーク社会を実現し、Social Well-beingな社会を目指していきたいです」(鈴木氏)。

事業構想大学院大学 情報を共有
して暗黙知を形式知に

事業構想大学院大学は、地域との連携活動による人材育成に力を入れている。「特に産官学に加えて、地域の金融機関やメディアとの連携も重視しています」と同大学の田中里沙学長は強調する。

地域ポイントについて議論したパネルディスカッション。
左から、事業構想大学院大学学長の田中 里沙氏、玉井氏、並河氏、木上氏

例えば、長崎県は西九州新幹線の開業や、オール九州で2027年の開業を目指す「九州・長崎IR構想」推進など地域創生と産業構造転換のチャンスを迎えている。このような中、事業構想大学院大学事業構想研究所は2023年4月から、「長崎新価値創出プロジェクト研究 第1期」を長崎放送と共に開講。長崎市近辺を中心とする地元企業や自治体らが参加し、新たな価値や新事業の創出に取り組んでいる。

東日本大震災から10年以上が経過する中、福島県南相馬市では昨年3月、「地方創生及び人材育成の推進に係る包括連携協定」を締結した。これに基づき、現在、地方創生や人材育成を目的とする「南相馬市プロジェクト研究」を進めている。「市民を主役に、東京や大阪に拠点を置く企業も参加をして南相馬市の地域資源を研究し、新しい事業を起こそうと盛り上がっています。本学は多様な方々を結びつける装置としても貢献していきたいです」(田中氏)。

同大学が主催する地域のプロジェクトを動かすブリッジ人材を育成する「地域プロジェクトマネージャー養成課程」では、具体的な事例やメソッドを学ぶとともに、地方自治体の具体的な課題に対して政策提言を行い、自治体首長・幹部や教授からの講評・指導を直接受けることができる。既に100名以上の修了生がおり、実際に地域プロジェクトマネージャーとして任用され、行政で活躍している人材や地方議員になった人材もいる。

社会人向け大学院には様々な職業、多彩なバックグラウンドを有する人材が集う。豊富な経験や知見を元手に強みを発揮し、「暗黙知」を「形式知」に変えることで、魅力的な知を誰もにわかりやすく、必要とされる場所に展開していくことが可能になる。高等教育機関としての研究力も活かしながら、デジタルやデータの力で状況や仕組みを見える化することも欠かせない。「多くの人材が研究をし続け、自身の可能性を高められる社会の実現に向けて、本学自体も工夫やアイデアを重ねて発展していきたい」(田中氏)。

公民共創を牽引する
人材の育成が重要に

Social Well-beingをビジョンとして標榜し、コンソーシアムのメンバーが地域と一体となって取り組みを実践する中、「今後の取り組みを進めるに当たり、一番のポイントになると思うのは人材です」とNTT西日本代表取締役副社長の上原一郎氏はみている。

NTT西日本 代表取締役副社長 上原 一郎氏

「様々な取り組みで壁に突き当たるのは、人の数よりも質と言った方が良いかもしれません。今後は公民共創をしっかりリードできるような人を育てていくことが重要です」と上原氏は指摘する。地域創生ではデジタルとリアルの双方を組み合わせ、「B to B to X」型の持続可能な共創循環による地域創生システムを構築することが必要になるが、それと両輪を成すのが地域を活性化する人材だ。

持続可能な共創循環では、まず課題を探索してシナリオを構想し、社会実装まで行い、さらに次の課題を探索する。その際、さまざまなサービスや技術、ソリューションを各フェーズで提供していく地域創生システムは主にデジタル側が担う。他方でリアルの部分を担うのは、地域創生の人材となる。

このため、人材育成の仕組みと地域での活躍を推進する仕組みの二本立てで、公民共創を牽引する人材を育成していくことが求められる。

上原氏は「大きく捉えた地域創生のシステムについてブラッシュアップしながら、ここを担う人間を育て、取り組みを進めていきたいです」と述べた上で、「私たちが目指すSocial Well-beingの世界を実現するために皆さんと一緒に前進していきたく、引き続きのご理解、ご協力をいただければ幸いです」と締めくくった。

 

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