実務家教員に必要な2つの能力 専門職大学制度化の影響

法科大学院における実務家教員

2003年に創設された専門職大学院において、実務家教員は高度の実務能力と実務経験と教育能力があればよいとされた。いかようにも捉えることができる実務家教員の定義は、専門職大学院が法科大学院構想とともに成立したことと関係している。専門職大学院の一例として、法科大学院でも実務家教員を必ず置かなければならない。法科大学院で実務家教員に該当するのは、法曹三者――判事・検事・弁護士である。(厳密に言えば例外もあるが)法曹三者になるためには、すくなくとも司法試験に合格していることが必要である。つまり法科大学院における実務家教員の実務経験・能力を司法試験合格に担保させていたといえる(高度の教育能力がどこで担保されていたのかは解決されていないが…)。

実務家教員の定義のゆらぎ

法科大学院のように、国家試験や資格などと結びついた教育課程であれば実務家教員も定義しやすい。だが、実際の専門職大学院は法科大学院にとどまらなかった。教職大学院であればまだしも、いわゆるビジネススクールと呼ばれる経営系専門職大学院など必ずしも資格とは結びつかない専門職大学院が増えてきた。それぞれの実務領域において、どのようにして実務経験や実務能力を担保していけばよいのだろうか。

実務家教員の定義の課題は専門職大学院の領域の多様化だけにとどまらない。高等教育の無償化を適用させる要件として、実務経験のある教員の授業がもとめられている。また、2019年に制度化された専門職大学は、さまざまな専門職/職業教育を実施する大学種である。専門職大学でもおよそ4割の実務家教員を配置することが定められている。

実務家教員の定義問題

実務家教員に必要な能力は、おおきく2つである。ひとつは、教育に関する能力である。もうひとつは、実務に関する能力である。筆者は、教育に関する能力をさらに2つに分けることができると考えている。ひとつは、授業をすることができる能力である。例えば、学生の興味や理解度に応じて、話し方や質問の仕方を変えることができるかどうかである。もうひとつは、授業組み立て設計をすることができる能力である。例えば、自分が指導する専門領域のカリキュラムや教材を作成することができるかどうかである。いずれにせよ、実務家教員には2つの教育指導力が求められる。一方、実務に関する能力は、実務経験を通じて身につけた実務能力である。実務に基づいて教育をすることを期待されている実務家教員にとって、実務に関する能力は、当然のことである。もし厳密に実務家教員の能力を判定しようとしたら、それぞれの領域の評価するための指標が必要になる。

専門職大学が制度化された結果、ある一定数の実務家教員には研究能力が求められるようになった。実務家教員にとって、研究能力とはいったい何なのだろうか。研究者教員と実務家教員とが同じ研究能力を求められるとは考えにくい。実務家教員の研究能力を明らかにするには、実務家教員に期待される知識の内容や性質を探る必要がある。

実務家教員には、教育に関する能力と実務に関する能力の双方が求められる。