公共ライドシェアサービスの先駆け 舞鶴市長に聞く4年間の取り組み
一般ドライバーが有償で顧客を送迎するライドシェアが2024年4月に条件付きで解禁された。これを受け、全国の自治体でライドシェアサービスの導入が進んでいる。京都府舞鶴市は2020年から実証実験を進め、普及に取り組んできた。舞鶴市のこれまでの取組みと課題、今後の方向性について話を聞いた。
SDGsの理念に沿った取組を推進し、新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現する「SDGs未来都市」にも選ばれている舞鶴市。そのなかでも「持続可能なまちになるための根幹となるのは人」と、同市の市長を務める鴨田秋津氏は語る。同市では、毎年自然減で500人、社会減で500人の計1000人の人口が減っているのが現状。「人口減少は受け入れつつも次世代が活躍するまちにするため、舞鶴で結婚、出産をしたいと思える政策のほか、子どもたちの郷土愛を育む政策にも注力しています」と述べる。
人口減少に加え、コロナ禍の影響も加わって、同市における公共交通の利用者は2019年の約196万人から2023年には約179万人に減少している。舞鶴市では毎年バス会社に約1億2000万円、ローカル線の京都丹後鉄道に約9500万円の補助を行っているほか、誰もが割安にバスを利用できるバスクーポンの発行や、土日祝の前日に増便を促すためのタクシー事業者への補助といった施策も実施している。「利用者側からすると増便をしてくれないから利用できない。事業者からすると増便すると赤字が増える。ニワトリが先か卵が先かの議論になりがちですが、そこを埋める施策をひねり出しているところです」。
ライドシェアサービス「meemo」
2020年度から実証実験を開始
同市では公共交通の課題を解決する手法の一つとして2020年度、オムロンソーシアルソリューションズ(OSS)、日本交通の協力を得て、高齢者をはじめ交通弱者の移動手段の確保に向け住民同士が送迎するライドシェアサービス「meemo」の実証実験を高野地域で開始した。「公共交通が減り、市民から足がないという声が多くあがっていました。一方で公助のみで交通手段を維持するのは難しいのが現状です」と、サービスに着手した経緯を語る。
高野地域を選んだ理由については、路線バスや自主運行バスを運行していない地域で、かつ住民同士のコミュニティが築かれているエリアであることを重視したという。「区長さんをはじめとする高野地区の皆さんが地域の将来を考え前向きに取り組んでくださったことに加え、若手職員が中心になってアプリの使い方の指導など地域にしっかり入り込んでいくなど地道に活動を続けてきました。一方で、公共交通事業者との調整も行い、地域の足を確保するというユーザー視点で納得してもらいました」と話す。
その後、2年間の実証実験を経て、2022年6月から本格導入。そして2024年4月のライドシェア規制の緩和を見据え、24年2月には高野地区住民の有志者で「高野地域協議会」が発足し、4月からは同協議会が舞鶴市から運行主体を引き継いで事業を運営していくこととなった。それまでは、利用者1回の送迎あたりの利用料700円分を市が助成していたが、4月からは有償化に踏み切った。「空き時間を利用してドライバーになってくださるコアな登録者はおられますが、ドライバーになっていただく方を増やしていくことでさらなる利用増につながってほしい。また、現状では電話予約が多いのでアプリを通じた利用を増やしていきたい」と今後に向けた課題についても触れた。
他地域への展開も視野に
タクシー事業者の参加も期待
今後の取り組みについては、高野地域の取り組みを発信し、他地域へ波及させたいと述べる。「既存の路線バス、自主運行バスが走っておらず、タクシーを呼ばないと移動手段がないという地区には広がっていってほしいなと思いますし、地域自らが主体となって取り組んでいこうという地域に対しては市も応援していきたい」。
すでに興味を持つ地区も現れているという。また、将来はタクシーライドシェアも実施したいとも語る。「見知らぬ人に運転をしてもらうことに抵抗感を持つ方もおられるので、プロの事業者にかかわっていただくことが重要だと考えています。そのためには、これならば使いたいと思ってもらえるようアプリをレベルアップすることも欠かせません。そうなればライドシェアもさらに普及していくのではないでしょうか」。
舞鶴市は2019年、OSS社と2030年を見据えた地方の社会的課題解決のための包括連携協定を締結し、ライドシェアだけでなく防災モニタリングシステムの構築などを手掛けてきた。「同じ京都府に拠点を置き、問題意識を共有し気軽に相談できる企業として、今後もさまざまな面で協力し、持続可能なまちづくりを進めていきたい」と話す。
本取り組みを支援するOSS社は「人口減少が進み、公助が難しいからこそ、meemoを通して、地域のコミュニティを活性化に繋げていきたい。舞鶴市の事例を活かして、他の地域でも同様の取り組みを広げていけたら」と今後の抱負を語った。
舞鶴市高野地域で
定着するライドシェア
── 高野地域における交通課題と、なぜライドシェアを始めたのかについてお聞かせください。
高野地域協議会会長 平野 光雄氏
高野地域には公共交通機関がありません。30年ほど前に路線バスが廃止になり、マイカーが住民の足になりました。どこもそうだと思いますが、その後高齢化が進み、外出できない人(外出に不便を感じる人)が増えてきました。自主運行でバスを走らせようという話もあったのですが、結局実現しませんでした。
そこへ、市とオムロンさんからITを使ったライドシェアを使ってみないかという話があり、やってみようとなりました。
── 実証実験はどのように進めたのでしょうか。
高野地域協議会副会長 森脇 浩氏
先ずはスマートフォンの使い方を学ぶスマホ教室を、地域の自治会連合会の協力を得て各所で数多く開催しながら、ドライバーと利用者の登録を増やしていきました。当初、市街地から離れた地域の利用者が多いのではと思っていたのですが、実際は却って市街地に近い地域の利用者が多かったです。
自主運営組織としての協議会設立は2023年度に1年かけて準備を進め、年度末2月に設立した後3月に事業者登録を済ませ、24年4月から有償化しました。有償化後の利用率は無料の時と変わっていません。利用者も感謝の気持ちを形にできると前向きにお支払いいただいています。現在会員登録をされた方は104人、そのうちドライバーは11人で運営しています。
── 今後、地域で移動の足を確保、維持するために実施する取組についてお話しください。
平野氏
まずは、ライドシェアのためのアプリ「meemo」が地域の中で受け入れられるようになること。アプリが使われるということは、スマホ利用者が増えるということです。また、回覧板などの紙でのお知らせには限界を感じているところです。スマホによる情報共有を自主防災の取り組みにつなげると共に、草刈りの集まりなど地域のための活動促進につなげたいです。そして住民が主体となり、住みやすい地域づくりに自ら取り組めるコミュニティとしていきたいです。
お問い合わせ先
オムロンソーシアルソリューションズ株式会社
ソーシャルデザインセンター
MAIL:miki.yokota@omron.com
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