クックパッドの共創手法 新事業は社会課題のマップ化から

料理レシピの投稿・検索サービスとして不動の地位を築いたクックパッド。料理・食に関する社会課題をマップ化し、家庭での料理の地位や食文化の向上を実現するために、ベンチャー企業との協業を目指したアクセラレータプログラムを実施した。

住 朋享(クックパッド事業開発部 Cookpad Venturesグループ長)

料理レシピや動画を提供する企業、クックパッドは、2018年に創業から20年を迎えた。2009年にマザーズに上場し、2011年に東証一部に市場を変更。世界各地のレシピサイト運営企業の買収等を通じて積極的に海外展開を進め、現在は23言語、68カ国でサービスを提供している。

そんなクックパッドが、2017年に開始した新しい取り組みが、「クックパッドアクセラレータ」だ。アクセラレータの運営はゼロワンブースター(東京都港区)が支援している。

表 クックパッドアクセラレータに参加したベンチャー企業

住氏が、東京都が運営する青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)のメンターを務めていることもあり、応募企業のレベルは高かった

料理と食に関する社会課題を分析

クックパッドアクセラレータを立ち上げた、同社事業開発部Cookpad Venturesグループ長の住朋享氏は、そのテーマ設定「地球のこれからを作る」の背景を、「料理は誰でも使える魔法。料理することで皆が健康になり、幸せになるような事業を、オープンイノベーションにより起こしたいと考えた」と説明している。

クックパッドが今回、アクセラレータプログラムを実施することを選んだのは、個別交渉ではやるかやらないかの判断に時間を浪費し、ベンチャーのためにも良くないと住氏が考えたためだ。「アクセラレータは、開始の時点で会社のコミットが決まっています。社内の合意を取り付けているので、進捗も早いのです」と同氏は説明する。

クックパッドは、「毎日の料理を楽しみにする」をミッションに掲げ、世界中の料理に関する課題解決を推し進めている。同社は料理レシピの投稿・検索サービスとして業容を拡大してきた。インターネットに掲載されたレシピは、それまで雑誌や新聞、書籍に掲載されていた紙のレシピに代わるものとして、人々に受け入れられている。

しかし、テクノロジーの進化によってAIやIoT等、スマホやPCに変わる手段が増えると、人々がクックパッドのレシピを使って料理をしなくなる時代が来るかもしれない、という危惧が住氏にはあった。社会の中で「家での料理」の優先順位が下がれば、レシピを見る人の数は減っていく。

そこでクックパッドは「食と料理に関する社会課題マップ」を作成した。その結果、家庭における料理に影響を与える「悪循環」が見出されてきた。例えば、ひとりで食事をとる人が増えると、外食などへの依存が増え、料理を作らなくなることで調理のスキルが低下し、さらに料理をしなくなる。生産と消費が離れると、食の工業化と食材の画一化が進み、料理の文化が衰退し、ますます画一化が進んでいく。

この課題マップを作成することで、クックパッドの事業領域が「料理スキルの減少」を解決するものにとどまっていることが明らかになった。クックパッドアクセラレータは、「マップ上のその他の課題を解決することで料理の作り手を増やし、より良い世界になる循環を産む」を目標に始動した。

2次にわたる選考とビジネスプランコンテストを通過し、2018年1月からのアクセラレータプログラムに参加したのは5社(下表参照)。6月のデモデイを前に、クックパッドと共に様々なプログラムを進めている。

(出典)クックパッド経営陣と住氏らが作成した課題マップ

異業種他社との協業から学ぶ

5社のうち、アドウェルとビビッドガーデンは、クックパッドの事業開発部の一角にオフィスを構える。「アントレプレナー・イン・レジデンスという形態で、日本では他に実施している企業はないのでは」と同プログラムを支援したゼロワンブースターの松本泰拓氏は話す。両社は2017年末に、1年間の契約でクックパッドと「同居」することになった。「社内に事務所があると、新規事業担当の部署以外の人ともコミュニケーションが取れ、皆が刺激を受けられます」と住氏は言う。

2018年6月のデモデイを前に、各社との協業の実装が進んでいる。例えば、リンクアンドシェアとは、地方の食品加工場の製品にクックパッドのレシピを付け、スーパーの棚に展開する試みを始めた。ユニークな珍味、調味料、ジャムなどを生産している中小メーカーが抱える課題は、流通だ。クックパッドのブランディングで実店舗に商品を置けるようにし、その使い方とあわせて消費者に届けようという作戦だ。

リンクアンドシェアの主な事業は、スーパー、百貨店、外食、通販などの買い手企業と中小食品企業のマッチング。ネット企業であるクックパッドにとって協業による学びは大きかった。事業領域の異なる企業の文化や課題感を知り、自社で足りない要素やデータなどに気づけるのも、アクセラレータプログラムの利点だと住氏は指摘する。

住氏は、次回のアクセラレータプログラムでは、ベンチャーとの協創に加え、起業家と組んだ事業の立ち上げや、大学との共同研究・事業化、他の事業会社との連携も実施したいと考えている。また、プログラムへの参加企業を、発展途上国を含む世界から募ることも、将来的な目標の一つだ。

スーパーの棚で、クックパッドのレシピカードを付けて地方食品メーカーの製品を紹介する