2018年4月号

環境会議

経営基盤である水保全は、持続可能な事業活動の柱

福本 ともみ(サントリーホールディングス 執行役員、コーポレートサステナビリティ推進本部長コーポレートブランド戦略部長)

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サントリーグループでは2005年から「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージに掲げている。ウイスキーやビール、清涼飲料など顧客に水と自然の恵みを届ける企業として、水や水を育む環境を守る活動を展開している。子どもたちに水や水を育む自然の大切さを伝える「水育」の活動は、海外にも広がりつつある。2003年に開始した「天然水の森」活動や、経営基盤である水の保全は、グループの事業活動そのものだという。

 

 

グループの創業精神に基づく「水と生きる」のメッセージ

―「水と生きる SUNTORY」という企業メッセージに込められた想いをお聞かせください。

サントリーグループには「やってみなはれ」、「利益三分主義」という2つの創業精神があります。「やってみなはれ」は、人がやらないことに挑戦し、諦めずにやり抜き、夢をしっかり形にしていこうという精神です。

創業者の鳥井信治郎は初の本格国産ウイスキーをつくり、洋酒文化を日本に根付かせました。戦後は寡占市場だったビール市場に参入し、40数年かけて黒字化を達成するなど、この精神はサントリーのどの事業にも体現されています。

「利益三分主義」も、サントリーグループにとって普遍の価値観です。鳥井は、事業で得た利益は次の事業に投資するだけでなく、お取引先や社会にもお返ししていこうと考えました。その根底には、私たちが事業を継続できるのは、お客様がいらっしゃり、市場が健全であるからだという考え方があります。お客様や市場と共に発展しなければ、企業のサステナビリティもあり得ません。

戦前の貧しい時代には、無料診療院などの社会福祉活動が中心でした。これらの活動は老人ホームなどの運営に形を変え現在も受け継がれています。また、高度経済成長期、二代目社長の佐治敬三は「日本人には、ものの豊かさだけでなく、心の豊かさも必要である」との強い想いから、サントリーホールやサントリー美術館などの文化芸術活動を始めました。

戦時下にも展開されたウイスキーの品質広告(1941年)

また、公害問題が大きな社会課題となった1970年代には、サントリーは愛鳥活動をはじめ環境保全活動にいち早く取り組みました。1990年代以降、地球環境問題が世界的に重要課題として認識されるようになると、専門部署を設置して環境問題への取り組みを強化しました。2005年には「水と生きる」というコーポレートメッセージを定め、全社をあげて環境経営を推進しています。

ここで敢えて「水」をメッセージとして強く打ち出しているのは、サントリーの製品の原材料は水をはじめとする自然の恵みがなければ成り立たず、サントリーの存続は水の持続可能性の上に成り立つものだと考えるからです。

この「水と生きる」には、3つの意味があります。

1つ目は、自然を守る地球の恵みである水資源を、将来にわたって持続可能にしていくということです。地球にとって貴重な水を守り、水を育む環境を守る。良質な地下水の持続可能性の保全を進めるのは、私たちの大切な責務です。

2つ目は、水のように社会に潤いを与え続ける企業になりたいという思いです。私たちはお客様に飲料をお届けしていますが、単にのどの渇きを癒すだけではなく、リラックスやリフレッシュできる心豊かな時間を持っていただきたいという思いも込めています。そのために、新たな価値を持った製品や新しい飲み方を提案し続けています。同時に、芸術文化などを通じて皆様に心の豊かさをお届けすることも、私たちのミッションだと考えています。

そして3つ目の意味は、私たち自身が水のようにありたいという思いです。私たちは水のように変幻自在で、常に新しいことにチャレンジしていこうとしています。これは、創業精神である「やってみなはれ」そのものなのです。

「天然水の森」で水源を守る活動を展開

―具体的な取り組みには、どのようなものがありますか。

サントリーグループの事業は現在、グローバルに拡大しており、企業グループの在り方も大きく変化しています。売上では海外比率が約4割を占め、グループ全体で約3万8000人いる従業員は海外の従業員の方が多くなっています。

ですから、私たちはグローバルな社会の課題に真摯に向き合い、お返しをしていかなければなりません。それは何かと考えた時、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が1つの指標となります。SDGsの採択文書には「目標を達成するには企業のイノベーションが欠かせない」と書かれており、これは企業への大きな期待を示しています。

SDGsとサントリーグループのビジネスを照らし合わせると、グループ共通で取り組むべき課題は、水、気候変動、責任ある生産消費の3つになると考えています。中でも「水」を経営基盤とする会社であるサントリーにとって、最も重要な課題は「水」です。

サントリーでは生産現場での節水活動等はもちろんのこと、日本国内では水が将来も豊かであるよう、良質な地下水の持続可能性の保全を目的に「サントリー天然水の森」活動を展開しています。

私たちの製品は自然に恵まれた良質の地下水を使っています。雨が森や山に降り注ぎ、地中深くに染み込んで何十年もかけて磨かれることで良質な地下水となるのです。しかし、森が健全でなければ、水は地中に染み込まず、表層水として川に流れてしまいます。

そこで私たちは工場で汲み上げる地下水の水源地にあたる森を育む「天然水の森」活動を2003年からスタートし、現在、14都府県20カ所、約9000haの森林で整備活動を進めています。

水が染み込み地下水となるまでには、数十年かかります。森が整備され健全になるまでにも、非常に長い年月を要します。そこで、かけがえのない豊かな水を未来に引き継ぐため、次世代を担う子どもたちを対象に、水や自然の大切さを伝える環境教育「水育」にも取り組んでいます。子どもたちに「天然水の森」へ来て自然を体感してもらう「森と水の学校」と、小学校の教室で先生方と一緒に行う「出張授業」の2つのプログラムがあり、国内では既に約15万人が参加しています。

理念への理解は社員の誇り、仕事の質向上にもつながる

―海外では、どのような活動を展開されていますか。

国によって地理的条件や社会の意識も異なりますから、水に関する課題も日本と同じではありません。私たちは昨年、「天然水の森」活動など日本で培ってきた水のサステナビリティ活動の根底にある考えをまとめたサントリーグループ「水理念」を制定しました。まずはこれを海外グループ会社のキーパーソンに理解してもらうことから始めています。

また、言葉だけで「水循環や水源涵養活動は重要」と言っても、なかなか理解されるものではありません。そこで海外の社員に日本へ来てもらい、「水育」や「天然水の森」の整備を実際に体験してもらっています。そうした機会を通じて、水源涵養活動の必要性への理解が少しずつ進んでいるところです。

サントリーグループの理念体系。

実際の取り組みとして、2014年にグループに加わった米ビームサントリーのメーカーズマーク蒸溜所では、2016年から水源保全活動がスタートしました。また2015年からベトナムでは、小学生を対象とした水育を開始しました。ベトナムでは衛生面での水育が重要で、「しっかり手を洗いましょう」というところから始めています。さらに子どもたちの衛生環境の向上のため、水育を実施した小学校には水回りの施設の寄付も行っています。

2016年に、メーカーズマーク蒸溜所の「ナチュラル・ウォーターサンクチュアリ」にて行われたアメリカンホワイトオーク植樹の様子。
写真提供:サントリーホールディングス

このように水に関する活動は海外にも徐々に広がっていますが、本格的な展開はこれからです。今後さらに活動を広げていくには組織がしっかりしていることが重要であり、水理念だけでなく創業精神を社員一人ひとりに浸透させていく必要があります。

サントリーでは2015年に、グローバルに発展していくための学びの場として「サントリー大学」を開設し、国内外の社員に研修を通じて企業理念や創業精神の理解を深めてもらっています。また、理念を体感してもらうことを目的に、国内のほぼ全社員にあたる約7000人の社員を対象に「天然水の森」での森林整備体験研修を実施しました。この体験は会社に対する社員の誇りや一体感の醸成にもつながっており、今後はグローバルに展開していきたいと考えています。

「水と生きる」という理念が社員一人ひとりに理解され、誇りやモチベーションになれば、仕事の質の向上にもつながります。さらには新たなイノベーションの原動力にもなるはずです。そうした意味で、サステナビリティ経営は長期視点で社会や環境への貢献と企業の成長を両立させる、「トレード・オン」の関係を目指すものと考えています。

水はサントリーにとってもっとも重要な原料であると同時に、貴重な共有資源でもあります。「水と生きる」企業として、サントリーグループは事業を展開する世界各国・地域の水事情をしっかりと認識したうえで、これからも課題解決に向けグループ一体となって取り組んでいきます。

福本 ともみ(ふくもと・ともみ)
サントリーホールディングス 執行役員、コーポレートサステナビリティ推進本部長コーポレートブランド戦略部長
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