2018年3月号

地域×デザイン2018

空き店舗が急減 「歩く喜び」のデザインで再生した商店街

前田 圭介(建築家、UID代表)

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アーケードを撤去し、開放感のある緑化空間にリニューアルした福山本通・船町商店街。通行人が増加し、30店あった空き店舗は10店以下まで減少。新しい商店街デザインはどのように生まれたのか。

2016年7月にオープンした福山市本通・船町商店街「とおり町Street Garden」。アーケード天蓋を撤去して上空にステンレスワイヤーを架け渡し、合計7,000本の植樹を実施した。歩きたくなる商店街に生まれ変わったことで、空き店舗問題の解消にも繋がった(写真提供:福山観光コンベンション協会、撮影:小畠由紀子)

空と緑に囲まれた商店街

広島県第2の都市である福山市。その中心部の本通・船町商店街が2016年7月に「とおり町Street Garden」としてリニューアルオープンした。

商店街の代名詞であるアーケード天蓋は撤去し、そのかわりに上空に約7,000本のステンレスワイヤーを架け渡し、開放感のある空間に。約450メートルの通り沿いには多くの樹木が植えられ、季節ごとに違ったまちの表情が楽しめる。思わず空を見上げ、そぞろ歩きしたくなる商店街に生まれ変わったことで、通行人の増加や空き店舗問題の解消といった確かな効果が生まれている。

「歩く喜びを失うと、まちは本当に退屈でしかなくなる。歩いて気持ちがいいストリートスケープをつくることが、商店街存続の鍵だと思いました」。そう話すのは、建築家の前田圭介氏(UID代表)。商店街組合の依頼を受け、とおり町Street Gard

全100店舗の3割が空き店舗化

本通・船町商店街は江戸時代に栄えた福山城下町をルーツに持つ。太平洋戦争での商店街焼失も乗り越え、400年もの間ずっと福山の住民と経済を支えてきた。しかし、新幹線駅福山であっても中心市街地空洞化の流れには逆らえず、近年では商店街の存続が危ぶまれるようになっていた。100店舗のうち30店舗は空き店舗で、店主たちの平均年齢は70歳超と高齢化も進んでいる。

特に深刻な問題は、アーケード天蓋の老朽化だ。修繕費だけで年間100万円かかり、減り続ける組合員で維持管理し続けることは最早困難になっていた。商店街存続のためにアーケード天蓋を撤去するのは既定路線だったが、天蓋の上には高圧電線が無数に走っており、景観は悪くなる。どうすればいいか―。そんな議論が商店街組合で始まった。

「市制100周年の2016年に合わせて本通・船町商店街をリニューアルしたい。協力してくれないか」という相談が商店街組合から前田氏に寄せられたのは2011年のことだ。

前田 圭介(建築家、UID代表)

前田氏は東京で建築を学び、工務店で現場監督として働いたのち、生まれ育った福山市で2003年に建築設計事務所「UID」を設立。住宅、商業施設、保育園、展示施設を国内外で手がけており、緑と光を活かした建築は世界的にも評価されている。その活躍が組合の目にとまった。

「生まれ育った好きなまちで仕事をして、地域に信頼される建築家になりたい。そのためには地域にいながら世界で活躍する、インターローカルな建築家でありたいと考えています。本通・船町商店街は子どもの頃から愛着のある場所だったので、閑散とした商店街は残念に思っていました。その商店街に貢献できるならば、と組合からの依頼を引き受けました」

プロジェクトの最初の3年間は、商店街を構成する100店舗の店主との合意形成に費やしたという(写真提供:福山観光コンベンション協会)

合意形成に3年間
行政も巻き込み、官民一体に発展

しかし、アーケード改修は「複雑な問題をはらみ、トラブルの連続だった」と前田氏は振り返る。それは完成までに5年もの歳月を要したことからもわかるだろう。

最初の3年間は100店舗・100店主との合意形成に費やされた。対話を通して前田氏が感じ取ったのは、商店主たちのアーケードに対する愛着と誇りだ。

「ある人の『30年前にアーケード建設の是非を議論したのに、わずか30年で撤去するのは馬鹿らしい』という意見にハッとしました。ボロボロの天蓋には希望という記憶が残っている。撤去は避けられないとしても、記憶を継承できるデザインにしたいと考えました」

たどり着いたものが、ステンレスワイヤーを用いる案だ。天蓋を支えていた鉄柱は残し、柱を補強して上部に丸桁を置き、7,000本のワイヤーを架け渡す。ワイヤーはレースのように風で美しくなびき、同時に天蓋の上にあった高圧電線を覆い隠してくれる。

ワイヤー案は組合員の合意を得られ、地元メディアにもアーケード改修の記事が載り、市民の機運も高まっていった。道路・植栽整備については福山市からの全面協力が得られることになり、アーケード改修は官民一体で発展していく。

植栽は、高さの異なる合計7,000本の樹木を組み合わせて鉄柱の周りに植えることで、軒を連ねる商店街の連帯感を表現した。ユニークなのは植栽の管理を商店主たちが行う仕組みだ。

「春は新緑、秋は紅葉や落葉というように四季を感じられるまち並みを形成するには、樹木を強剪定せず商店主自らで育て、守る必要がありました。そこで考案したのがグリーンパトロール隊という制度です。造園会社の指導のもと商店主が樹木の育て方を学び、交代で維持管理をしています。常緑・落葉樹といったテーマをもとに商店街全体を3つのゾーンに分け、100店舗それぞれの店主と意見交換を重ねて決定しました」

消防との調整にも奔走した。ワイヤーを道路上空に架け渡すという前例はなく、行政側から難色を示されたため、摩耗耐久試験を繰り返して安全性を実証。万一商店街に火災が起きた際にワイヤーが救助の妨げにならぬよう、親綱を切れば6メートルスパンでワイヤーが落ちるように工夫するなど、設計を工夫した。

また、歩行者が安全に歩けるようにと、警察の協力のもと社会実験を行い、両側通行だった商店街の車道を一方通行に変更。車がスピードを出せないよう路盤のデザインも工夫している。

地域に根ざした建築家の可能性

暗く寂しいアーケード商店街は、明るく自然豊かな雰囲気へと生まれ変わった。気持ちのいい通りには自然と人が集まる。リニューアルオープンから1年半、散歩やジョギングをする人は目に見えて増え、定期的に開かれる夜店イベントも活況だ。約30店舗あった空き店舗は工事期間中から入居が相次ぎ、今では10店舗を切っている。

それでも前田氏は「何かを作っただけで賑わう時代ではない。これからが本当の始まり」と気を引き締める。「昔ほどではなくても、等身大の賑わいを持続することが大切だと思います。そのためには商店主たちでイベントを定期的に開き、樹木を育て景観を維持することも必要でしょう。また、商店街同士が連携し、福山のまちを回遊できる仕組みもつくっていくべきです」

5年間のプロジェクトを振り返り、前田氏は「地元の建築家でなければ不可能な仕事だった」と語る。トラブルや口論は数え切れず、提案した設計案は何度も却下され、目の前で解任投票が行われたこともあったそうだ。そんな環境にも挫けずに前田氏が仕事を続けた理由は、地元への強い愛着と責任感に他ならない。事業を不安に思う商店主がいれば、その方が経営する喫茶店に頻繁に食事に行くなど、地道な信頼構築を続けていった。

「僕は建築家こそがまちづくりに不可欠な職能のひとつだと考えています。建築家はビジョンを掲げ、リーダーシップをとり、色々な人の意見を調整・編集し、最後は『モノ』にまで落とし込むことができる。それがコンサルタントとの大きな違いです」

地方都市がどんどん消滅していくかもしれない時代、前田氏のようなインターローカルな建築家の存在は大きいだろう。熱量の高い建築は人を感動させ、まちへの愛着や誇りを生み、そこに人が回帰する原動力となり得る。

「自分の生まれ育ったまちに一流と言える思いの込められた建築があるというのは、とても大切なことだと思います。僕は福山にそういった建築を増やしたい。福山の良さを、建築を通してもっと市民に伝えたいし、歴史あるまちを次代に継承したいと思います」と前田氏は力強く語った。

 

前田 圭介(まえだ・けいすけ)
建築家、UID代表
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