CSOラーニング制度で 「木を植える人」を育てる

次世代を担う若者たちに、環境問題や様々な社会的課題に関心を持ち、アクションを起こす人になってほしい。そんな想いを込めて、損保ジャパン日本興亜環境財団が行っている「CSOラーニング制度」は、環境NPO・NGOとの協働による有給インターンシップ・プログラムを通じ、人材を育成する環境教育事業だ。大学生や大学院生を対象としており、2000年の制度開始以降、約1000人の卒業生が社会に出て活躍している。

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出口 裕康(損保ジャパン日本興亜環境財団 専務理事)

社会的課題に関心を持ち
行動を起こす人材を育成

―CSOラーニング制度の概要と、その目的について教えてください。

損保ジャパン日本興亜環境財団は1999年に設立され、 「CSOラーニング制度」は翌年の2000年にスタートしました。CSOは、「市民社会組織(Civil Society Organization)」を意味します。これはNPO・NGOを包含する概念であり、より「市民の力」を重視した表現です。

CSOラーニング制度では、大学生や大学院生が、主として環境分野のNPO・NGOで約8ヵ月間の長期インターンシップを行います。その際、活動1時間当たり800円と通勤交通費を、返済不要の奨学金として財団が支給します。活動時間の上限は、200時間となっています。関東、関西、愛知、宮城の4地区で実施しており、2017年度の派遣先CSOは計34団体です。

私たちの財団では木を植えるより、「木を植える人を育てたい」ということで、人材育成がメインの事業を行っています。人を育てることは、すぐには形にならないかもしれませんが、しばらく時間が経てば、大きな成果も期待できると考えています。

ここで言う、「木を植える人を育てたい」というのは、実際に木を植えたり、環境問題に関心を持つ人を育てるだけでなく、環境問題をはじめとする様々な社会的課題に関心を持ち、行動する人になってほしいということです。

学生には、この制度への参加を機に視野を広げ、様々な問題に関心を持った上で、アクションを起こすところまでつなげてもらいたいと考えています。大学や大学院を卒業して就職し、仕事や家庭のことで忙しくなった場合にも、世の中の課題に関心を持ち続け、行動する人でいてほしいと願っています。

CSOにおけるインターンシップでは、様々な知識を身に着けると同時に、現場での経験を通じて心に感じるものを持ち、そこで得たエネルギーを勉強や行動にもつなげていくという循環を生み出せれば良いと考えています。

インターンシップを受け入れるCSO側には、単に学生を労働力として受け入れるのではなく、私たちの理念を理解し、色々な意味で学生に刺激を与えながら教育していただけるようお願いしています。

インターンシップは学生だけでなく、CSO側にもメリットがあると思います。学生に仕事を手伝ってもらえるので助かるという部分もあるでしょうが、それだけではありません。若い学生を受け入れることによって、学生の持つSNS等を使った情報発信力を活用できます。これはCSOの活動への刺激になり、組織の活性化にもつながるはずです。

図 CSOラーニング制度のしくみ

*CSOラーニング制度の募集詳細は、以下URLを参照。
http://sjnkef.org/internship/index.html

OB・OGの7人に1人は
社会貢献活動に従事

―参加者からは、どのような反応がありますか。

私たちは毎年、色々な形で参加者の声を集めており、学生が現場での経験を通じて色々なことを学んでいるとわかります。例えば、OB・OGを対象としたアンケートでは「印象に残ったことや学んだこと」として、「自然保護には、提言・啓蒙・キャンペーンも重要だが、現場で実際に泥にまみれて戦う人や組織があることを理解した」、「現場に出て、見て、聞いて考えることの大切さを学んだ」、「学生と社会人の責任感・使命感の違いを自覚できた」といった回答が得られています。

また、CSOラーニング制度での経験「自分に何らかの影響があったと思うか」という問いに対しては、「自分の立場でできること、目の前のことを精一杯やろうと考えるようになった」、「人生が変わった」、「環境問題について、より強く意識するようになった」などの声があります。「卒業後の進路選択に影響を与えた」という回答も多く、視野の拡大やコミュニケーション能力向上につながったと感じている人たちもいます。

実際、卒業後に環境問題や様々な社会的課題に取り組む分野へ進んだ人たちがかなり出ています。その点では、社会的課題への関心を高め、アクションにつなげてほしいという私たちの想いが伝わっていると感じます。これらの人たちの数をさらに増やしていくのが、今後の課題だと思います。

2015年には、2000年度から2014年度までに参加した843人のOB・OGを対象とする追跡調査も実施し、社会人220人から有効回答を得ました。このうち、環境ビジネスやシンクタンク、企業のCSR部門、非営利組織、大学の研究者、省庁自治体、農家など「環境、教育、公益に関する仕事」で就職した人は、47%に上っていました。

また、民間企業への就職者142人のうち、23%が環境に関する企業や部署で働いているとわかりました。このほか、10%(22人)が非営利組織(NPO、財団、社団)に就職しています。このうち、17人が環境関連分野で働き、これにはCSOラーニング制度に参加した際の派遣先での就業経験者12人も含まれます。

さらに、追跡調査の結果で私たちが嬉しく思ったのは、約15%(33人)が仕事以外の社会貢献活動にも従事しているということです。就職したり、家庭を持つと忙しくなり、そのような活動はなかなかできなくなってしまうものです。ですから、15%というのは、決して少なくない数字だと思います。それらの人たちの活動には、例えば、男女平等参画や子育て支援、まちづくり、留学生や障がい者の支援、生き物に関するものがあります。

定例会や全国合宿で
参加者同士のつながりを強化

―この制度におけるCSOと財団の役割は、どのようなものですか。

私たちはいわゆる企業財団で、この制度におけるCSOとの協働は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の17番目に挙げられている「パートナーシップで目標を達成しよう」に当たるものでもあります。

私たちは、感動するような体験を通じて学生たちの心に火を点け、実際のアクションにつなげてもらい、その循環を生み出していきたいと考えています。CSOの方々と共に、仕組みづくりに取り組んでいます。

CSOの方々にはインターンとして受け入れた学生たちに対し、制度のコアの部分で、環境保全の知識や彼らの想いを伝えると共に、実践を通じて学生に働きかけていただきます。一方、私たち財団は、インターンシップ開始時の「キックオフ・ミーティング」や、月1回の地区ごとの定例会、年2回の全国合宿などを企画しています。これらは学生たちが学んだことを共有し、互いに刺激を与え、横のつながりを築けるような働きかけをするものです。

OB・OGへのヒアリングによれば、同じ志を持つ仲間とのつながりができたことを皆、高く評価しています。それを醸成していくのが、私たちの役割です。また、学生同士だけでなく、派遣先のCSOの人たちや、さらにその先にいる人たちとの様々なつながりができたことを「良かった」と感じているOB・OGが多くいます。

私たちが企画するミーティングや全国合宿以外に、学生たちが自主的に行っている活動もあります。例えば、関東地区では学生たちが、茨城県の耕作放棄地を利用して、皆で農作業する「かっぱん田」という企画を行っています。

また、宮城地区の学生たちは、「いもっしゅく」という合宿勉強会を実施しています。これは、東北地方を中心に行われている季節行事の芋煮会を合宿に取り入れたものです。昨年は震災被災地の復興を支えるNPOのガイドで現地の方々と交流を実施しました。これらの活動を通じ、皆で仲間意識を持ち、盛り上げていこうとしています。

「かっぱん田」の稲刈り

全国規模の同窓会や
インドネシアでの展開も

―CSOラーニング制度の中で今後、新たに計画されている取り組みはありますか。

これまでお話ししたように、同じ年に参加した学生同士の横のつながりをつくる企画は、色々行われてきました。今後はこれらに加え、前年の参加者やOB・OGとの縦のつながりを強化する機会も作っていきたいと考えています。

縦のつながりは、従来も各地区や派遣先のCSOにおいて生み出されてきましたが、これを全国規模に広げるため、財団として同窓会を企画しています。OB・OGの数は既に1000名近くになっていますが、現在は連絡が取れなくなってしまった人たちもいます。ですから今年度は、全国規模の同窓会を行い、つながりを再構築しようとしています。その企画や開催はOB・OGが主体となって行い、私たちの財団は黒子です。同窓会は来年2月ごろを予定しており、仮テーマは「君はいまも木を植えているか?」です。

この機会に「もう一度、木を植えてみよう」と考え、行動を起こす人たちや、そのためのつながりが生まれれば良いと考えています。参加者には個性的な人たちが多く、彼らがリーダーシップを発揮して企画のために動いてくれています。

さらに、今後はCSOラーニング制度をインドネシアにも広げようとしています。日本では2000年から18年間、活動を続けてきましたから、そのノウハウを活かし、インドネシアの学生によるインドネシア国内での環境CSOにおけるインターンシップを支援していきます。

来年度中に開始できるよう、現在は準備を進めている段階です。将来的には、日本とインドネシアの参加学生たちの交流の場も設け、そのつながりを広げていきたいと思っています。

出口 裕康(でぐち・ひろやす)
損保ジャパン日本興亜環境財団 専務理事

 

『環境会議2017年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 環境と事業の共生 SDGsに根ざす経営
根本かおる(国連広報センター 所長)、玉木林太郎(経済協力開発機構[OECD] 前事務次長) 他
特集2 環境教育で次世代リーダーをつくる
望月要子(ユネスコ)、寶 馨(京都大学大学院総合生存学館[思修館] 学館長) 他

(発売日:9月5日)

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