SDGsが目指す将来社会像
途上国のみならず先進国にも大きく関連するSDGsに関して、日本の企業にも個人にも当事者意識が求められている。自分の専門分野のことのみを考えるのでなく、分野横断的な思考習慣をつける。そしてSDGsを、武器として、統合的な思考を養うツールとして扱う。持続可能な開発達成をあらゆるレベルでめざす国連広報センターの取り組みを、ハイレベル政治フォーラムに参加したばかりの所長・根本氏が語る。
ミレニアム開発目標
(MDGs)からSDGsへ
―SDGsに先立つミレニアム開発目標(MDGs)からの流れについてお聞かせください。
新しいミレニアムとなり、主に途上国の社会開発の課題を中心にミレニアム開発目標がまとめられ、2015年をゴールとして8つの目標が定められました。うち、目標1「極度の貧困と飢餓の撲滅」(所得が1日1・25ドル未満の人口の割合および飢餓に苦しむ人口の割合を半減)の貧困削減については2015年を待たずに達成されました。ただ積み残しの課題もあり、サハラ砂漠以南の妊産婦死亡率・乳幼児死亡率はあまり削減できませんでした。さらに新たな課題の発見もありました。最も顕著なのは気候変動と格差(国内、国家間)拡大です。こうした積み残しの課題と新たな課題に対する危機感、このままでは地球が立ち行かなくなるという危機感から、SDGsが策定されました。地球というのは替えがききませんからね。
2012年から3年間かけて世界中で政府関係者、国連機関関係者だけでなく、市民、特に若者、研究機関などに参加していただき、コンサルテーションをしました。オンライン調査でも500万人以上の方々に参加いただき、その結果、17の目標を盛り込んだSDGsが2015年9月に定められ、2016年1月1日から実施が始まりました。ゴールは2030年。途上国のみならず先進国にも大きく関連する、さらに国際協力だけでなく国内課題にもかかわる「不可分性」「普遍性」を持つのが特徴です。17の目標は全て独立しているわけでなく、互いに繋がっています。国連のそもそもの設立目的である「国際の平和と安全の維持」「人権の推進と擁護」「経済・社会開発の推進」の不可分な3つの柱をより具体的に体現したのが、SDGsと言えます。
この不可分性に加えて、「誰一人置き去りにしない」という特徴もあります。MDGsでは「貧困率」などと平均値で見ていましたが、格差の広がりなどは平均値では測れません。
専門分野を越えて
SDGsを武器にせよ
―先進国も対象に含まれるSDGsですが、企業の取り組みも問われてくるのでしょうか。
年一回開かれるハイレベル政治フォーラムは、持続可能な開発を議論するフォーラムで、1000人を超えるビジネスリーダーが参加しました。ビジネスとSDGsのかかわりの深さを多くのビジネスリーダーが認識していることの表れだと思います。
17という目標の数はMDGsの倍以上ですが、これは皆の意見を包摂的に取り入れた結果です。主に経済・社会・環境の分野をとらえています。
―環境省の総合政策部会でも3本の柱の有機的な結びつきが言われていますが、経済の持続的成長に皆で取り組むというのはどういうことでしょうか。
まずは統合的なアプローチ・統合的な視野を常に持つことが大切だということです。自分の専門分野のことだけ考えているのは、もはや許されない。国連広報センターがSDGs発信に取り組むようになって、接する業界・人々の幅が格段に広がりました。今では他のセクターにどう繋がるかを常に考えながら広報発信しています。
―異なる分野が出会うことで波及効果が生まれるのですね。
どこに力点を置くかで見え方は違いますが、狭い分野の中だけで考えず、分野横断的に考える習慣をつけなければならない。まさにこれからの世界で必要とされていることです。SDGsは武器であり、統合思考を養うツールであるともいえます。
―何をもってゴールとするのでしょうか、その指標とは。
17の目標、169のターゲット、およそ230の指標があります。政府の場合全てについて計る努力をすべきですが、民間企業や自治体の場合はそれぞれに最も関係の深いものを選択し、その中で自分たちを引っ張っていってくれるツールとしてSDGsを使用し、指標やターゲットも自分たちが成長する、また成長度合いを計るツールとして使っていただければと思います。
つい先日、17の目標について主な指標と現状をまとめた「持続可能な開発目標(SDGs)報告2017」が発表されましたが、こうした報告は毎年発表していきます。まだ始まったばかりでデータ不足の分野もありますが、おいおい充実させていきます。SDGs全体には法的拘束力はありませんが、パリ協定、人権規約など、中には条約に基づいたものもあります。
自らのこととして
SDGsを受け止める
―社会の動きからの客観的な情報や科学的知見を政策実施に活かしていくという観点では、これまでの国連活動とどう違うのでしょうか。
人類の英知を総動員しないと、SDGsの目標達成はできません。例えば資金面の裏打ちから言えば「financing for development」科学技術の活用から言えば「science technology and innovation」を中心とした国連会議があります。国レベルでなく個人レベルで、自分のこととして英知を持ち寄らなれけば、現在の地球環境を後の世代に引き継いでいくことはできないと思います。
また、海の環境も注目されています。ハイレベル政治フォーラムに1ヶ月先立ち、ニューヨークで国連海洋会議が開かれました。目標14「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」、特に海洋ゴミ問題について中心に話し合われました。このままのペースでは、2050年には海中のプラスチックゴミが魚よりも多くなってしまいます。スーパーでレジ袋配布を禁止している国もある一方で、日本は海に囲まれているにもかかわらず、その意識は必ずしも高くない。国連海洋会議の前に、乱獲規制に関する条約も策定されました。
―今回のハイレベル政治フォーラムでの議論の中心はどのようなものでしょうか。
すべて繋がってはいるのですが、特に目標1、2、3、5、9、14、17について議論されました。貧困、飢餓状態の改善と持続可能な農業の推進、福祉の推進、ジェンダー平等の達成、包摂的で持続可能な産業化の推進とイノベーション拡大、海洋資源の持続可能な開発と利用、そして持続可能な開発に向けての実施手段の強化とグローバル・パートナーシップの活性化ですね。
―各企業の立場で取り組めること、一人一人が取り組めることとは何でしょうか。
私は日本政府のSDGs推進円卓会議のメンバーでもあるのですが、そこで広報・啓発や教育現場での取り組みの重要性を強調してきました。そもそも知らなければ問題意識は生まれない。「SDGsというものがあり、これは皆の将来にとって非常に大切なものだ」「自分自身にかかわる問題だ」と、まずは知ってもらう必要がある。
今回、爆発的な力を発揮してくれたのが、お笑い芸人のピコ太郎さんです。ニューヨークの国連本部での日本政府主催のレセプションで、ピコ太郎さんが歌とダンスを披露して皆を楽しませ、多くの人たちと写真撮影をしてくれるなど協力してくださった。このおかげでSDGsが飛躍的に拡散し、日本の民放の番組でもSDGsという言葉が流れるようになり、起爆剤となりました。彼は国連広報センターがニューヨーク国連本部で主催している写真展「SpotlightonSDGs」にも立ち寄ってくださり、「PPAP」のリズムで「Wehaveyourlove,wehaveyourpower,UN...,SDGs!」というメッセージをくださいました。事前にSDGsについてかなり勉強し、考えてくれた。これが彼のSDGsアクションの第一歩となっています。
企業については、吉本興業の皆様も社を挙げてSDGs推進に協力くださっています。学校の教科書についても、小学校では2020年度の改訂、中学校では2021年度の改訂で学習指導要領にSDGsが盛り込まれる方針です。SGH(スーパーグローバルハイスクール)の先生方にもSDGsや国連広報センターのツールを教育に活用してくださるようお話ししています。皆さんにSDGsを広く知っていただき、自らのこととして考えていただけるよう願っています。
- 根本 かおる(ねもと・かおる)
- 国連広報センター 所長
『環境会議2017年秋号』
『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 環境と事業の共生 SDGsに根ざす経営
根本かおる(国連広報センター 所長)、玉木林太郎(経済協力開発機構[OECD] 前事務次長) 他
特集2 環境教育で次世代リーダーをつくる
望月要子(ユネスコ)、寶 馨(京都大学大学院総合生存学館[思修館] 学館長) 他
(発売日:9月5日)