映画館を承継した「元金融マン」が挑む地域×新規事業

『SELF TURN(セルフターン)』とは、企業規模や場所に捉われず、自分の生きがいという本質を探し、自分らしく働ける場を見つけ出すこと。2回目は、ある金融マンのSELF TURNを紹介する。

松本 数馬(イーハトーブ東北代表取締役)

大震災で、自分と地域を見つめ直す

「何屋さんですかと聞かれて困ることも多いです。しいて言えば地域活性化屋ですかね」と笑う松本数馬さん。現在36歳。岩手県南部の一関市で生まれ育ち、東京の2つの金融機関に13年間勤めた後、2016年にUターン。家業の映画館「一関シネプラザ」を承継するとともに、2017年に新会社イーハトーブ東北を設立して観光・宿泊事業に参入するなど、地域活性化のために東奔西走している。

一関市は仙台と盛岡のほぼ中間に位置し、世界遺産「平泉」の玄関口でもある。東北のハブとして優位性を持つが、少子高齢化は深刻で、消滅可能性都市のひとつに挙げられる。

「衰退する地域から早く出たいという気持ちで東京の大学に進学し、そのまま東京で就職しました。ただ、心の奥底には『映画館どうしよう』とか、活気溢れる一関を取り戻したいという思いがありました。金融業界に進んだのも、経営の知識や経験を身につけたかったからです」

2011年、松本さんは勤務先の銀行の人事異動で仙台に赴任。直後に東日本大震災を経験した。「被災企業の再建やボランティアを通して、悲しみも喜びも分かち合いました」。家業の映画館も、震度6弱の地震で大きく傷ついた。「そのまま営業を終えるという選択肢もありましたが、全国の色々な方のご支援で再建できた。この経験で、自分と東北、自分と一関をもう一度見つめ直し、Uターンを決めました。いますぐ行動しなければ手遅れになる、と」

人を巻き込み、繋ぎ、動かす

帰郷した松本さんは「同じことだけをしてもしょうがない」と考えた。多様な業界や経営に触れた金融マン時代のスキルも活かし、参入を決めたのが観光事業だ。特に外国人観光客で一関を訪れる人はごくわずか。プロモーションや受入体制を強化すれば、国内外からの交流人口を増やせるはずだ。

松本さんのアイデアは、パソナグループが震災復興を目的に立ち上げた「東北未来戦略ファンド」に採択され、同グループの出資のもと2017年にイーハトーブ東北を設立。地域密着型の観光コンテンツ企画や、地元食材を活用した飲食店、古民家改修による宿泊事業を展開していく。

取り組みは自社単独にとどまらない。今年6月には自治体や農業・森林組合などと連携して「平泉一関エリア農泊推進協議会」を設立。また、地元酒造や和菓子屋など業種横断で「一関平泉イン・アウトバウンド推進協議会」を立ち上げ、一ノ関駅前にシェアオフィスやイベントスペースの機能を盛り込んだ交流施設「一BA(いちば)」を7月にオープンする。

「地域には若者がいない、しがらみが強いと言われますが、そんなことはありません。一関は、私と同世代のUターン承継者が多く、皆が新しい挑戦をしたい、地域を元気にしたいと思っている。そんな若いメンバーを集めて、一BAのような活動で域外の人やIターン者とも繋がり、地方創生を実現しようと思っています」

異なる分野の人を巻き込み、繋ぎ、動かす。持ち前の行動力で、松本さんは地域の総合プロデューサーとして活躍し始めている。「今は小さなコミュニティでも目立てる時代。東京と地方の格差はほとんどありません。やりたいことがどんどん形になっています。忙しいけれど楽しいですよ」

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