『日本人と日本文化』自分が何者なのかを問う

埼玉県川越市を拠点に、クラフトビールを製造・販売する協同商事 コエドブルワリー。国際的な食・ビールのコンテストで数多くの賞を受賞した、日本を代表するクラフトビール「COEDO(コエド)」は、国内だけではなく、欧米、アジア諸国の専門店やレストランで提供される。ファミリービジネスで事業を展開する同社で、2009年より事業承継し、代表を務めるのが朝霧重治社長だ。日本を問う書籍『日本人と日本文化』を、観光、インバウンドを視野に紹介いただいた。

“豊かな食文化”を提供するクラフトビール「COEDO」

クラフトビール「COEDO」は埼玉県川越市から世界に輸出されている。

クラフトビール「COEDO(コエド)」のブランドを立ち上げたのは、2006年のことです。日本のクラフトビールとして、現在では海外にも輸出しています。

ビールが食文化として根づいたのは、中世ヨーロッパの時代。お酒は、糖分を主体でつくりますが、身近にある糖分といえばブドウがありました。ブドウがとれる地域ではワインづくりが始まり、ワイン文化が生まれました。一方、ブドウがとれない地域では、「麦」をもとにしたお酒づくりがなされました。それがビールの始まりです。

ビールは「自然の風土」と「地域に住み着いた人たち」の掛け算で特徴づけられるもの。「地ビール」というのは、その特徴を活かした商品と言えるでしょう。日本では、1994年に酒税法改正により、小規模醸造が認可され、当時の地方創生のツールとなり、地域おこしや観光の誘客のため、各地域の中小メーカーが一気に地ビール製造を始めました。

しかし、小規模でつくればおいしいビールができるわけではありません。また観光客向けに高価に提供するメーカーが多かったので、観光地で数回飲むと消費者も満足し、地ビールブームは終わっていきました。

私たちの会社も地域の中小企業ですが、観光地の土産物としてのビールではなく、ビールの本質的な価値を追求し、“豊かな食文化”を提供したいと考えました。

COEDOは、ビール本来の豊かな味わいと、ビールを自由に選べるバリエーションを重視し、企画されました。“Beer Beautiful”をコンセプトに、職人の手作りなので大規模生産はできなくても、大手企業とは異なる価値を提供することに務めています。

国際的なビールコンテストで数多くの賞を受賞し、その成果も認められ、在日ドイツ大使館では大使館御用達ビールとされ、現在では、アメリカ、フランス、オーストラリア、シンガポール、中国にも輸出し、専門店やレストランで提供しています。

朝霧 重治(協同商事 コエドブルワリー 代表取締役社長)

日本文化はユニーク

海外展開する時には、自分が何者なのかを知ることが重要です。観光で日本に来るインバウンドの数も年々増えています。日本人とは何か、日本文化とは何かを知ることで、来日した方々にも、より多くの日本の魅力を伝えていけると考えています。

中にいると悪い点は目についても、良い点は気がつかないとは、よく言われますが、当たり前と思っていることが、実は当たり前ではない。

司馬遼太郎さんとドナルド・キーンさんの対談『日本人と日本文化』を読んで、あらためてそう感じました。

司馬遼太郎、ドナルド・キーン著『日本人と日本文化』(中央公論社、1996年)

日本文化はユニークで、外から入るものを受け入れて、咀嚼して、血となり肉となるという文化だと思います。食や農業でもその例は多く、例えばラーメンがその1つです。もともと支那そばと呼ばれ、中国から入ってきた食文化ですが、今や日本独自のラーメン文化をつくりあげ、中国や香港などに出店し、その人気は高い。新しい食文化を作りあげています。0から1の新発想ではありませんが、探求し、深掘りしていく。つまり、何かから気づき、ブラッシュアップさせていくことが得意なのだと思います。

書籍では司馬遼太郎さんとドナルド・キーンさんの目線で見た、日本のわびさび、歴史上の外国人から見た日本の魅力についても述べられています。

ファミリーの哲学をつなぐ

当社はファミリービジネスで、私は父にあたる創業者・朝霧幸嘉より経営を承継した2代目。2003年に代表権を持つ副社長、2009年に社長に就任しました。ファミリービジネスは、日本ではネガティブに捉えられることも多いですが、一族のフィロソフィーは、中長期的に続いていくものだと考えています。短期的な売上を重視する経営より、承継し、続いていくことに意義があると感じています。それが、地域に根ざした中小企業の役割だとも思います。

そのため、短期的な売上を求める経営における戦略本を、私はほとんど読みません。新しい情報や切り口はどんどん出てきますが、人間の本質は変わらないので、心理学・哲学・文学の書籍や中国の古典などを中心に読んでいます。『日本人と日本文化』の新書の初版は1972年。私が手にしたのは、2011年頃ですから、やはり本質は変わっていないのだと思います。

地域の中小企業として、長く地域に存続し、また探求し、深堀りしながら、人々に受け入られる事業を提供していきたいと考えています。

朝霧 重治(あさぎり・しげはる)
協同商事 コエドブルワリー 代表取締役社長

 

『環境会議2017年春号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 世界をつなぐ温暖化対策 自然と人の関わり方を再考する
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特集2 明治150年 日本の歩みを未来に遺す
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特集3 経営トップが薦める、この一冊
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(発売日:3月6日)

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