2016年10月号

環境会議

「九州はひとつ」を合言葉に7県一体の観光ブランディング

石原 進(九州観光推進機構 会長)

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福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島。それぞれに特色を持った7県を「九州」という一地域と捉えて、広域観光戦略を展開する九州観光推進機構。「九州はひとつ」の意識浸透を図り、九州観光のブランディングを進めている。山あり、海あり、川ありと多彩で豊かな自然が自慢の九州では、「アジアに一番近い日本」を強みとして、アジアからの訪日観光客対策を展開。特に自然を活かした九州オルレは独自の取り組みとして注目される。

理念は「九州はひとつ」
法人化で社会的信用の高まり

―九州観光推進機構の理念や方針をお聞かせください。

九州観光推進機構は、2005年に発足した、九州7県と民間企業から成る組織です。九州にやって来る観光客は「各県」にではなく、「九州」にやって来る時代。だから情報発信も観光地づくりも九州が一体となって進めていかなければならない、という理念でスタートしました。第1期にあたる2005年~2013年の9年間は広域観光推進の基礎づくりの期間でした。バラバラだった九州各県がひとつになるには、各県それぞれ、自分の県を推したいという考えを乗り越えなければなりません。当初は苦労しましたが、今ではお客さまは「隣の県に来る」ではなく「九州に来る」。それが自分たちの県のためにもなる、という意識が浸透しています。

 

図1 九州の外国人入国者数の推移

出典:法務省出入国管理統計より九州観光推進機構にて集計

 

第2期は2014年~2023年。大きく変わったのは、2014年に一般社団法人化をしたことです。このことで、社会的信用が高まり、補助金の契約などもできるようになりました。また、スタッフも第1期までは各県からの派遣ばかりでしたが、現在はプロパー社員も2名採用し、発足当時25名だった社員は現在では36名に増えました。

第2期の大きなテーマは「九州観光イメージのブランド化」です。第1期でも取り組みましたが、九州は観光資源が多彩であるうえ、7県があるため、上手くいきませんでした。

第2期が始まるに当たり、最初の3年間でブランドイメージを確立しようということになりました。九州の共通イメージについて、いろんな意見が出る中、たどり着いたのが「温泉」。九州の源泉数は日本の3分の1、湧出量も日本の4分の1を占めています。九州には、別府、雲仙、指宿をはじめ日本有数の温泉地があります。そこで「ONSENISLANDKYUSHU」というキャッチフレーズを掲げました。

しかし、温泉だけでは足りません。

観光客の方は、その土地の自然や食、歴史・文化など、トータルで地域の魅力を楽しみます。それらの魅力を温泉にプラスしていこう、とりわけ、山あり、海ありの多彩で豊かな九州の自然と、豊かな食の魅力をもっと活用していこうと考えました。そうした中で、自然を活かした企画が「九州オルレ」だったのです。

石原 進(九州観光推進機構 会長)

韓国に学んだ九州オルレ日本人にも浸透

―韓国・済州島で始まったオルレ。どのような経緯があり、九州で展開することになったのでしょうか。

九州は韓国に近く、航空運賃も安いので、九州を訪れる韓国のお客さまは他地域と比較して多いといえます。一方で韓国では「安い=低品質」というイメージがあります。九州にネガティブなイメージを持たれないように、まず団体旅行客向けにゴルフを打ち出しました。さらに、ゴルフに次ぐ九州観光の目玉として「ヘルシー&ロハス」という上質なイメージを打ち出しました。その頃、リーマンショックがあり、ウォンの価値が半分になるという事態が起きました。それでも、ロハス関連商品は売れました。

韓国からのインバウンド対策に取り組む中で、ゴルフ人口よりも登山人口が多いことに気づきました。では登山をやってみよう、と。そんな時出会ったのが「オルレ」です。済州島オルレに沢山の人が訪れていることを知り、九州でも取り組めないかと考えました。九州でオルレをすることで、もっと韓国からのお客さまを呼ぶことができ、健康に関心が高い日本人にも受け入れられるのではと考えたのです。

オルレは元々ある自然を活かすもの。自然豊かな九州ではコースづくりも容易だと考えました。「ないものねだり」ではなく、「あるもの探し」です。オルレに取り組み始めたのは2011年ごろ、コースをオープンしたのは2012年3月からでした。最初は4コースでしたが、今では17コースとなり、「九州オルレ協議会」も立ち上がりました。始めたころ、九州オルレ目的のお客さまは7割が韓国の方で、人数も日韓合わせて2万2000人程度。

しかし、2015年では韓国からのお客さまが6万人、国内のお客さまが3万8000人で、九州オルレを始めてからの累計では22万人にもなりました(各数値は各行政の集計値を基に機構にて推計)。オルレを楽しむ日本のお客さまも増えています。九州のインバウンドは、3年前の100万人から昨年は283万人に急増しました。そのうち韓国からのお客さまは一番多く120万人でした。韓国の方は自然が大好きで、食の嗜好も九州に合っています。九州にとって最も大切なお客さまである韓国の人に、オルレはまさにピッタリなのです。

―韓国以外のインバウンドに対しては、どのような対策をされているのでしょうか。

九州に訪れる外国人のお客さまビッグ5は「韓国、台湾、中国、香港、タイ」です。タイのインバウンドが伸びているのは、日本とタイのメディアがタイアップしてドラマ制作をし、タイで放映したため。日本のロケ地にタイ人がたくさん訪れるようになったのです。ドラマの舞台となった佐賀の祐徳稲荷神社には、英語と中国と韓国語とタイ語の案内が用意されています。バンコクからのLCC就航も、タイからのお客さまが増えた要因です。一方で中国からのインバウンドも伸びています。今多いのは、クルーズ船でやって来る人たちで、昨年は78万人もいました。

実は、J R 九州が出しているFIT(ForeignIndependentTour/個人手配の海外旅行)対象の日数限定乗り放題チケット「九州レールパス」が非常によく売れています。団体ではなく個人で動くお客さまが増加したといえます。

ただ今年は、熊本地震の影響で九州全体のお客さまが減少しています。地震がなかった地域でも風評被害があって、九州全体で3~4割減です。これを元に戻すために「九州ふっこう割」など国を挙げて取り組んでいます。九州は地震があったけれど、訪れてみたら大丈夫だと分かっていただく、そのきっかけになればと思います。

特区取得で九州のインバウンドに合ったガイドを養成―インバウンドには外国語対応が必要です。ガイドの人材育成はどのように力を入れていますか。

九州に限らず訪日外国人観光客のガイドは不足がち。通訳案内士の国家資格を持ったガイドが九州にもいますが、ほとんどが英語の通訳です。

しかし九州にやって来るのは、ほとんどが韓国や中国などのアジアの方たち。ニーズが多いのは中国語、韓国語です。そこで九州観光推進機構、九州7県と福岡市で特区を取得し、国家試験を受けずに、研修を受けると通訳案内ができるようにしました。九州全域の特区はあまり前例がなかったのですが、おかげさまでガイド養成の道を開くことができました。

特区で育成したガイドを「地域活性化総合特別区域通訳案内士」と呼び、中国語と韓国語、それとタイ語のガイドがいます。それぞれの言語のネイティブスピーカーも多く、中には留学生もいます。九州にはアジア各国からの留学生が多く、彼らは、日本語・母国語・英語が話せます。

留学生のガイド養成を進めて、もっと留学生に活躍してほしいですね。

さて、こうしてガイドを育成すると次の課題は、ガイドを必要とする地域や旅行会社とガイドのマッチングです。今年の2月にマッチングのイベントを行ったところ、何十社もの旅行会社の方がいらっしゃいました。東京からも来ていただいて、大成功だったといえます。

元々ある自然を活かした「九州オルレ」(写真は天草・松島コース)。2013年3月にスタートした。

―今後、九州一体となって、どのように九州を売り出していこうと考えていらっしゃいますか。

観光は非常に裾野が広い産業であり、九州の基幹産業といえます。

2012年2.1兆円だった観光のGDPは2015年には2.5兆円にまで上昇しました。これを2023年までに3.5兆円にするのが九州観光推進機構の目標です。

インバウンド人口を283万人から440万人に、そのうち中国からの観光客を300万人にしたいと考えています。

東京から見ると九州は遠いかもしれませんが、アジアから見ると九州は一番近い日本。これは九州の強みです。経済成長の途中にある人口の多い国がアジアにはたくさんあります。これらの国が経済成長を遂げると大旅行時代がやってきます。これからの世界の旅行はアジアが牽引していきます。その中で九州の魅力を磨きあげて、来ていただいた方が「九州っていいな。また来たいな。人に教えてあげたいな」と思ってもらえるようにしていくのが、私どもの役割だと考えています。

 

図2 九州の外国人入国者数の国籍別内訳

主要国・地域から九州への外国人入国者数(2015年確定値)

 

石原 進(いしはら・すすむ)
九州観光推進機構 会長

 

『環境会議2016年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 環境と観光で実現する インバウンド・ジャパン
あん・まくどなるど(環境歴史学者)、デービッド・アトキンソン(『新・観光立国論』著者)、他
特集2 一歩先の暮らしを考える ソーシャルデザイン
有馬利男(国連グローバル・コンパクト)、他 (発売日:9月5日)

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