2016年10月号

環境会議

地域に求められる高度な経営マインドのプロ人材

沢登 次彦(リクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンター長)、二木 真(日本航空 宣伝部 企画媒体グループ グループ長)、山田 祐子(井門観光研究所 代表取締役)

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日本版DMOに代表されるように、今、地域が自身の価値を見つめ直し、自らの「稼ぐ力をいかに高めていくか」が大きな注目を集めている。稼ぎの中心となるのは地域の自然や文化資産を軸にした観光事業だ。そんなこれからの地域経営において、どのような人材が求められているのか。理想の観光人材、次代の観光人材の育成について、3人の観光のプロフェッショナルが話し合った。

左から、二木真氏(日本航空 宣伝部 企画媒体グループ グループ長)、山田祐子氏(井門観光研究所 代表取締役)、沢登次彦氏(リクルートライフスタイル じゃらんリサーチ センター長)

事業視点で地域の未来を

―インバウンド観光客の増加を地域経済の活性化につなげるためにはさまざまな課題があります。今回は主に人材にテーマを絞って話を進めていきたいと思います。まず、観光政策における人材の課題について、どのような問題意識を持っていますか。

沢登 今、DMOが地域の観光経済エコシステムを支える組織と注目されています。地域の観光マネジメント組織を有効に機能させるためには、「マーケティング」「新コンテンツの創造」「マネジメント」の大きく3つの要素が重要だと考えています。

単に観光客数が増えるだけでなく、地域経済に好影響を与える消費を促し、地域内の観光事業者を成長させ、持続的な発展が可能なサイクルを回す仕組みをいかに構築できるか。今、求められる人材はこうしたプロデユースやマネジメント能力を持つ人ではないでしょうか。

沢登次彦氏(リクルートライフスタイル じゃらんリサーチ センター長)

二木 「おもてなし」という言葉に象徴されるようにホスピタリティを高度化するオペレーション人材はかなり充実してきています。その一方で、全体をプロデュースできる人材はまだまだ少ない。これについては各地域の行政部門に期待する部分が大きいのですが、人事ローテーションの関係などから継続性やノウハウの蓄積がうまく進まないという問題があるように思います。短期的な成果が見えやすい単発的なイベントや取り組みが多く、持続的成長が可能な地域経営という視点が不足しているように感じます。

山田 そういう意味で私は島根県隠岐諸島にある海士町の取り組みが面白いと思っています。Iターンによる地域外からの移住者を積極的に受け入れ、さらに島外の料理人や旅館経営者との連携による「島食の寺子屋プロジェクト」を進め、人材育成と集落の賑わいを生み出そうとしている。その結果、若者の定住率が高まっているのに加え、Iターンできた人が地域で起業するなど、新しい産業が生まれています。地域で閉じるのではなく、その門戸を広げることで成功している好例だと思います。

二木 兵庫県豊岡市の取り組みも面白いですね。市に「大交流課」という横断的組織をつくり、観光政策、観光振興、観光資源の管理、定住促進などを一括で所管しています。継続的に業務を行う責任者を配置し、市長直轄で大胆な取り組みができるようにしています。その成果が出ていると思うのは、豊岡市内の城崎温泉です。各宿が観光客を囲い込まずに、温泉街全体を一つの宿として考えて、観光客受け入れ態勢をつくっています。地域の飲食店での食事ができる宿泊プランがあり、浴衣姿のまま温泉街巡りをしやすいように外湯、飲食店、土産物店などで共通で使えるICカード決済システムも導入し、街全体が潤う仕組みをつくっています。

二木真氏(日本航空 宣伝部 企画媒体グループ グループ長)

沢登 今、話に出た2つの例から見えるのは、まさに行政の役割ではないでしょうか。仕組みや、体制など大きな枠組みを用意するのが行政の大きな役割。大きなタイヤを動かす時、最初は皆で力を合わせないと転がりませんが、転がり始めればあとは地域自身の力で回せる。だから予算投下も単年度で収支を見るのではなく、将来のリターンを含めて考えることが大切です。つまり予算を「消化する」のではなく「投資する」という考え方です。

―行政も単発ではなく、継続的な事業化の視点が必要になっていますね。

山田 たとえば総務省がやっている「地域おこし協力隊」では、これまで3千人弱が活動していますが、継続的な地域活性化につながった活動は少ないようです。ただ、自治体の受け入れ態勢や地域特性とのマッチングがうまくいった例では、任期を終えても地域に定住し、現地で起業している方もいます。継続して地域に根づくためには、事業化の視点は欠かせません。

沢登 「投資=地域経営で稼ぐこと」ですから、単に団体客を呼ぶ単発のイベントを催すのではなく、どうしたら持続成長的な消費が増えるかを考えなくてはいけません。それは観光だけでなく、雇用や地域外からの人材を呼び込むための定住促進にもつながっていくはずです。地域をフィールドにローカルビジネスを始める人もいます。観光事業にとらわれず、事業視点で地域を考えていく人をいかに増やしていくかという視点で、地域の観光政策、振興策のフェーズを大きく変える必要があると思います。

地域の枠を超えた連携への期待

北海道トマムの雲海テラスは、「無」だと思われていた雲海という資源に価値を見出し、観光客が集まる。

―人口減少に伴う人材不足も地域観光の課題となっています。地域内、また地域外の連携は今後どのように変化していくでしょうか。

山田 私は旅館の支援を行っていますが、ベーシックな部分を支える地域の宿泊施設の継続は必須だと思います。地域にいかに優れた観光資源があっても、宿泊施設が減ってしまうと観光客が減少するというデータがあります。観光において、宿泊施設は大きな役割を担っているのです。

これからは、2代目、3代目の若い経営者が、旅行業の免許を取得して、宿泊だけでなくプラスαのサービスを提供していくことが必要ではないでしょうか。マルチタスクでの収益性をあげる動きに積極的になれば、地域観光も変わると考えています。

山田祐子氏(井門観光研究所 代表取締役)

沢登 宿泊施設には、年間何十万人、少なくとも何万人という顧客がきます。目の前にくる顧客というのは、大きな財産。その方たちに宿泊だけでなく、プラスの価値を提供すれば売り上げが伸び、さらに事業を生みだせる可能性がある。ただ、現実的には、多くの個人経営の宿泊施設の場合は、マンパワーの問題もあるのか、その可能性のある資産を活かしきれていないように感じています。

二木 北海道トマムの雲海テラスは、「無」だと思われていた雲海という資源に価値を見出し成功した好例だと思います。雲海を幻想的な風景として提案するのは、地元ならではの素敵なアイデアですよね。ただ、そこからムーブメントを起こすには、地域やそれを超えた連携が重要だと思います。私たち航空会社がアライアンスを組み、コードシェアなどで補完しあってサービスを提供しているように、地域を超えた横の連携はできないのかと考えています。

互いにうまく顧客を共有しあうようなアライアンスモデルを構築できると、人材交流も進み、面白い動きが生まれる期待ができます。

山田 小規模高級旅館、オーベルジュが集まった「日本 味の宿」など、すでにアライアンスの動きは出てきています。日本航空の「温泉マイル」もアライアンスと見ることもできるでしょう。また、アライアンスから生まれた事業計画に融資したいという金融機関も出てきているので、期待したいですね。

プロを輩出するキャリアパスを

―観光人材の育成、キャリアは、今後どのようなあり方が求められるでしょうか。

沢登 観光大国を目指すには人材のプロ化が必要だと思います。ガイドにしてもヨーロッパの場合はボランティアではなくそれが本業で生計を立てている。だから知識だけでなくホスピタリティのレベルも非常に高いです。

山田 日本でも大学に観光系の学部・学科は増えましたが、世界レベルの観光のプロ人材が輩出できているかというと疑問を感じるところもあります。

二木 全般的に学部教育では、観光を事業として捉えた経営の視点が弱いように感じています。ツーリズム産業では、経験をベースに、そこに理論を融合しモデル化する能力が大切だと思うので、その点では実務経験者が学ぶ社会人大学院とも親和性が高いと考えています。

山田 大学生に話を聞くと「コンシェルジュになりたい」と、即戦力で通用する実務を身に付けたいという声が多いです。理論やビジネスモデルも考えていけるといいですね。

沢登 実務はもちろん大切ですが、やはり視点はもう少し大きく、観光を基幹産業に育てられる人を育成することですね。その上で優秀なプロ人材には能力に見合った収入が得られるよう市場規模を大きくし、実務経験を経た人がマネジメント、プロデユースに向かうキャリアパスをつくっていくことでしょう。

二木 日本版DMOが各地で設立され人材交流も進んでいくと、少なからずプロ人材は生まれてくると思います。ただ、やはり地域でイノベーションを起こすには、強い想いと常識を打破する相当なタフさも必要ですね。

―地域観光でもインバウンドに注力したマーケティングも重要になってきます。

沢登 インバウンドを考えた場合には、日本人相手以上にマーケットインの視点が重要。プロダクトアウトはまったく通用しないという認識くらいがちょうどいい。

二木 数年前に海外の観光ガイドブックのスタッフと地域を回ったことがありますが、日本人とは着目点がまったく違うことに驚きました。自治体の方が必死にPRする施設には関心を示さず、日本人から見たら何の変哲もない古民家や何もない自然に強い関心を示したりする。

山田 徳島県の秘境で知られる祖谷渓は、香港人に人気です。もちろんマーケティングやプロモーションが功を奏したと言えますが、ビルに囲まれた町で住む彼らの楽しみは、自然に親しみながらドライブすることのようです。広大な北海道に憧れを抱くのと似ています。このように、日本人目線では気づきにくいけれど、地域にはそうしたまだ眠った資産があるということですね。

沢登 そういう動きを結果論ではなく、こちら側からいかに仕掛けられるか。だから相当に高いレベルでのポジショニング、ターゲティングが必要。よく「富裕層を狙え」などと簡単に言いますが、どんなレベルの、どんなステージの富裕層なのか。そこをきっちり決めないと、狙い通りの成果は望めないと思います。

二木 そのマーケティングをしっかり行わないと、訪日外国人数の増加、その経済効果といった表面的な数字だけが一人歩きし、発展性のあるインバウンド戦略にならない危険性があると思います。

山田 地域の事業者も、地域が収益を得られるインバウンド事業を考えていくことが大切ですね。

沢登 地域経営としての観光ビジョンが、真に地域を発展させるカギとなるでしょう。

徳島県の秘境「祖谷渓」は、香港人に人気。自然を楽しみながらドライブする目的で観光に来る。©indianaholmes/123RF.COM

沢登 次彦(さわのぼり・つぐひこ)
リクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンター長

 

二木 真(ふたき・まこと)
日本航空 宣伝部 企画媒体グループ グループ長

 

山田 祐子(やまだ・ゆうこ)
井門観光研究所 代表取締役

 

 

『環境会議2016年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 環境と観光で実現する インバウンド・ジャパン
あん・まくどなるど(環境歴史学者)、デービッド・アトキンソン(『新・観光立国論』著者)、他
特集2 一歩先の暮らしを考える ソーシャルデザイン
有馬利男(国連グローバル・コンパクト)、他 (発売日:9月5日)

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