2016年10月号

環境会議

ソーシャル文脈で始まるグローバルなビジネス展開

福井 崇人(電通 第2CR プランニング局 部長)

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環境問題に対する関心は、特に1990年代以降、世界的に高まり、環境コミュニケーションの重要性も増してきた。その一方で、近年は課題解決が必要なのは環境だけではないという認識への変化から、他の社会的課題への対象の広がりがみられる。また、グローバル企業のビジネスでは、本業に近い領域で社会的課題の解決に取り組み、ビジネスの拡大につなげていこうという試みが世界的な潮流になっている。

夏至の日に行われた「100万人のキャンドルナイト」。電気を消して節電する「ライトダウン」の取り組みの一つ。©ootahara/123RF.COM

環境問題だけでなく他の課題解決もテーマに

環境問題は1990年代以降、世界的に注目を集めるようになり、これに伴い、環境コミュニケーションも盛んになった。国内では「環境立国」を目指して2002年に環境省が、企業やNGOのトップ、著名人などによる円卓会議「環の国くらし会議」を設置した。

「これを受けて、様々な啓発活動が始まりました。地球温暖化防止のための京都議定書で、日本が約束した温室効果ガス削減目標の達成を目指す国民的プロジェクト『チーム・マイナス6%』『チャレンジ25』もその一つです」

電通第2CR プランニング局の福井崇人部長は当時、この会議の分科会でメンバーになった。福井氏はその際、夏至の日に電気を消して、節電に取り組むキャンペーンの「ライトダウン」を担当した。以降、このキャンペーンは毎年実施されるようになった。同様に「クールビズ(COOLBIZ)」は、オフィスや家庭での冷房時に、室温28℃でも快適に過ごせるように工夫するキャンペーンとして始まった。

「クールビズでは最初に、28℃と表記されたネクタイ型のバッジを作りました。当時は職場でネクタイをはずすことに関して、『お客様に失礼』という雰囲気がありました。このため、『ネクタイは、ここにあります』と示せる形のバッジを作ったのです。当時の小池百合子・環境大臣にバッジを渡したところ、他の大臣にも配ってくださり、そこから火が点きました」

また2010年に名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、大きなターニング・ポイントとなった。「想いでつなごう! COP10おりがみプロジェクト」は、おりがみを折り未来へのメッセージを書くことを通じて生物多様性の大切さを考える契機となった。世界の人たちに、絶滅危惧種の生物を折り紙で折ってもらい、世界中からたくさんのメッセージが日本へ寄せられた。

「生物多様性という言葉や問題はあまり認知されていなかったので、まずは認知を向上させる空気づくりをしました。この取り組みでは、世界と日本が共に動きました」

一方、1990年代以降の環境問題に対する意識の高まりにおいて、近年みられる傾向は、課題解決が必要なのは環境だけではないという認識への変化だという。

「例えば、消費者庁は『倫理的消費』調査研究会を設置し、消費行動という点に注目して課題解決を目指しています。倫理的という意味の、エシカルという言葉がよく用いられるようになり、これには環境問題だけでなく、人権など他の社会的課題も含まれます」

昨年9月の「国連持続可能な開発サミット」では、17の目標と169のターゲットから成る「持続可能な開発目標(SDGs)」が設定された。この中で12番目の目標となっているのは、「責任ある消費と生産(ResponsibleConsumptionandProduction)」で、これはエシカルな消費を目指すものでもある。現在は、この目標の達成に向けた企業の動きも出てきている。

CSRに求められる「差別化」 海外では法制定の動きも

日本企業による、企業の社会的責任(CSR)に関する活動は当初、環境に関するものが多かったが、近年は環境以外の領域に広がっている。

「特に、グローバルに活動する企業は海外進出の際、それぞれの国における課題を見つけ、CSRを入り口として本業のビジネスにつなげていくのが現在の潮流となっています。そこでは各企業の強みを活かし、課題解決もできるウィンウィンの関係が求められます」

福井 崇人(電通 第2CR プランニング局 部長)

例えば、インドでは子どもの数が約5億人と世界一多いため、子どもたちが通う学校にコピー機を入れ、学校の設備を整えることからビジネスを拡大させている日本企業もある。また、アフリカの貧しい人たちの栄養バランスを改善するため、低価格の食品を開発し、販売を拡大させたケースもある。

「日本企業による従来のCSRには、志はあるものの何をしたら良いかわからないというところがありました。活動内容はボランティア的なものが多かったと思いますが、現在はそのような空気はなくなってきています」

福井氏によれば、日本企業のCSRに関して現在、足りないのは、社内外へのインパクトと法律の浸透だ。社内へのインパクトに関しては、CSRを企業の利益につなげることが難しいという点が挙げられる。

「企業にとって利益を出すことは非常に重要で、利益が出にくいCSRへの社内の評価はあまり高くありません。このため、担当者には肩身が狭いところがあると思います。他方で、今後はますますCSRで社会的課題の解決という入り口から入り、ビジネスにつなげるためのハブ役を務める『トライセクター・リーダー』といわれる人材が重要になるでしょう」

社外へのインパクトを生み出すためには、「差別化」が必要となる。従来のCSRでは、多くの企業が植林などの活動を行っていたが、横並びの活動では差別化できない。各企業には、本業に近い部分でオリジナリティーのある活動を展開することが求められる。

一方、法律の浸透に関しては、海外ではCSRに関する法律を制定する動きが出てきている。インドでは2013年の会社法改正によって、大企業のCSRが義務化された。新会社法では大企業に、利益の2%以上をCSRに使うことが義務付けられている。

また、イギリスでは昨年、「現代奴隷法(ModernSlaveryAct2015)」が制定され、イギリスを拠点に活動する年間売上高が約60億円以上の企業に、サプライチェーンをすべて公開することが義務付けられた。同様の動きは今後、フランスや米国などにも広がっていくとみられている。

サプライチェーンの変革でコスト削減も実現

さらに、世界の潮流はソーシャルでどのようにビジネスをするかというものになっており、CSRに関しては海外から学ぶことが多いという。

「日本人には、何でも国がやってくれるというような意識がありますが、ヨーロッパではそうではありません。市民には国や大企業に頼らず、自分たちでやっていこうという意識があります」

ドイツやオランダなどでは環境保護団体の会員が非常に多く、NGO幹部がその後に大企業や行政機関の幹部となるようなことも珍しくない。多様な人材が異なる組織を横断し、「ジグザグの出世」を重ねていくことから、多様なアイディアが活かされる。

他方でヨーロッパの企業には、過去の不祥事によって社会から批判を受け、結果として社会的課題に前向きに取り組むようになったところも少なくない。

「社会で叩かれる文化だからこそ、企業はしっかりしなくてはいけないというところもあるのでしょう」

社会的な課題に取り組むソーシャルデザインでは、サプライチェーンの変革も重要だ。例えば、ヨーロッパの有名なコンサルタントは、ある企業のサプライチェーンをソーシャルに変革し、サプライチェーンのコストを半分程度に削減した。このような取り組みでは、企業はCSRの活動を利益につなげることもできる。

ソーシャルデザインを地方創生につなげる「ソーシャルな取り組みでは、数字で成果を出すには、10年の我慢が必要といわれます。オーナー企業でオーナー自らが始めたような場合は別ですが、株式会社は四半期ごとに成果を出さなければならず、成果が出るまで待ってもらうのが難しいという課題もあります」

国内では企業のCSRを担当する部署は、経営企画部門などが多いが、福井氏によれば、最も良い位置は社長の直下だ。CSRに関して世界的に注目されている企業には、創業者の意識が強いところが多い。

『福沢諭吉 学問のすゝめ』齋藤孝 編(NHK 出版、2012年

「そのような創業者にとっては、自分の生き方とビジネスが一致しています。日本でもかつて福沢諭吉は著書『学問のすすめ』の中で、社会を良くすることと自分を高めて満足することを切り離さず、両立させるべきだと言っています」

ソーシャルデザインではまた、社員のモチベーションを向上させることも重要となる。世界的にフランチャイズを展開しているイギリスの大手小売業者では、消費者の関心が高まっているサステナビリティの実現に向けた変革を行う計画を取り入れた。

この会社ではプライベートブランドが多くを占めていて、その多くが持続可能性に関する認証マークが付いたものになっている。また、社内では表彰制度を作り、各部署の取り組みを競わせている。社員のモチベーションは非常に高く、社員が会社を辞めることも少ないという。

一方、国内に目を向けると、2014年の内閣府の発表によれば、2100年には日本の人口が約5200万人程度に減少し、その大部分を占めるのは高齢者となる見通しだ。

「このような中で地方創生を進めるには、地方に人を呼ぶ産業が必要となります。この点では、イタリアが1つのモデルになると思います。

イタリアでは各地方に世界的なブランドを持つ企業があり、売上の規模は大きく、地方が安定しているそうです。日本でも地方に良いものがたくさんあるので、それらを世界で通用する商品にしていければ良いと思います」

福井氏はその際、重要となるのはソーシャル文脈だとみている。国内では高齢化が進む中、健康寿命をどう伸ばすかが大きな課題となっている。さらに、環境保全や人権など様々な分野において可能性が存在する。

各企業がそれぞれの得意分野で、それらの社会的課題に取り組み、ウィンウィンの関係を築いていくことが期待されている。

福井 崇人(ふくい・たかし)
電通 第2CR プランニング局 部長

 

『環境会議2016年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 環境と観光で実現する インバウンド・ジャパン
あん・まくどなるど(環境歴史学者)、デービッド・アトキンソン(『新・観光立国論』著者)、他
特集2 一歩先の暮らしを考える ソーシャルデザイン
有馬利男(国連グローバル・コンパクト)、他 (発売日:9月5日)

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