2016年10月号

環境会議

インドの教育支援を通じ価値とビジネスを創出

赤堀 久美子(リコー サステナビリティ推進本部 社会環境室 CSRグループ シニアスペシャリスト)

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リコーでは、CSV の考え方を取り入れた事業の強化に取り組む。事業部門とCSR 部門が連携し、NGO の協力も得ながら、インドの教育支援プロジェクトを実施している。インドの学校では印刷機やプロジェクター等の機器が、先進国のように普及していない。現地で調査や支援を行いながら、ニーズに応えた製品の開発や市場の開拓につなげている。

インドにて、プロジェクターを使用したパイロット授業。

企業のリソースを活用し成長と社会課題の解決目指す

リコーグループの事業活動の基礎となる普遍的な理念の「リコーウェイ」では、リコーの使命を「世の中の役に立つ新しい価値を生み出し、提供しつづけることで、人々の生活の質の向上と持続可能な社会づくりに積極的に貢献する」としている。

リコーのサステナビリティ推進本部社会環境室CSRグループでシニアスペシャリストを務める赤堀久美子氏によれば、これがリコーのサステナビリティ推進の原点となっている。リコーのCSRグループで現在、特に強化しようとしている取り組みのひとつが「共通価値の創造(CSV)」の考えを取り入れた活動だ。

「持続可能な社会づくりのキーとして企業が貢献していくには、企業のリソースをフルに活かしつつ、企業の成長と社会課題解決の双方を目指す事業やプロセスをいかに実現していくかが重要となります。そのためには、小さくても社内で実例を作り、社会課題への取り組みが価値提供や新しい事業につながることを、社内で理解してもらう必要があります。その事例づくりを現在、事業部と共に進めています」

学生時代から発展途上国の支援に関心があった赤堀氏は大学卒業後、リコーに入社し、デジタルカメラの海外販売などに従事した。しかし、途上国を直接支援する仕事を通じて現場を知りたいと考え、2003年に紛争後の復興支援などをしているNGOに転職した。

その後は再び、企業からの貢献という形を目指して、2008年にキャリア採用を通じて再びリコーに入社し、CSR部門の仕事を担当することになった。当時は企業のCSRが活発になり、NGOとの連携が始まっていたほか、低所得者層を対象とするBOPビジネスなども注目され始めた時期だった。

リコーのCSRグループには当時、事業部や社会との連携を通じた企画や商品開発を行うことにより、マーケットを広げられるのではないかと考える社員が集まっていた。NGOでの勤務経験がある赤堀氏もその1人で、そのための取り組みを開始した。

その後は、事業部門にBOPビジネスのコンセプトを伝え、勉強会や支援団体の訪問など様々な活動を展開した。この活動を通じて社内で情報交換が進み、ネットワークも生まれた。リコーの社会貢献では従来、国内プロジェクトが多かったが、売上や社員数でも海外の比率が増す中で、海外プロジェクトを拡大する方針となった。

赤堀 久美子(リコー サステナビリティ推進本部 社会環境室 CSRグループ シニアスペシャリスト)

インドの学校で調査を行いニーズに沿った商品を開発

このようにして立ち上げられたインドの教育支援プロジェクトは当初、学校に印刷機を寄贈し、使用してもらうことから始めた。

「印刷機はコピー機より運用コストが安く、先進国の学校には必ずありますが、途上国の学校ではほとんど使われていません。そこで、何か工夫をすれば使われるようになるのではないかと考えました」

インドの首都から離れたアンドラ・プラデシュ州(現テランガナ州)の学校に印刷機を設置して使ってもらい、そこで得られた情報を基に、どのような印刷機を提供すれば市場が広がるかというマーケティングを行った。子どもの支援を専門とする国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の協力も得て、社内の事業部と共に計画を立て、社会貢献のプログラムとして実施した。

印刷機の使い方研修を受けるインドの先生。

この活動に関する情報は社内でオープンにし、報告会も実施した。事業部には学校に関心を持っている部署もあり、その1つがプロジェクターの事業部門だった。プロジェクターにはオフィス以外にも様々な市場があり、その中には学校も含まれる。

インドでは子どもの数が3億人以上で、125万校の学校があることから、将来的に大きな市場になると予測された。

現地で学校を訪問し、調査を行った結果、プロジェクターを使って大画面に映像を映すことで子どもたちは楽しく学習でき、先生も教えやすくなるのではないかということになった。しかし、先生はパソコンを持っておらず、プロジェクター単体で購入してもらっても実際に授業で活用するのは難しい。

そこで国際協力機構(JICA)の支援も得て、2013年10月から2年間、プロジェクターに関する調査事業を実施した。

調査は首都デリーと、テランガナ州、そしてインドの最貧州といわれるビハールの3地域で行った。その結果、3地域の中でも経済的に中間に位置するテランガナ州を中心に、提案活動を行っていくことになった。テランガナ州では学校のIT化の予算もあり、州政府もこのプロジェクトに関心を持っていた。以前もリコーがプロジェクトを実施していたこともあり、州政府とは良い関係が築かれていた。

現在、この調査結果に基づき、リコーが準備しているのはハードウェアのパッケージで、それを後押しするITサービスの提案も目指している。パソコンがなくてもコンテンツが動き、停電時も使えるなど、現地の学校のニーズに合ったプロジェクターづくりを進めている。授業で使うリモコンは、シンプルな方が使いやすいとわかった。事業として販売につながるのはこれからだが、現地のニーズを考慮したプロジェクターやリモコンの製品化の準備をしている。

プロジェクターで映像を見る子どもたち。映像を活用し、活発に手が挙がる授業の様子。

社外の連携も広がる

インドの教育支援プロジェクトは、事業部の主導で進められてきた。CSRグループはサポートしているが、マーケティングやどのような事業にしていくかという主な部分は、事業部門と現地の販売会社で教育市場を狙うチーム、営業チームが担当してきた。

「事業部には、この活動に非常に価値があると考えて動いている中心メンバーがいました。このようなキーマンは、重要です。また、調査だけで成果を出せなければ、継続は困難ですが、調査活動が、現地企業への販売にもつながり、売上を出しながら活動してきたのが良かったのだと思います。さらに2、3年後のビジネスを目指し、市場開拓という形で価値づくりをしたことが、社内の理解につながったと思います」

社会課題を解決しつつ、ビジネスとして成功させることへの関心は、近年高まっているが、実際にはハードルが高く、ビジネスにつながらないケースも多い。このような中でプロジェクトに挑戦するには、社内の理解と連携が重要になる。

「昨年はキーとなる事業部門に参加してもらい、『新興国の未来から生み出すビジネス』のテーマでワークショップを開き、リコーがどのように貢献できるかという議論もしました。ワークショップに参加した人たちが何を考え、どんなリソースを持っているかを知ることにも価値があり、そこから新たなプロジェクトが生まれることもあります」

リコーでは人事部門の研修にも、CSVの要素が取り入れられている。今後はCSVの考えを社内でさらに広めると共に、それをどのように経営の中に取り入れていくかが課題となる。「色々な社員の層に、このコンセプトを理解し、事業の中で価値があると思ってもらえば、動くと思います。そのためにはまず、成功事例を作ることが大事です」

インドの教育支援プロジェクトでは、社内の連携と共に、社外の連携も広がっている。セーブ・ザ・チルドレンとの連携を通じ、インド政府との連携が実現したほか、様々な業種の企業からも「何か一緒にできないか」という問い合わせが寄せられる。多様な企業が連携し、そのリソースを使って社会的課題に取り組むことで、社会に大きなインパクトを与えることが期待される。

社内で「新興国の未来から生み出すビジネス」のテーマでワークショップを開催した。

赤堀 久美子(あかぼり・くみこ)
リコー サステナビリティ推進本部 社会環境室 CSRグループ シニアスペシャリスト

 

『環境会議2016年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
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