有効な適応策の実行には国としての戦略計画が重要

集中豪雨、記録的猛暑、土砂災害......。気候変動に伴うさまざまなリスクにいかにして備えるか。温暖化への根本治療でもある緩和策とともに、世界各国で今、注目されているのが、気候科学・影響予測技術など最新の研究を基にした適応策の実行だ。IPCC第5次評価報告書の主執筆者のひとりであり、適応策研究の第一人者である茨城大学・三村信男学長に、我が国の適応策戦略の現状などについて話を聞いた。

緩和策と適応策を同時に

--昨年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書が公表されました。なかでも第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性に関する報告)は日本で行われたIPCC総会で承認されたこともあって、温暖化リスクに対する適応策への理解は相当に高まってきたのではないでしょうか。

かねて温暖化対策には緩和策と適応策の両面からアプローチすべきと提言してきましたが、ここにきて日本国内での理解もかなり進んできたと思います。

緩和策は温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの排出抑制、あるいは吸収するというもので、いわば根本治療です。しかし、緩和策を一生懸命にやっても、干ばつや集中豪雨などの事象は実際に起きてしまうので、その都度対応していかなければなりません。

そうした将来のリスクを予見し、先んじた対応を施すのが適応策です。もちろん緩和策によってあらゆるリスクが回避されるならば問題ないでしょう。しかし、現在国際的目標になっているのは2100年までに地球温暖化を2℃以下に抑えるというもの。過去150年の世界の温度上昇が0.8℃ですから、仮に2℃以内に上昇を抑えられたとしても、さらに激しい影響が出ることになります。だからこそ温暖化に対しては緩和策と適応策を同時に実施し、全体のリスクを少しでも低くする両面からのアプローチが重要なのです。

三村 信男 茨城大学 学長

将来のリスクに先手を打つプロアクティブな対策

--従来の災害対応と「適応」とは何が異なるのでしょう。

下水道を整備して衛生面の環境を整えたり、厳しい環境条件に耐えるよう農作物を改良したり、私たち人間は環境や気象の変化に対応してきました。その意味で適応はことさら新しい概念ではありません。今、言われている適応が従来の災害対応などと大きく異なるのは、起きた事象に対してではなく、将来の可能性に対して先手を打つ「プロアクティブ」な対策であることでしょう。まだ起きていない、けれど起きる可能性のあるリスクを予見し、予見的に対応していくのが温暖化における適応の考え方です。

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