2015年10月号

環境会議

社会的課題からビジネス創造―利益を追求する価値観

見山 謙一郎(フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役、事業構想大学院大学 客員教授)

1
​ ​ ​

ビジネスを生み出す事業構想力を育むためには「仮説創設力」が求められる。そして、その力を身につけるためには物事を深堀して考える必要がある。私が大学や大学院でビジネスプランの作成を指導する際、論文のフレームワークを引用したビジネスプラン作成のためのフレームワークを用いているのは、そのためだ(図1)。

図1 ビジネスプラン作成のためのフレームワーク

出典:「社会科学系のための「優秀論文」作成術」川崎剛(2010)をベースに筆者作成

 

私自身は「仮説創設力」を「課題の抽出力」と「本質的原因の探求力」と定義しているが、誰の目にも留まるような目に見える課題は、実は真の課題ではないかも知れないし、真っ先に頭の中に浮かぶような表層的な原因をいくら探求しても、本質的な解決には繋がらないこともあり得る。私のゼミや講義の中では、「なぜ、その事業を構想するのか」というビジネスの背骨となる目的部分、つまりビジネスの「Why」に相当する部分にかなりの時間を費やすことになる。ビジネスの目的部分を、①社会的課題を解決するため、②顕在化している需要に対応するため、③潜在的な需要に対応するため、④これまでにはない新たな価値を創造するための4つに類型化しているが、本稿では、①の社会的課題を解決するためのビジネスについて述べていきたい。

想像力が生まれる場面とは

ここ最近、大学、大学院の講義やゼミでの指導に加え、企業や行政機関から新規ビジネスに関する企画やコーディネーターの依頼を受ける機会が増えている。新規ビジネスへの期待が高まる一方で、ビジネスの芽を見つけることはとても難しい。

新たなビジネスの「創造」を目指すものの、多くの人が「想像」の段階で行き詰っている。想像力(=イマジネーション)が生まれる場面は、どのように訪れるのだろうか?

あらためてこのことを考えてみると、二つの場面が浮かんでくる。ひとつは、夢や希望から生まれるポジティブな場面。つまり、子ども心に立ち返る時だ。そしてもうひとつは、時間や予算など、様々な「制約」に追い込まれ、それを何とか克服しようと知恵を搾り出す瞬間に訪れるもの。締め切り間際にストーリーが降りてくる小説家の如く、相当追い込まれた局面で事態打開の妙案が浮んで来たという経験をした人は多いのではないだろうか?

「社会的課題からビジネスを生み出す」ということは、一見後者に分類されるものと考えられがちだが、あながちそれだけとは言い切れない。

希望溢れるバングラデシュ

これまで仕事で30回以上訪れているバングラディシュで、いつも感じることは、河川汚染やごみ問題など衛生面や環境面での社会的課題が山積し、現地の生活は厳しい状態にあるものの、そこで暮らす人々は未来への希望に溢れているということだ。

バングラデシュは、ベトナムやミャンマーなど他の新興国・途上国と比べビジネスの対象と見なされることが少ない国であるが、現実は1.6億人もの人口を擁し、年5%以上の経済成長を過去20年に渡って続けているビジネスの可能性溢れる国である。同国は“Vision2021”という国家戦略の下、2021年の中所得国入りを目指していたが、2015年7月の世界銀行の報告によれば、5年以上計画を前倒しし、中所得国(低中所得国)入りを果たしている。

また、今年度から生産年齢人口(15~64歳の人口)が非生産年齢人口(0~14歳+65歳以上)の2倍以上に達する人口ボーナス期が到来し、2019年にはGDPの年率経済成長がアジアナンバー1になることが見込まれている。こうした未来への明るい展望が、バングラデシュ国民のポジティブさにあらわれているのだ。

翻って日本の現状は、長引く経済停滞の下、少子高齢化やエネルギー問題など先進国ならではの多くの社会的課題を抱えており、ポジティブな未来像を描けずにいる。社会的課題という「制約条件」は、日本もバングラデシュも同じように抱えているが、未来への「夢や希望」というポジティブさの欠如が、我が国における新規ビジネスの想像力を阻んでいるように思われる。

多様な国や地域の行動様式
フィールドごとの思考の違い

この問題について、シリコンバレーの起業家で、Facebook初の外部投資家としても知られるピーター・ティールは、著書『ZERO to ONE』の中で、何をすべきかが「明確か×あいまいか」、それに対して「楽観的か×悲観的か」という観点から、「明確な楽観主義」、「明確な悲観主義」、「あいまいな楽観主義」、「あいまいな悲観主義」というマトリクスを使って国や地域の行動様式の違いを解説している(図2)。

図2 ピーター・ティールのマトリクス

出典:ピーター・ティール『ZERO to ONE』(2014)に筆者加筆

 

ティールによれば、楽観的であるほど計画と努力を惜しまず、悲観的であるほど備えを重視するという。

例えば、何をすべきかが明確だった1950年から60年代の古きよきアメリカのような「明確な楽観主義」は、自らの計画と努力によって、よりよい未来が訪れると信じる一方、爆発的な人口増加により資源の爆食が続く中国のような「明確な悲観主義」は、未来を知ることは可能でも、その未来が暗いために備えが必要と感じているという。

また、経常収支が赤字に転落した1982年以降から今日に到るアメリカのような「あいまいな楽観主義」は、未来は今より良くなると思っていても、どんな姿になるかを想像できず、具体的な計画を立てることはないという。そして、ヨーロッパのような「あいまいな悲観主義者」は、暗い未来を想像するも、それにどう対処するかはお手上げの状況だと述べている。

同書の中で日本についての言及はないが、このマトリックスに敢えて当てはめるならば、他の先進国と同様に多くの社会的課題を抱えるものの、何をすべきかがあいまいな状況であることは変わりない。そして、社会的課題について意識はあるが、誰かがやってくれると考える他力本願型の楽観主義であり、その一方で悟り型の悲観的な一面を併せ持っているのが日本の特徴といえよう。

これに対して、バングラデシュのような新興国・途上国は、社会的課題の解決のために何をすべきかが明確であり、未来に対しても極めて楽観的である。このような国をフィールドに、その国の人々とともに社会課題解決型の取り組みを行なうことは、我が国にとっても大きなビジネスチャンスにつながるとともに、リバース・イノベーション(途上国で最初に採用されたイノベーションが、富裕国へと逆流していくこと)を生み出すことにもつながって行くだろう。

利益を追求する価値観

今、開発途上国におけるビジネスは、所得階層底辺の人々を支援の対象と見なすのではなく、顧客と捉える「BOPビジネス」として注目されている。このことは、地球温暖化が社会的課題として認識されるようになった1990年代後半以降「環境ビジネス」が注目され始めた時のような空気感を感じる。

日本人は社会課題解決型のビジネス用語に敏感に反応する傾向が強い。しかし、いわゆる「環境ビジネス」や「BOPビジネス」と呼ばれるビジネスに関わってきた私自身の経験から言えることは、これらは決して特別なビジネスではないということだ。

そして同じことは「CSR」にも当てはまる。CSRの評価指標としては、ジョン・エルキントンが提唱した「トリプルボトムライン」が有名だが、これは企業を財務的側面からだけではなく、①経済的側面、②社会的側面、③環境的側面という3つの側面から総合的に評価しようとするもので②の社会的側面がBOPビジネスに、③の環境的側面が環境ビジネスと関連する。

一方、バングラデシュのBRACという農村部の貧困層を対象に自立を促す活動を行なう世界最大のNGOや、オランダで環境保全活動に対する融資を行なうトリオドス銀行などが重視するトリプルボトムラインは①Profit(利益)、②People(人)、③Planet(地球)という「3Ps」と言われるもので、最大の特徴はProfitというストレートな価値観を社会課題解決型の取り組みに用いていることだ(図3)。一方、我が国の社会課題解決型のビジネスに欠けていることは、Profitを追求するという価値観である。

図3 CSR評価者のための指標「トリプルボトムライン」

出典:筆者作成

 

日本の企業に対してバングラデシュでのビジネス提案を行なうと「ビジネスでは難しいが、CSRであれば可能かもしれない」、という回答をいただくことが少なくない。しかし、バングラデシュの企業のみならずNGOの中にも、日本企業のCSR活動との連携は、持続性と発展性、拡張性がないために、取り組む意味がないと明言するところもある。

社会課題解決型の取り組みはもちろん始めることにも意義はあるが、それ以上に持続性と発展性、拡張性にこそ本当の意義がある。始めることが目的化し、十分な事業精査が行なわれずスタートした社会課題解決型ビジネスが行き詰るという「社会貢献の罠」に陥らないためにも、「3Ps」のProfitは、社会的課題からビジネスを生み出すために、決して避けて通ることが出来ない価値観なのである。

見山 謙一郎(みやま・けんいちろう)
フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役、事業構想大学院大学 客員教授

 

『環境会議2015年秋号』

『環境会議』『人間会議』は2000年に創刊以来、社会の課題に対して、幅広く問題意識を持つ方々と共に未来を考えています。

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」、『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、企業が信頼を得るために欠かせない経営・CSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。(発売日:9月5日)
» 宣伝会議ONLINEで買う

1
​ ​ ​

バックナンバー

別冊「環境会議」2019年秋号

環境知性を暮らしと仕事に生かす

特集1 SDGs時代に描く 開発の未来

特集2 再エネ・新エネで推進 持続可能な社会づくり

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる