環境貢献から動く地方創生―カーボン・オフセットの意義

地球の持続性

Think globally,Act locally.という言葉にならい、まず地球の持続性について考えることから始めたい。

資源の多くを海外に依存し、成熟社会にある日本では、地球の持続性などといってもイメージがわきにくいかもしれない。このため、地球が今日一日でどれほど変わってしまうかを具体的に捉えてみたい。例えば世界の人口については、少し前のデータになるが、全世界で一日約37万人の赤ちゃんが生まれている。亡くなる方を差し引いても一日約22万人の増加となる。誤解を恐れず想像をたくましくし、毎週100万都市ができる様を考えてみよう。都市には社会インフラが欠かせず、その整備には大量の資材が用いられ、諸機能の維持には膨大なエネルギーが必要となる。そもそも命を支える水や食糧等も多量に必要となる。この膨大な資源・エネルギーの消費が地球環境への負荷となっている。食糧は一日800万トンを生産し、他方で様々な廃棄物を3500万トン発生させている。自動車を一日に20万台を生産する傍ら12万台をスクラップしている。土砂・岩石については毎日6000万トンを掘削し経済社会活動に投入しているが、これは1500メートル程度の山を毎日切り崩していることに相当する。これらは一日で地球に加えられる人類の活動のほんの一例である。

一方、自然が土を1センチ作るのに100年が必要であると言われる。豊かな森は数千年の時を経ている。こうして見ると、現在の経済社会活動は、持続可能であろうか。

学術研究の面から地球環境問題の概観を試みると、循環に関わるもの、多様性に関わるもの、資源に関わるもの、の大きな三本柱で表現されることもあり、さらに時間軸を重視した文明環境論という研究分野や地域空間に焦点をあて、その地球規模での影響を詳らかにしようとする地域地球環境問題がある(*1)。古代の文明は、豊かな森林に恵まれ木材を豊富に供給出来るところやその周辺部で発展している。木材が枯渇するとより森林の豊かな場所に、例えば、メソポタミアからクレタへ、クレタからギリシャへ、ギリシャからローマへなど文明の繁栄の中心が遷移している。未開のフロンティアが広がる時代は良いが、地球規模でフロンティアが消失した時、人類はどうするのか。今、人類に問われている課題である。

多様性の研究は、生物多様性だけでなく、民族・文化の多様性も対象としている。世界にある5000~6800位の言語も100年後には半減すると危惧している研究(*2)もある。言語は民族文化の結晶とみることもできようが、その民族文化が毎年30位ずつ失われていくというのは非常に大きな損失であろう。また、現在数千あるいは一万種類とも言われている利用可能な作物の中で、人類はほんの20種類程度の非常に限られた品種に依存をしているという研究(*3)もある。少ない品種に依存する社会構造が脆弱性を表していると見ることもできよう。また将来世代のために現代世代は何をすべきか、人類の可能性や地球環境の持続性など、広範多岐な研究がなされている。

カーボン・プライシング施策

社会の持続性に関する問題で最も国際的に重視されているのは、気候変動の問題であるといえよう。昨年9月、ニューヨークで国連気候サミットが開かれた。この気候サミットでは、カーボン・プライシングが大きなテーマであった。EUではEUワイドでの排出量取引制度という先進的な制度がある。この制度をうまく機能していないとして、たかをくくるだけでは今後の国際的な気候変動政策の動向を読み誤るおそれがある。

2005年の制度導入以降、EUでは制度対象者とともに不断の見直しを進め、制度の改善に努めている。世界的に炭素価格を一定の水準に収斂させようという動きも出始めているが、EU ―ETSにおける排出量の取引価格が今後、どのような影響を及ぼすのか、見定める必要があろう。アジアでは、韓国が2015年に排出量取引制度を導入し、中国では2省5市でのモデル事業の結果を踏まえて2016年頃の全国導入に向けた検討が本格化している。先の国連気候サミットで韓国は、中国・排出量市場とリンクしたいと表明している。また米国では州レベルでの排出量取引制度が存在するが、例えば米国・カリフォルニア州とカナダ・ケベック州は相互に制度の乗り入れを実施している。EU、アジア、米州などのカーボン・プライシング担当者は、排出量取引市場が全世界的にリンクしたイメージ、すなわち、グローバル・カーボン・マーケットの出現を意識しながら次の政策を検討している。グローバル・カーボン・マーケット参加国間では、炭素価格が競争力に与える影響は等しく現れる。このように世界的な動きが急展開を見せる中で、日本の姿勢は大変重要なポイントになってくる。

地球環境を取り巻く国際情勢

昨年、IPCCの第5次評価報告書統合報告書が発表された。気温の上昇を2℃未満に抑えることを概ねの認識として、そこに至る経路がいくつかあるとした。

21世紀末までに排出をほぼ0にする、あるいはCO2排出量を2040年~2070年の間で2010年比の90%以上削減する、あるいは再生可能エネルギー等低炭素エネルギーを2050年までに80%以上に引き上げる事が必要であるなどと示された。また、累積炭素排出量と世界平均の地上気温の上昇との相関関係に関して新たな知見が得られた。累積の総排出量を約3兆トンに抑える事で、気温変化を2℃前後に抑えられるが、既に約2兆トン弱が排出されており、今後、排出可能な量は1兆トンとなる。まさに二酸化炭素の排出抑制というのは待ったなしで、国際社会は早急に足並みを揃えた対策を取る必要がある。

このための国際交渉として本年末にパリで開かれるCOP21が非常に大きな節目になる。現在、2020年までの温暖化対策についてはメキシコ・カンクンでとりまとめられたいわゆる「カンクン合意」に基づき進められているが、それ以降の対策枠組みがCOP21で決定すると見込まれている。最近では中国が非常に排出量を伸ばすなど、いわゆる途上国からの排出量が大きな割合を占めているが、日本は公平で実効性のある枠組を作ることに貢献したいと考えている。国際的な交渉力や発言力を高めるためにも、できるだけ早期に野心的な約束草案(日本の温室効果ガスの排出削減目標等)を提出する必要がある。

環境技術の展開を通じた国際貢献

図1 二国間クレジット制度(設備補助事業)のイメージ

市場メカニズム室では二国間クレジット制度(JCM)という、優れた低炭素技術等の普及を促進し、途上国における温室効果ガスの排出を削減する制度を推進している(図1)。この制度自体は比較的新しく、2013年1月にモンゴルとの二国間文書に署名をしたことを皮切りに、現在12か国との間で実施されている。途上国からの人気が非常に高い制度である。事業の初期投資額の1/2(最大)を補助し、得られたクレジットの1/2以上を日本政府に納付してもらう設備補助事業では、2014年10月、インドネシアにおいて、JCMプロジェクトの第1号が登録され、年間100トン程度のクレジット発行を見込んでいる。登録を目指している事業の中には年間10万トンクラスの排出削減が見込まれる事業もあり、今後次々にJCMプロジェクトを展開したいと考えている。こうした制度の活用が途上国の支援、ひいては、地球規模での温室効果ガスの排出削減にも繋がり、日本の目に見える貢献としても重要性を増していくものと考えている。

カーボン・オフセットの意義

こうした国際的な動向などを踏まえつつ、目下の課題でもある我が国の地方創生に、環境対策がどのように貢献しうるかを考えてみたい。

現政権でも地域の活性化を重視し、各種の政策立案作業を進めていることはご案内の通りである。一つの重要な考え方としてカーボン・オフセットを紹介したい。カーボン・オフセットとは、家庭、オフィス、移動も含め、まず自ら排出する温室効果ガスを把握した上で削減努力を行い、排出削減が困難なものについては他の場所の温室効果ガス排出削減量又は吸収量(クレジット)を購入してオフセット(埋め合わせ)をするという取組である。このカーボン・オフセットの重要な意義として、以下に見るように地域の活性化、地方創生に貢献できる点があげられる。

カーボン・オフセットを通じた地域振興

平成27年度は、地域社会において創出されたクレジットが、カーボン・オフセット実施者に購入され、その分のクレジット料金が最終的には地域社会に還流し、地域レベルでの雇用確保等を含め地域の活性化や地方創生につながるような事業を展開することとしている(図2)。

図2 クレジット制度を活用した地域経済の循環促進事業(平成27年度予算案 8億5000万円)

画像をクリックすると別画面で拡大したものが開きます。

商品代金の一部がクレジット購入に充てられる寄付型の商品やクレジットを付与したクレジット付き商品等は多くあり、そのような環境貢献型の商品を選ぶ人も増えている。見かけたら購入したいと思うか、との質問には約3/4の方が否定的でない回答をしている。企業側にも直ちにはオフセット商品の開発に踏み切れない実情もあるかもしれないが、消費者にはこうした商品を購入したいという想いがあることが分かってきており、環境に配慮した商品の開発を出来る限り積極的に支援したいと考えている。商品開発の方法、種類・地域の絞り込みやPR等の課題については、当室でも相談に応じたい。今後、気候変動キャンペーン「Fun to Share」とも連携して地域のカーボン・オフセットを一層推進したい。既に、規格外商品(椎茸)の活用例やサクランボ、シンビジュームのハウス栽培にオフセットを付加したもの等様々なオフセット商品が出てきているが、平成27年度は地方創生にいかに寄与していくか、という認識を強くもちながら、新商品の開発等を積極的に支援していきたい。さらに、環境省では地域の率先的な取組を応援するため、地域レベルでの協議会の活動を支援することとしている。今年度は20以上の応募団体の中から北海道、北関東、千葉、東京、神奈川、北陸、中部、近畿、四国、九州、沖縄島嶼地域を含む全14の特定地域協議会を支援している。各地域での積極的な展開を期待している。

*1 総合地球環境学研究所の整理を参考とした
*2 地球環境学事典p186、大西正幸
*3 地球環境学事典p150、江頭宏昌

川上 毅(かわかみ・つよし)
環境省地球環境局地球温暖化対策課 市場メカニズム室長

 

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