プロバスケに熱狂、沖縄で実現した「奇跡」

プロバスケで、ダントツの集客力を誇るチームが沖縄にある。琉球ゴールデンキングスは、試合会場を「劇場化」してファンを惹きつけ、地域に新しいスポーツ文化を根付かせる。仕掛け人は、異色の経歴を持つ経営者だ。

試合会場を徹底してショーアップし、スポーツ観戦をエンターテインメントにした

体育館の照明がパッと落ちる。暗転した空間で光り輝くミラーボールと色鮮やかなライティングが、体育館をライブ空間に変える。テクノ風の沖縄民謡をバックに、名前を呼ばれた選手がスポットライトを浴びながら、観客席に手を振る――。

本場NBAのようなインパクトを持つこの試合前のシーンは、bjリーグで優勝3回を誇る琉球ゴールデンキングスの名物だ。

キングスは、bjリーグで圧倒的な存在感を放つ。1試合の平均観客動員数が1500~1600人のbjリーグで、キングスのそれは3200人を超える。毎試合、体育館はほぼ満員で、立ち見も出るほど盛況だ。年間10万人を集め、スポンサー数は協賛を含めると約200社に達し、2007年のチーム創設から3年目以降、黒字経営を続けている。

しかし、初年度からこれだけの観客、スポンサーが集まったわけではない。キングスがbjリーグに加入した2007~08シーズン、観客数は約1600人、スポンサーの数も20~30社程度だった。運営会社の沖縄バスケットボール、木村達郎社長は「最初は、今のように毎試合3000人の観客でいっぱいになるとは想像もできなかった」と振り返る。

木村 達郎 沖縄バスケットボール 代表取締役社長

試合会場を「祝祭空間」に

なぜ、キングスはbjリーグでナンバー1の人気チームに育ったのか。そこには、アメリカの大学院留学中にアメリカのスポーツビジネスに触れ、帰国後に就職したNHKではディレクターとしてスポーツコンテンツの番組制作に携わってきた木村社長独自の視点が活かされている。

「スマホでゲームができて、ショッピングもオンラインという時代に、時間通りに会場に来てもらって、席に座って2時間も過ごしてもらう。数多くのビジネスが時間の奪い合いをしている中で、スポーツほど拘束性の高いコンテンツはありません。だからこそ、対価以上の時間体験、空間体験をつくることが大切なんです」

スポーツには勝敗がつきものだが、木村社長は「勝敗だけなら、ニュースで1分、2分のハイライトを見たほうが面白い」と語る。不確実性の高い勝敗に左右されずに来場者の満足度を高めるために、試合会場の演出の細部にまで気を配ってきた。

試合前のシーンだけではない。スコアボードはNBAでも使用されているアメリカ製のもので、コートサイドのイスも、アメリカから輸入した。他にもこだわりのポイントは数知れない。

毎試合、会場はほぼ満員に。動員数は、リーグ平均の2倍にのぼる

「バックパッカーをしていた時に、ギリシャの円形劇場やローマのコロッセオを見て衝撃を受けたんです。我を忘れるほど興奮する空間を求める気持ちは、2000年前から変わっていない。試合会場は劇場であり、祝祭的な空間であるべき。そのための舞台装置として、すべてにこだわりました」

徹底的にクオリティを追求した試合会場で、観客は非日常を味わう。しかし、肝心の商品=試合がイマイチであれば、満足度を高められない。試合に高揚感をもたらすために、木村社長はチームの構成、プレーの内容も重要だと指摘する。

「沖縄には、背がそれほど高くなくても運動能力やスキルが高い選手が生まれてくる土壌があります。その環境を活かして、地元出身の選手を重視しながら、パスの展開が速いアップテンポのチームづくりを目指しています。これはクラブの哲学で、監督が代わっても変わりません。大きな選手を何人も外から連れてきたら、試合には勝てるかもしれませんが、スピード感のないバスケになってしまい、ファンも共感しづらいでしょう」

地元出身の選手を積極的に登用。チームづくりも、一貫した方針で行われる

目指すは、経済効果100億円

質の高い舞台、応援したくなる選手、熱狂を誘う試合展開。この3つが揃った時、観客はリピーターになる。そうして会場が満員になれば、スポンサーや行政からの支援は後からついてくると木村社長は言う。

「プロスポーツチームは、いきなりヒットするようなものではありません。定着させ、伸ばしていくのに時間が必要です。第一に考えなきゃいけないのは、来場者です」

観客の「体験」を重視し、会場を満員にしてきた成果は、スポンサーの獲得以外にも表れ始めている。キャプテンの岸本隆一選手や今季加入した津山尚大選手など、沖縄出身で学生時代からキングスファンの有望選手がチームに加入しているのだ。

それでも「まだまだやるべきことがある」と話す木村社長の視線は、2019年に完成予定で、自身でも設計デザインに携わっている収容人数1万人のアリーナ完成後を見据えている。

「広島カープはさまざまな工夫を凝らして、ホーム球場のマツダスタジアムを楽しめるものにし、チームの収入も増やしました。新アリーナをバスケ界のマツダスタジアムにして、1試合平均8000人は呼び込みたい。そうなれば、来季から始まるBリーグでホーム戦が年間30試合とすると、地元への経済効果は80~100億円になります」

地元チームの躍進に、ファンも熱狂。キングスの存在は、地域にさまざまな波及効果をもたらしている

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