430年続く東京最古の酒舗 豊島屋本店の伝統と革新によるグローバル展開

(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2025年12月3日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

吉村 俊之(よしむら としゆき)代表取締役社長

経営者の情熱を発信する“Project CHAIN”第61弾。
今回は独立行政法人 中小企業基盤整備機構 関東本部様より、東京都千代田区に本社を置く株式会社豊島屋本店 吉村 俊之(よしむら としゆき)代表取締役社長をご紹介いただきました。同社は、慶長元年(1596年)に神田で創業し、明治神宮や神田神社の唯一の御神酒を担う、約430年の歴史を誇る老舗で東京最古の酒舗です。口伝の家訓「お客様第一、信用第一」を旨に、明治維新・関東大震災・太平洋戦争という3度の大きな危機を乗り越え、新たに海外展開にもチャレンジしている第16代吉村社長。今回は中小企業基盤整備機構 関東本部の皆様がインタビュアーとして吉村社長の経営哲学に迫ります!
”Project CHAIN”バックナンバー一覧

研究者から家業へ ―心に刻まれた原点―

―吉村社長は、2006年に社長に就任されています。まず、豊島屋本店を継がれるまでのご経歴をお聞かせください。

幼い頃、祖父に手を引かれて訪れた元旦の明治神宮で、夜明け頃に行われるお祭の直会(懇親会)の中で、当社の日本酒『金婚』が振る舞われる光景を見たことが、今も心に残っています。

物理学の面白さに目覚め、大学院修了後は日立製作所に入社、中央研究所で半導体の研究に従事し、研究者として骨をうずめる覚悟で取り組んでいました。先代で同じく化学研究者であった父も、息子の選択を尊重し、やりたいことを応援してくれました。

しかし、先代の高齢化を機に、祖父との記憶や家業への想いが再び胸にともり、家業を継ぐ決心をしました。日立製作所を退社後、経営を学ぶため米系経営コンサルティング会社で経験を積み、41歳で家業に入りました。いまだ修行中の身です。

海外市場へ ―伝統を“つなぐ・つなげる”―

―社長就任後、特に力を入れてこられた取り組みを教えてください。

社長就任後は、日本酒の国内市場が縮小していたこともあり、海外展開に挑戦しました。当時、当社の酒は海外に出ていませんでしたから、まさにゼロからのスタートです。海外展開に明るい社員もおらず、自分1人で海外でのマーケティングや営業を行う日々でした。苦労もたくさんありましたが、中小企業基盤整備機構の海外展開に長けたアドバイザーからも支援していただき、少しずつ販路を開拓していくことができました。また、前職の研究職では論理的思考が培われた上、海外の方とやりとりする機会も多く、そうした経験が海外の販路開拓に役に立ったと思います。

試行錯誤し、販路開拓を断念した国もありましたが、韓国を皮切りとして、現在では、アメリカ、フランス、ベトナムなど、15カ国へと販路を拡大しました。

今でも月1回ほど、中小企業基盤整備機構の海外経験が豊富なアドバイザーから、海外関連のアドバイスを頂いています。

次の500年へ ―変える勇気と、変えぬ信念―

―どのような思い、目標を持って経営されていますか。

行動指針は“不易流行”で、「不易」は守るべきものは頑なに守ること、「流行」は変えるべきものは大胆に変えていくこと、そのバランスが重要と考えています。酒造りに研究職で培った技術や工程管理などが活かせないかと試行したことがありましたが、酒造りはマニュアル化出来ない部分も多く、基本的には伝統的な製法を守っています。その一方、デザインや味はトレンドやニーズに沿って柔軟に変える努力をしています。そのためにも、色々な場所に直接足を運ぶことが大事だと考えています。海外にもできる限り訪問し、市場のトレンド・ニーズを感じ取っています。東村山市の蔵には定期的に足を運び、製造現場と対話を重ねています。

―こうした真摯な姿勢が、社内外の信頼と新たな縁を育んでいるのですね。

今後は海外輸出を全体売上の2割程度まで拡大し、女性や若い世代などより幅広い層へ日本酒の魅力を広げていきたいと思っています。最近は、米・酵母・水の全てを東京産とした純米吟醸酒や、もろみを濾した成分を残した自然な発泡性純米酒、デザイン性の高いパッケージなど、新たな製品を世に出しています。500年続く礎を、今この時代に築きたいと思っています。

創業の原点を再び ―100年ぶりの居酒屋開業―

―創業当初は酒屋兼居酒屋だったそうで、御社が居酒屋のルーツとも言われているそうですね。2020年には、関東大震災で店が倒壊してから約100年ぶりに居酒屋をオープンされたとか。

はい。『いつかご縁があれば、創業当時の商いを再び』と思い続けていました。そんな折、創業地の神田鎌倉河岸からほど近い神田錦町への出店のお声がけをいただき、念願が叶いました。酒屋兼立飲み居酒屋「豊島屋酒店」では、豊島屋本店のお酒のほか、豆腐田楽など江戸時代に流行ったつまみを現代風にアレンジした料理なども出しており、江戸の文化を現代に伝える場となっています。最近は、海外からのお客様も増えており、国内外への江戸・東京の食文化の情報発信の場ともなっております。

(左)豊島屋酒店、(右)豊島屋酒店・店内
(左)豊島屋酒店、(右)豊島屋酒店・店内

他企業とのつながり ―“学び合い”が次の力に―

―豊島屋酒店では他の蔵のお酒も置いているそうですね。

私の知り合いの、他の地域のお酒も不定期で置かせてもらっています。
他にも、例えば、東京都の老舗企業を集めたイベントなど、他地域・他業種の企業とも協力して色々な事業を行っています。

―中小企業応援士※としての活動についても教えてください。

中小企業応援士の皆様は、本当に素晴らしい方ばかりです。関東ブロック中小企業応援士の有志組織『援友会』では、交流会などを通して、それぞれの経験や考え方を共有し合い、お互いに学びと刺激を得ることができます。

―吉村社長には援友会の会長を2期連続で務めていただき、ありがとうございます!

中小企業応援士の方々が、当社も含めお互いに学ばれ、各社が更に発展されるきっかけ作りに、より貢献できれば幸いです。

※中小企業応援士は、令和元年度より中小企業基盤整備機構が開始した取り組みです。中小企業・小規模事業者の活躍及び地域の発展に顕著な功労のあった全国各地の経営者の皆様や支援機関の方々に「中小企業応援士」を委嘱しています。

―海外や他企業とのネットワーキングなど、お忙しい日々を送られていると思いますが、どのように気分転換されていますか?

プライベートでは、週に1度プールで泳ぎ、心身をリフレッシュしています。

―この度は、素敵なお話をありがとうございました!

吉村代表取締役社長
吉村代表取締役社長

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関東経済産業局 公式note