地域未来戦略を推進する各省庁の取り組み

地域に活力を取り戻し、地域経済を活性化させていく取り組みが、さまざまな省庁により進められている。パネルディスカッションでは各省庁の施策と成果事例、および事業構想大学院大学の地域人材育成から「強い経済、豊かな生活環境、新しい日本・楽しい日本」を実現するためのヒントを探った。

左より、内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部事務局長 海老原諭氏と、
モデレーターを務めた同事務局 審議官 岸田里佳子氏

パネルディスカッションの冒頭では、新しい地方経済・生活環境創生本部事務局長の海老原諭氏が基調講演を行った。人口減少が進む中、閣議決定された「基本構想」。「強い経済」「豊かな生活環境」「新しい日本・楽しい日本」を目指す姿に掲げ、今後10年の方向性を示している。「人口減少をどうしていこうか、若い人に選ばれる地域をどうつくっていこうか、稼げる事業をどうつくっていこうか。そういった社会の課題解決を、AI・デジタル技術などを使わずに実現することは難しい」と強調する。

従来の行政主導から、産官学はじめ各界の多様な関係者による連携体制への転換を重視し、鳥取県の副業人材マッチングや長野県のモバイルクリニック、北海道の自動運転バスなど、DXを活用した先進事例が各地で展開されている。「自治体の皆様にはDXを敬遠せず、自分の仕事にどう生かせるかを考えていただき、DX事業者の皆様には課題解決の側から提案していくことで、地方創生の取り組みがもっと前に進んでいく」として、DXと地域課題の架け橋となる連携の重要性を訴えた。

地域の暮らしを守るための
ふるさと住民登録制度

基調講演に続き、4省庁と事業構想大学院大学による地方創生の実現を具体化する取り組みが発表された。

上左より、総務省 大臣官房地域力創造審議官 奥田馨氏、経済産業省 経済産業政策局 地方創生担当 政策統括調整官 宮本岩男氏、国土交通省 大臣官房審議官(総合政策) 笠尾卓朗氏、
下左より、デジタル庁 国民向けサービスグループ 次長/審議官 岡田智裕氏、学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学 学長 田中里沙氏

総務省大臣官房地域力創造審議官の恩田馨氏は「活力ある持続可能な地域をつくり、誇りを持って住民が暮らせる社会を実現していくために、人の流れの創出、地域経済循環の拡大と雇用の確保、地域の暮らしを守る、この3点を政策の要諦として政策を展開しています」と説明する。

地域の暮らしを守る観点から、総務省が構想する「ふるさと住民登録制度」に注目が集まる。この制度は、居住地以外の自治体に「ふるさと住民」として登録することにより、その地域の情報提供や行政サービスを受けることができる仕組みだ。居住者以外でも地域との関係性を深化させる狙いがあるという。「プレミアム登録では、移住をすぐにできない方も、好きな地域の困りごとを手伝える仕組みを用意しています。このような形で地域活性化や移住の促進につながることを期待しています」と恩田氏は話す。

地域で活躍する中小企業の活性化へ
支援の壁を取り払う

経済産業省経済産業政策局 地方創生担当 政策統括調整官の宮本岩男氏は、「地方にどうやって仕事を生み出していくかにフォーカスしています。方向性としては2つあり、1つは地域で活躍している企業にさらに元気になってもらうための支援、もう1つは企業を地方に誘致することです」と語る。

その一環として経済産業省が取り組んでいるのは、中堅企業への支援だ。日本全国で約9千社の中堅企業があり、地域で存在感を発揮しているが、中小企業と大企業の狭間で支援を受けられない壁が存在するという。

「支援の壁を解消するために昨年、中小企業を除く2千人以下の企業を中堅企業と定義し、手厚いサポートを受けることができるようにするなど、支援政策をはじめています」

また、企業に対する支援政策は複数の省庁にまたがっており、事業者にとっては煩雑であることに触れ、「省庁の枠を超えてつないでいく取り組みを、他省庁とも一体となって進めています」と説明した。

国土交通省大臣官房審議官(総合政策)の笠尾卓朗氏は、地方創生に係る基本構想の5本柱を同省の施策としてどのように実現していくかを解説した。

「安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生については、未来社会を地方から構築するべく、先進技術による地域課題の解決に向けた取り組みを推進しています。自動運転の社会実装、福祉部局との連携による水道のスマートメーターの見守りへの活用などがあります。また、移動手段を確保することも重要で、国土交通省では令和7年度から令和9年度までを「交通空白解消・集中対策期間」と位置付け、「交通空白」の解消に取り組んでいます」

人や企業の地方分散については、地方への人の流れを拡大するため、空き家をリノベーションして二地域居住者とマッチングする取り組みを推進している。「空き家のリノベーションでは、民間資金を活用したスモールコンセッションの取り組みを国土交通省が推し進めていきます」と述べた。

当面の人口減少を受け止め
それに合わせた施策を実行する

デジタル庁国民向けサービスグループ 次長/審議官の岡田智裕氏は「地方創生は新たなステージに入りましたが、デジタル技術がその政策の基礎であることは、これまでと変わりません。そのうえで、点での成功から、エリア全体としての成功を実現する形が必要だろうと考えています」と述べた。

さらに、人口減少が続くことを正面から受け止めたうえで施策を考えていくことの重要性を強調する。

「限られた人手で地域の満足度や生産性を維持していくためには、デジタル技術のフル活用だけでなく、供給側が需要側に合わせることも必要です。交通であれば乗客の都合に合わせたオンデマンド配車や、行政手続きであればデジタルで申請できるようにする、といったことです。それを個別で整備するのはリソースの観点から難しいケースがあるため、共同で整備・利用すべきものについては協調領域として位置付け、整備・利用をしていくことが大事だと考えています」

教育機関の視点から、学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学学長の田中里沙氏が次のように話す。

「地域に貢献したい民間企業は多数あります。地域資源を生かした新事業開発にも熱心です。そして、多くの自治体が、企業や他の自治体とつながることで、新たな展開に挑みたいと考えています」

同大学院の特色のひとつは、地域の枠を超えた「共創」による事業創出にある。近年は北海道島牧村の地域おこし協力隊との連携や、産官学連携での地域資源を活用した新規事業の創出、観光人材育成など、多くの取り組みが始まっている。コワーキングスペースと保育所を連携させた事業を起業した修了生の会社には、前内閣総理大臣の石破茂氏も現地を視察し、意見交換を行った。「地元の資源を活用して地域で起業して、新しい雇用をつくり、そこで人材が育つという地域経済の好循環が実践されている」と田中氏。

「構想を考える人の周りには、モチベーションの高い人が集まります。本学が目指すのは、共創による地域課題の解決、新事業による価値創出、その先の持続可能な経営です。構想の普及によって地域人材は「自育」すると期待し、これまでも地域を担い地域を守ってきた人たち、多くの主体と連携をしていくことが重要だと考えています」と話した。

それぞれの発表を受けて、モデレーターの内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部事務局審議官の岸田里佳子氏は「地方創生を進めていくうえでは課題もありますが、このようにさまざまな取り組みが進められています。今後一層、基本構想に基づき、地方創生を推進していきたい」と述べ、期待を示した。

※組織名・肩書等は開催時点のものです。