埼玉発 微細精密加工の金型技術で世界に挑む 狭山金型製作所
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年4月3日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
溶かした金属や樹脂などを流し込んで成形するために用いられる「金型」は、同じ形状の製品を速く・安く・正確に作るためには欠かせない精密工具で、ものづくりの「マザーツール」とも呼ばれる。
埼玉県入間市の「狭山金型製作所」(大場総一郎社長)は、1000分の1ミリ単位の精度が求められる金型の設計・製作、金型を使ったプラスチック部品の成形など微細精密金型の分野でトップクラスの技術力を誇る。3代目で就任3年目の大場社長は「金型を始めとする日本の『ものづくり』の技術は世界中で求められており、明るい未来を創っていける」と意気込み、単身で欧米に売り込みに出掛け、ビジネスSNSで自社製品や技術の強みを発信するなど、積極的に海外に市場を広げている。
1000分の1ミリ単位の精度、高品質で量産
狭山金型製作所は1964年に現社長・総一郎氏の祖父が創業、2代目の父・治氏(現会長)が「微細精密」に特化する方針を打ち出した。現在は、業界最先端の設備と熟練の職人による手仕事で、半導体製造用の部品や光学部品、精密機構部品、自動車部品、外径0.24ミリメートルの注射針を始めとする医療器具などを成形する金型を製作。その金型を使った部品の成形も行っている。
米粒よりも小さなサイズの金型を寸分狂わない高い品質で量産する技術力の源泉はどこにあるのか。大場社長は「創業から60年を超え、これまでに作り上げた金型はのべ2200以上にも上ります。金型の形状はバラバラで、成形する樹脂やプラスチックの材料も多岐に渡っており、それらの経験知、ノウハウの蓄積があるからこそ実現できています。さらに、常に最先端技術に挑戦し続けるという会社のビジョンがあり、常にその時代でいちばん難しい技術、いちばん求められているものを追求するという社内の文化が育っていることも理由です」と胸を張る。
こうした細かい作業には、道路の振動も妨げとなる。そのため本社・工場は幹線道路から離れた静かな丘陵地に建っている。温度差による金属の変形を防ぐため、工場は日差しの影響を受けにくい半地下にあり、室内の温度を24度前後に保っている。
米国留学で気づいた日本の「ものづくり」への高評価
大場社長は高校卒業後、6年間、米国ボストンの大学に留学した。「海外では様々な国の人から日本の印象を聞きました。その中で、日本製品の品質の高さや仕事の丁寧さなど、日本の『ものづくり』が高い評価を受けていることを実感しました。自社の技術が海外でも十分に通用し、ビジネスチャンスを広げられる可能性があると、留学を通して確信しました。私の海外体験が会社の未来とリンクすると感じました」と語る。
会社の海外展開は2009年、当時、世界最大級の金型の展示会「ユーロモールド」に出展したことでスタート、欧米企業の開発拠点の多くがシンガポールにあることに着目し、シンガポールに合弁会社を設立した。
大場社長は米国から帰国した2011年に入社、海外営業担当として、2012年にはシンガポールでの展示会に合弁会社と共同出展し、米国の血液検査装置メーカーからプラスチック製「マイクロ流路チップ(1)」を受注した。「日本の医療機器メーカーは医療市場での経験や実績が求められますが、海外メーカーは純粋に技術の高さで判断してくれます。海外に飛び出したからこそ医療機器に参入できたと思っています」と振り返る。
(1)マイクロ流路チップ:樹脂などの基板上に幅や深さが1mm以下の溝を形成したもので、医療・バイオ分野(PCR検査、DNA解析など)の分析や環境・食品分野の研究装置として使われる。
得意の英語力を生かしてビジネスSNSで発信、単身で商談
2023年1月、社長に就任して最初に取り組んだのが海外マーケティングの本格化だった。得意の英語力を生かして、米国などで展示会への出展や現地企業との商談に力を入れた。金型の輸出だけではなかなか話は進まなかったが、金型を使った製品開発や設計を支援するコンサルティング型の営業を展開したことで商機をつかめるようになってきた。
大場社長は2024年12月、ビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」を使った情報発信を開始した。投稿の内容は、展示会出展の告知や製品紹介、製造現場の様子など、毎日、投稿を続け、1日あたり6000~7000件のインプレッション(投稿が表示された回数)を獲得している。
以前は展示会に出展しても現地で客を待っていることしかできなかったが、LinkedInで展示会の告知を行うようにしたことで、商談の予約が入った状態で展示会に臨めるようになり、営業活動がより効率的になったという。大場社長は「LinkedInは日本のマーケットではそれほど浸透していませんが、海外企業とのネットワークを広げるため、活用すべきだと思います」と話し、毎日、英語で投稿している。
海外への売り込みも単身で乗り込み、「トップセールス」を繰り広げている。「通訳を介してでは、かえってニュアンスがうまく伝わらないこともあります。『1人で来たのか』と驚かれますが、その分、こちらの本気度も伝わります」と胸を張る。
ビジネスチャンスは世界に、業界全体の成長目指す
自社の販路を広げる努力を続ける一方、他社との連携による受注強化にも力を入れている。狭山金型製作所が中心メンバーの1社となり、2018年に設立した一般社団法人「微細加工工業会」は、金型製作や金属・樹脂の切削などの精密加工技術に強みを持つ全国の中小企業72社(2026年1月現在)が参加する。工業会はナノテク領域(1ミクロン)から通常手作業の限界点(1ミリメートル)の「肉眼で見て自由に動かせる範囲」を微細加工領域と想定している。
会員企業それぞれの強みを生かし、協力できる分野や手を組んで共同受注体制を整え、国内外の受注を獲得するのが狙いだ。北米の医療機器展示会に共同出展するなど、微細加工のPR活動も続けている。大場社長は「個社では受注できないケースを減らすだけでなく、中小企業がトータルでサポートするので発注元の企業にもメリットがあります」と強調する。
日本の金型技術は、戦後の高度経済成長とともに発展し、「ものづくり」を支えてきた。しかし、近年、自動車や家電の製造拠点の海外移転が加速したことで、国内における金型需要は縮小傾向に転じ、かつての勢いを失いつつある。
だが、微細加工などの精度の高さ、難加工材への対応、試作の精度・品質を量産でも維持できる安定性の高さなどの面で、まだまだ優位性を保っている。大場社長は「金型は『一品一様』です。金型設計技術や組立技能などは人間のノウハウや手作業の職人技であり、AIやロボットで替えがきく技術ではありません。これをいかに高付加価値なものにしていくかが重要であり、世界にはいくらでもビジネスチャンスがあります。それをみんなでつかみ、若い人にも挑戦してもらって金型業界を成長方向に持っていきたいですね」と熱い思いを込める。
常に最先端技術に挑戦し続けたい
積極的な海外展開を進め、業界の連携強化の旗を振る狭山金型製作所。大場社長は「我々は金型や成型の技術を通じて、技術提案型の企業になりたいと思っています。技術コンサルティング会社はたくさんありますが、パソコン上でデータを作って完結するのではなく、実際に金型もプラスチック成形品も作って実証できることが強みであり、そこで差別化が図れると思います。我々の技術を知らない企業・市場は国内、さらには海外にもたくさんあります。営業力とマーケティング力を強化して、さらなる販路や受注の拡大を図るとともに、常に最先端技術に挑戦し続けたいですね」と前を向いた。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.sayama-kanagata.co.jp/ ▽代表者=大場総一郎社長 ▽従業員数=30人(役員、パート含む) ▽資本金=1,000万円 ▽創業=1964年5月
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