インフラシステム輸出支援の最前線 日本技術の海外展開を支える経産省の役割
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年4月2日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
【製造産業局 国際プラント・インフラシステム・水ビジネス推進室】に聞く、日本のインフラシステムの輸出支援を行う中での気付きとは。経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、製造産業局 国際プラント・インフラシステム・水ビジネス推進室で、重電、鉄道などのインフラシステムの輸出支援、非関税障壁の解消などを通じて、日本企業の海外展開を後押しする、石下谷 玲奈さんに話を聞きました。
鉄道、発電所……日本の優れたインフラシステムを海外へ
――― ご所属の製造産業局はどのような部局ですか。
製造業の各業界振興を担当しています。日本の製造業の競争力強化に向け、国内市場の活性化や業界全体のDX化、GX化を進めるとともに、国内市場だけでは限界もある中、海外でどのように戦略的に稼いでいくかといった観点などから、日本企業のビジネスを幅広く支援しています。
――― その中で、国際プラント・インフラシステム・水ビジネス推進室はどのような業務を担っていますか。
鉄道、発電所を構成する発電設備、海水淡水化などの水関連施設、LNG基地などのプラントといったインフラシステムの輸出を行う日本企業に対して支援をしています。インフラシステムは規模が大きく、商社や、設計・調達・施工を一括して行うEPC(Engineering, Procurement, Construction)事業者、個々の機器を製造するメーカーなど、様々な役割を持った企業が関わっています。その中でもメーカー企業やEPC事業者が海外にインフラシステムを輸出する際に、現地でスムーズにビジネスを進められるよう支援しています。こうしたインフラシステムは日本では当たり前にあるものですが、海外ではまだ整っていない国も多く、ビジネスチャンスがあります。インフラシステムの輸出を通じて、相手国の発展と、日本企業の利益の双方に繋がることを目指しています。
――― 石下谷さん自身はどのような案件や業務を担当されていますか。
私自身は、重電担当、鉄道担当、非関税障壁担当の大きく分けると3つの業務を担当しています。
重電は重電機の略称ですが、タービン、ボイラー、発電機、変圧器などの発電所・変電所を構成する機器を、製造・販売する企業が輸出する際の支援をしています。鉄道に関しては、車両メーカーや車両に使用する電気品などを製造・販売する企業が、海外展開する際に必要なサポートをしています。
こうしたインフラシステムを輸出する際には、日本の規格が相手国に受け入れられず市場参入できない場合があります。このような非関税障壁を解消し、日本の製品を海外で売れるようにしていくことも業務の一つです。
――― 具体的にどのような支援をしているのですか。
当省が行っている、新興国・途上国での事業化支援を行う「グローバルサウス未来志向型共創等事業」を活用して、鉄道分野や重電分野の新しい技術を海外で実証したり、市場調査を行ったりしています。新興国への鉄道導入などに向けて、中長期的な都市計画であるマスタープランの作成の支援を行うこともあります。
また円借款関係の支援もしています。円借款の元々の趣旨は相手国の開発支援ですが、日本の企業が海外でビジネスを行うという点では、これも一つの企業の海外展開事案です。円借款という枠組みであっても企業がしっかりと利益を得られるように工夫し、トラブルが起こっている場合には相手国と調整して解決を図るなど、企業が円滑にビジネスを行えるよう支援しています。相手国も日本企業もwinwinの関係になれるように、円借款の担当省庁である外務省や、実施部隊であるJICA(独立行政法人国際協力機構)などの関係機関と調整を行っています。
インフラシステム輸出で困ったら何でも相談できる、「駆け込み寺」でありたい
―――海外出張して現地で業務をする機会もあるのですか。
はい。最近、ASEANのある国で使用できる製品に関する新たな規格が指定されたのですが、その中に日本の規格が含まれておらず、これまで日本企業が輸出していた製品がその国に輸出できなくなるのではないかと心配されていました。日本企業のその国での市場獲得機会の減少危機に直面し、関係する企業も相手国へ働きかけを行っていたのですが、私も政府担当者として現地に赴き、相手国の長官と協議しました。引き続き日本の製品も輸出させてほしいと要望した結果、日本の特定の機械については承認するという譲歩を引き出すことができ、なんとか日本企業のビジネスが止まらずにすみました。
――― インフラシステムというと関係省庁も多いと思いますが、その中で石下谷さんの部署はどのような役割を担っていると思いますか。
例えば鉄道であれば国土交通省、外交視点では外務省、重電も場合によっては資源エネルギー庁が担当省庁ではありますが、細かい点ではどこの省庁・部署にも属さない機器・製品や手厚いサポートが出来ていない分野があります。当室ではそこも含めて海外展開を支援しており、インフラシステムの輸出に関するお困りごとがあれば、なんでも相談できる「駆け込み寺」になれればと考えています。
私自身のこれまでのキャリアでも、企業との距離が近いポジションは数えるほどしかなかったのですが、現在の部署では企業にとても近い立ち位置で業務をさせていただいているため、なんでも相談いただける、そういう存在でありたいと思っています。
例えば、海外でのビジネスの中で、「こういうトラブルがあります」という相談を企業から受けた際には、相手国の要人が経産省の政務と面会する際に、政務から要望を行うよう調整したこともあります。ニッチな分野を担当する部署なので、型にはまらず、インフラシステムの海外展開時のお困りごとに対して様々支援ができるのではないかと思います。政府としてお役に立てるところがあれば、御用聞きとしてぜひ使っていただきたいと思っています。
――― 日々の業務の中で感じている思いはありますか。
当たり前のことですが、ビジネス、特に海外での事業は簡単じゃないんだな、ということは日々の業務の中でも痛感しています。相手国も日本の脈々と受け継がれてきたものづくりの姿勢をすごく信頼しているので、日本の技術や製品のクオリティを高く評価してくれています。ただ、輸出先では、日本では想像もつかないような使われ方をして、せっかく輸出した機器がすぐに補修をしなければならない事態に陥るというようなこともあります。企業の方は皆さん口をそろえて、「まさかこんなふうに使うとは」とおっしゃるのですが、日本で当たり前のことも海外ではそうではないという前提にたって海外展開していく必要があると感じました。日本の、熱い思いを持って取り組み、正確に丁寧に扱う文化は本当に素晴らしいですし、財産だと思うのですが、いざ海外に輸出するとなると少し違う視点で考えないといけないということに気づかされました。
学生時代に感じた「こうなったらいいのに」を、今、自分の手で
――― 現在の業務を含め、経産省の仕事の魅力はどんなところに感じていますか?
経産省は「アクセル省庁」だと思っていて、そこが面白いところではないかと感じています。日本政府は規制をしっかりかけるブレーキ役の省庁と、アクセルを踏んで力強く前に進めていくアクセル省庁が、とても良いバランスで成り立っていると思います。
インフラシステム輸出においても、相手国から日本における法令や運用ルールを聞かれることがあり、そうした時は規制官庁にも情報提供などの協力をお願いする場面もあります。アクセルとブレーキはどちらも必要ですが、その中でもアクセルを踏んでどんどん前に政策を押し進めていける経産省の仕事はとても面白いですし、やりがいを感じるところです。
――― これまでのキャリアを振り返って印象に残っている仕事はありますか。
国際経済部でG7やG20、OECDといった国際機関や会議を担当して、交渉の舞台を間近で感じられたのはとても勉強になりました。G7、G20サミットなど総理が出席する会議に参加する上司のサポート役として随行し、その場で必要になった情報を即座に省内関係者から収集・整理して渡すということが求められました。国際交渉の最前線で、経産省の意見をとりまとめて相手国と交渉するというのは、とても面白い仕事で印象に残っています。
また、行政改革の流れの中で、貿易再保険特別会計を廃止し、独立行政法人だったNEXI(日本貿易保険)を株式会社化するという内容の法改正を担当したことがあります。独立行政法人を株式会社化させるという業務は誰も経験したことのない未知の業務だったので、大変ではありました。前例もないので、何が必要か整理したり、登記所に通ったりもしました。これまでとは違う経験で難しさはありましたが、学ぶことも多かったです。
――― インフラシステム輸出には、入省時から興味があったそうですね。
元々経産省を志した理由が、インフラ輸出の支援をしたいということでした。学生時代に旅行でカンボジアに行く機会があったのですが、とにかく不便だったことが印象的です。ショートカットできそうな道をすごく遠回りしたり、道がでこぼこしているのを目にして、ここにきれいな道路が通っていたら生活も全く変わるのにと思ったことがありました。日本の安定したインフラシステムが輸出され活用されればいいのにという漠然とした思いがあって、経産省を目指しました。
――― 今、実際に担当されてみてどうですか。
元々興味のある分野でもありますし、企業の方々の思いや、お困りごとをすぐ近くでお聞きして、どうしたらよいのか、解決策を考えるという仕事をさせていただいていて、とても楽しく刺激的です。日々仕事をしている中でも、「○○さんがこういうことで困っているって言っていたな」など、企業の方々の顔が浮かぶんです。人を思いながら、熱い思いを共有しながら仕事ができるというのはすごく嬉しく、時には解が見つからず苦しくもありますが、やりがいを感じながら日々業務に邁進しています!
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