沖縄ガールズスクエア 女性の自己実現や仕事創出を支援

起業に至る背景は人それぞれ、しかも理由は1つではない。誰しも様々な思いを抱えながら、一歩を踏み出す。女性の起業や仕事を創出する活動を支援するコミュニティ「沖縄ガールズスクエア」を運営する代表の岩渕裕子氏に、沖縄県下での起業事情やコミュニティに参画する女性たちの思いを語ってもらった。

岩渕 裕子(沖縄ガールズスクエア代表/女性起業サポーター)

思いや悩みを相談できる場として
サポーター常設窓口からスタート

沖縄ガールズスクエアの設立は2012年6月。新しいことに挑戦したい女性が気軽に相談できる場として、相談窓口を開設したのが始まりだ。2019年から代表を務める岩渕裕子氏は当初、相談窓口に常駐するサポーターの1人だった。「当時はビジネス経験もほとんどなく、起業なんて別世界の話だと思っていたので、自分に務まるのか不安」だったが、前代表に「起業に対する先入観や固定概念がない方がよいので、まずは女性の思いや悩みを聞いて一緒に考えるところから始めてみてほしい」と誘われ、思い切って飛び込んだ。

「一時期県外で暮らした経験があり、沖縄を客観視できたことは良かったと思っています。例えば、沖縄に『誰かの役に立ちたい』『自分にできることで誰かに喜んでもらいたい』というピュアな情熱を持った人が多いのは、『ゆいまーる』という助け合いの文化が根付いているからだと思います。また、スローな時間感覚を指す『うちなーたいむ』も沖縄ならではのもの。県外にいたときは仕事や生活に追われている感覚がありましたが、沖縄に戻ってからはうちなーたいむに癒され、これが沖縄の風土に合っていると感じます」

そんな地域性を大切にしながら、女性の起業や仕事の創出を支援する沖縄ガールズスクエア。概して女性は男性よりも経営に接する機会が少なく、ビジネスの知識やノウハウが十分ではないため、「その不足を補える環境をつくりながら、実践的な経験と仲間を得られるコミュニティの形成」を目指している。

コロナ禍を経て気付かされた
起業という選択肢の存在

ゆいまーるのように魅力的な地域性がある反面、地域特有の課題も山積している。大企業が少ない沖縄県は賃金相場が低く、世帯収入も全国に比べると低い。大学進学率は近年上昇傾向だが、長らく低迷していた影響が今尚残っている。その一方で、合計特殊出生率は全国トップ。家族や親戚同士の絆が強く、子育てにおいても協力し合う文化が根付いているためだ。こうした社会的・文化的な背景があっても、教育費の負担は地域性に関係なくのしかかる。「低所得や子どもの貧困の問題は進学率に影響し、それが就職や生涯年収にも波及するので、本人の資質とは関係なく、最初から同じ土俵に上がれない人もいる」と、岩渕氏は指摘する。

家計を支えるために仕事と子育ての両立に奮闘する女性は多いが、パートタイマーの収入には上限がある。現状打破には自分で何かをしなければならない――そんな考えから起業を目指す女性は多い。この傾向は以前から変わらないが、岩渕氏はコロナ禍を経て、ある変化を感じている。

「起業は働き方の1つという認識が広がってきたと感じます。特に公務員や看護師のような安定した職業の人たちのなかに、将来のキャリアと収入、精神的な充足感とのバランスを考え、新たな働き方を求める人が増えている印象です。コロナ禍でオンラインでの情報収集が当たり前になり、多種多様な情報に触れる中で、起業や副業・兼業といった選択肢があることに気づいたのではないでしょうか」

そう語る岩渕氏自身も多様な働き方を体現する一人だ。沖縄ガールズスクエア代表として起業支援のための研修やセミナーを企画・開催するほか、菓子製造業や飲食業などに挑戦する人に貸し出すキッチン空間「トライアルキッチン」を運営。さらに内閣府沖縄振興審議会委員などの公職も兼務し、自治体や企業と連携しながら男女問わず起業家の育成や支援に携わっている。

コロナ禍を経て事業案に変化
無形サービスのニーズが広がる

沖縄ガールズスクエアでは行政と連携し、年1回のペースで起業塾を開催している。すでに事業案を決めている人もいれば、起業のヒントを探している人もいて、毎年15名前後の女性が全6回の講座を受けている。初回は自分がどんな風に誰の役に立ちたいのかを考えるコンセプトワークで、その後は修了生の体験談を聞く回やSNS活用を考える回、税理士に資金調達などを学ぶ回がある。いずれも座学のあとはグループワークで、参加者は意見交換しながら事業のアイデアを磨いていく。第5回は1日起業体験として、参加者全員が事業者かつお客様となり、商品やサービスを提供しながら事業を実践する。第6回は起業体験での気づきを踏まえ、今後の事業計画やビジョンなどを披露する成果報告会で、これをもって修了となる。

八重瀬町で開催した起業応援実践プログラム「やえせミニビレッジ」では1日起業体験を実施

岩渕氏は女性起業サポーターとして沖縄起業応援フェスタなどのイベントにも登壇

琉球大学での特別講義「クラウドファンディング実践講座」の様子

以前は菓子やハンドメイド作品などを売りたいという参加者が多かったが、コロナ禍後は子どもの居場所づくりや不登校児がいる家族のサポートなど、ソーシャルビジネスが増えているという。岩渕氏は「前者はハンドメイド作家向けのECサイトなど挑戦できる場が増えていますが、後者の無形のサービスは事業化の道筋が見えにくいので、起業塾に学びに来ているのでは」と分析する。

こうした変化もあって、最近は「自分のキャリアや得意なことと、好きなことの組み合わせ」を提案している。例えば、キャリアコンサルタントは競合が多い業種だが、キャンドルやアロマなどと組み合わせて「お客様にぴったりのメッセージを込めた癒しの○○〇をお選びします」などと打ち出せば差別化しやすく、商品選びとして顧客と対話を重ねることがキャリア相談の入口になり得る。このように一人ひとりのアイデアを膨らませ、可能性を引き出すことを、岩渕氏は重視する。

「専門家に聞けば課題解決は簡単かもしれませんが、大切なのは課題解決よりも不安解消。起業を志す女性は事業のことだけを考えているのではなく、家族のことや身体のことなど、さまざまな悩みを抱えています。それらを汲み取った上で話を聞き、一緒に考えてくれる人がいれば『これならできる』『あれもできそう』と前向きになれますから、ここはそのための場でありコミュニティなのです」

いまは多様性の時代とされるが、一般的なキャリア論や起業論は男性優位の社会構造を前提にしている。政府をあげて女性活躍推進を掲げながらジェンダーギャップが埋まらないのは、その前提に無理があることの証左ではないか。

「女性には出産や更年期障害などがあり、男性と同じようにキャリアを積めないことを理解してほしいです。そして、女性たちには、自分らしい生き方や働き方を求めることが事業のテーマになり得ますから、自分が何かをやりたいと思ったらぜひ行動に移してほしいと思っています」