サンクスラボ 障がい者特性を生かす珊瑚保全事業を始動
沖縄県那覇市に本社を置くサンクスラボでは「IT×福祉」をコンセプトに、デジタル系軽作業に特化した障がい者の就労支援や雇用支援サービスなどを展開してきた。設立10年目の2025年、サンクスラボを率いる村上タクオ氏はソーシャルグッド型の障がい者雇⽤創出活動を加速させるべく新会社を設立した。
村上タクオ サンクスラボ株式会社
代表取締役社長(東京10期/2022年度修了)
多様な特性の障がい者に
新たな活躍の場を提供
「障害者雇用促進法」では民間企業の法定雇用率を2.5%と定めており、従業員40人以上を雇用する事業主は障がい者1人以上を雇用しなければならない。法定雇用率は2026年7月から2.7%に引き上げられ、従業員37.5人以上の企業が対象となる。障がい者を取り巻く環境は法整備の後押しを受けて改善されつつあるものの、サンクスラボ代表取締役社長の村上タクオ氏によれば「かつては身体障がい者の雇用が大多数を占めていましたが、近年は知的障がい者と精神障がい者の雇用が拡大して課題に」なっているという。
サンクスラボは沖縄本島全域と九州・中国地方を中心に31カ所の福祉施設を運営。そこで支援している2000名超の障がい者のうち、約7割が精神障がい者だ。それを支えているのが、サンクスラボが運営する障がい者雇用支援サービス「サテラボ」。障がい者雇用を希望する企業は専用のワークスペースを利用し、そこで働く障がい者を自社の従業員として雇用する。企業はこの仕組みを活用することで、障がい者が福祉的なサポートを受けながら安心して働ける環境を整えられる。導入実績は200社超、離職率も極めて少ない。
「当社は、障がい福祉、デジタル、サステナブルの3つの事業を展開しています。障がい福祉領域ではサテラボを使った雇用支援サービスや就労継続支援A型とB型の事業所の運営などを、デジタル領域ではオンラインゲーム運営やシステム開発、各種BPOなどを、サステナブル領域は珊瑚保全活動や自治体向けのふるさと納税関連事業などを行っています。それぞれの事業にはつながりがあり、例えば、オンラインゲームのユーザーサポート・マーケティング業務・新機能テストなどの軽作業を、障がい者の方々に担っていただいています」
村上氏はこれまでにIT企業を2社興しており、オンラインゲームなどを提供していた。ゲームの世界では多種多様なアバターが動き回っているが、その向こうには生身の人間がいる。体が不自由で出歩けない人や家族以外と話せない引きこもりの人もいた。
「様々な課題を抱えていても、ゲームの世界では生き生きと飛んだり跳ねたり自分らしさを表現することができる。その姿を見て、彼らが遊ぶ場を通して経済活動につながれるような、そんな環境を提供したいと思ってサンクスラボの事業を考えました」
以前の会社ではゲーム開発等に欠かせないバグチェック等の軽作業を学生や主婦のアルバイトに委託していた。知識や経験が一律ではないアルバイトに必要な業務を遂行してもらうには、委託する業務の選定や指示の出し方などにコツがいる。サンクスラボではそうやって積み上げたノウハウを、就労支援のカリキュラムに転換して使っている。
100年後の未来からの
バックキャストが良い刺激に
村上氏は東京都出身だが、大都市一極集中の現状を変える必要があると考え、サンクスラボ創業の地に沖縄県那覇市を選んだ。それから5年の歳月が過ぎ、事業の全国展開を見据えたとき、自分自身の成長とビジネスのネットワーク拡大のために学びの場が必要と考え、事業構想大学院大学への入学を決める。
「同期生には多種多様な業界の人がいて、序列がない中での議論は新鮮でした。また、中島好美先生のゼミで学んだSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)は、新規事業を考える際にも既存事業を見直す際にも活用しています」
2年間で最も印象深いのは100年後の未来からバックキャストで考えた授業だった。村上氏のチームでは「生命の尊重」をテーマに選び、SDGsの目標年である2030年以降の社会をどう描くかを議論。その中で、村上氏は新たな着想を得る。
「生物多様性の側面と、ある種の精神革命というか、マインド革命的なことを考えました。命のあり方、互いを尊重し合う思いやりを持った心のあり方が問われる時代が来るだろうと。その考えが、いま取り組んでいる珊瑚保全事業にもつながっています」
珊瑚白化という課題に
障がい者×ITで挑む
サンクスラボでは2022年から「里海珊瑚プロジェクト」を立ち上げ、地元の沖縄の海で深刻化する珊瑚礁を保全するための活動を推進している。
図 里海珊瑚プロジェクトの全体像
「珊瑚礁は海洋面積全体のたった0.2%にしか存在しませんが、その0.2%に海洋生物種の約30%が棲息すると言われています。しかし、近年は海水温の上昇や水質汚染などで珊瑚の白化が進み、今世紀中に絶滅するとの指摘もあるのです」
珊瑚の保全活動では海中での養殖と植え付けが一般的だが、村上氏は陸上で養殖して海中に植え付ける方式を採った。カギを握るのは水温や水質などをモニタリングするデジタルサイネージや水槽データ管理アプリケーションなど、最新テクノロジーを活用した「水槽DX」で、その管理業務を障がい者が担うスキームを考案。村上氏は2025年4月22日のアースデーに里海珊瑚プロジェクト株式会社を設立し、12月には東京(千代田区神田淡路町)にショールームとなる拠点をオープン。障がい者雇用が必要な企業を広く募っている。
「里海珊瑚プロジェクト」には現在14社が参画
「障がい者雇用と同時に生物多様性保全にも貢献することが可能です。これまでに高級時計ブランド企業や製薬会社や旅行会社など14社が参画し、40名以上の障がい者が業務に従事しています。また、海底にセンサーとカメラを設置し、データを陸上でモニタリングする仕組みも実践しています。今後はTNFD(自然関連財務情報開示)だけでなく、TCFD(気候関連財務情報開示)への対応も視野に入れています」
障がい者に新たな活躍の場を創出し、企業の成長や社会的責任を支援し、沖縄の海と地球環境を守る。村上氏が描いた事業構想は100年後の未来へと続いている。
ITを活用することで普通のオフィスでも珊瑚を養殖できる