NTTアグリテクノロジー 地域と連携した夏秋いちごの産地形成への挑戦
NTTアグリテクノロジーは2024年、秋田県潟上市に「秋田潟上夏秋イチゴファーム」を開設。地域の生産者や事業者、自治体と連携し、夏秋いちごの産地形成とブランド化に取り組んでいる。地域に新たな産業を生み出そうとするこのプロジェクトの特徴と今後の構想について、農場長の中戸川将大氏に聞いた。
中戸川 将大氏(株式会社NTTアグリテクノロジー
秋田潟上夏秋イチゴファーム農場長)
端境期の夏秋いちごは
高付加価値のブランド品
米どころとして知られる秋田県だが、人口減少率と遊休農地増加率が全国でも特に深刻な地域であり、2015年から2020年の5年間で農業従事者は約28%減少している(※1)。NTT東日本のグループ会社であるNTTアグリテクノロジーは、こうした課題対処に向けて農業起点の取り組みで役割を果たしていこうと、県内のプレイヤーと連携して事業開発を行ってきた。その1つが、自社ファームである「秋田潟上夏秋イチゴファーム」の開設と運営だ。

秋田潟上夏秋イチゴファームのハウス
農場長の中戸川将大氏は、2022年に地域活性化をめざして千葉県から家族とともに移住した。秋田では様々な地域の農業プロジェクトを推進し、地元でいちごの生産などを行う秋田食産など複数の地元生産者と協力して課題解決に挑戦してきた。
「冬春いちごの栽培をしている生産者のところでスマート農業に関連する実証実験を行っていましたが、燃料代の高騰などの影響もあり、ICT導入だけでは生産者側のコストが増加し、投資対効果が低いという現実が見えました。そこで、生産者の収益を上げる方法はないかと議論を重ね、冬春いちごと比べて高値で取引される夏秋いちごに着目しました」
国内で栽培されるいちごは通常、冬から春にかけて多く流通し、6月から11月は収量が極端に減る端境期となる。ケーキなどの材料としての需要が高いにも関わらず、輸入頼みの状態だ。秋田県の中でも潟上エリアは、夏でも猛暑日が少なく、風が強く湿気がこもりにくいという特徴があり、夏秋いちごの栽培に適していた。
「そこで夏秋いちごの栽培のため、遊休農地をお借りし、全7棟あるハウスのうちまずは2棟を開設しました。生産は当社を含む県内7つの生産者が担い、秋田夏響協議会を設立しました」

ハウス内でのいちご栽培の様子
2024年5月から、東北農研(※2)が開発した夏秋いちごの新品種「夏のしずく」の栽培を開始。「秋田夏響」という商標でブランド化を進めており、商品販売の際には、協議会メンバーのみがこのブランドを利用できる仕組みとなっている。
糖度が高く、甘くて爽やかな酸味と瑞々しさが特徴
6次産業化で利益を生み
スマート農業の導入へ
「企業が農業に参入しようとする時は、遊休農地といえども土地をお借りするハードルは非常に高いものです。今回、『秋田夏響』としての夏秋いちごのブランド化に関する構想を丁寧に伝えたところ、農業委員会や市、生産者の皆さまの理解・賛同を得られたことに加え、一緒になって地権者を訪問してくれるなど、一体的なサポートがありました」と中戸川氏。自社ファームで働くメンバーには、NTT東日本の秋田支店を定年退職した地元出身のセカンドキャリア人材を採用するなど、外と内との融合も図っている。
また、産地形成を持続的かつスピーディなものにするため、「三方よし」の精神を貫く。例えば協議会では、生産者同士が知識のみならず、栽培における成功例や失敗例を共有。NTTアグリテクノロジーが蓄積した栽培データは、協議会メンバーはもとより、学術機関などにもオープンにしている。
さらに、協議会として大きなロットで出荷できるからこその交渉力を生かし、品質が同じなら、生でも冷凍でも同じ値段で地域商社が買い取るモデルを構築。これにより生産者は安心して栽培に専念することができることに加え、安定収益を得やすくなり、投資する余裕が生まれ、スマート農業導入へのハードルを下げることができる。
自社ファームで生産されたいちごは、2024年9月に潟上市の「道の駅てんのう」で開催された「夏いちごフェア」において、「朝採れ生いちご」として販売。朝から50人以上が列を作り、販売開始からわずか15分で完売したという。その実績により、2025年8月には秋田駅ビル2階の専門店で、生の「秋田夏響」のほか、バームクーヘン、ジャム、ジェラートなどの加工品も販売されている。

バームクーヘンやラングドシャなどの加工品も人気
「初めは県外からいちごを仕入れていた、地元のケーキ屋さんも、消費者の反応を受け、今は継続的に購入してくれるようになりました。地場の採れたて夏秋いちごを利用することで品質の良さを実感していただいています」
2025年10月には、香港でいちごの試食会を開催。一定の評価を得た上で国内に実績として持ち帰ることで国内外での知名度とブランド価値の向上をめざしている。
連携力が高い秋田県内で
今後の横展開に大きな期待
同社の次の目標は、潟上エリアで確立した夏秋いちごの栽培・事業化モデルを、県内の他地域へ横展開することだ 。まずは2025年度中に秋田夏響協議会のような生産者団体だけではなく、県やいちごに関わる多種多様な業種業態を含めたコンソーシアムを立ち上げ、新規参入を増やし、産地形成を促進させる。
「その上で来期は県と連携しながら、当社が培った技術を県内の他の生産者にしっかりと伝承することに注力します。私自身が新規就農者だった時の実感を踏まえ、従来の紙ベースではなく、栽培シーンを動画にしたマニュアルの作成を準備しています。また、県庁のアンケートで県内約300社の菓子小売業のうち、約100社が秋田産いちごに関心があることもわかったので、県内需要を満たす収穫量をシミュレーションするとともに、エリアごとの出荷手順などを確立させ、販路も整えていくなど、協議会メンバーへの営農支援を充実させていきたいと思います」
そして、2026年度以降は、イチゴファームにおいて、栽培の専門家がデータを活用して遠隔からでも営農支援ができる仕組みの提供や技術伝承、ロボットやAIを活用した作業効率化など、先進モデルのラボとしての機能も試行していく予定だ。先端技術活用により、栽培面積などが増え、安定栽培ができるようになれば収益向上が見込まれ、共同選果場や販売店などもできるようになると、雇用実現や持続的な産地形成にも大きな役割を果たすことができる。
「産地形成実現には、さまざまなメンバーが自らの役割を果たし、協力体制を築くことが不可欠です。まずは、夏秋いちごという新たな産物を通して、県内外から人を呼び込む仕組みを作り、『いちごの街、秋田』として魅力を発信することで新たなブランドとして世の中に表現していきたいです」
※1/出典:農林業センサス秋田県
※2/国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター
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