生活・産業・行政の3本柱でDX 県庁、県民で推進の気運を醸成

6月22日、事業構想大学大学院主催のオンラインセミナー「自治体DXセミナー第2弾」が開催された。基調講演では「スマート福井の実現に向けて」と題し、福井県地域戦略部DX推進監の米倉広毅氏が、福井県のDX推進プログラムについて紹介した。

人口約80万人。山あり、川あり、海あり、東西南北に長く近畿圏、中京圏、石川県に広く隣接し、バリエーションに富んだ17市町を持つ福井県。日本総合研究所の発表した「都道府県別幸福度ランキング2020版」では、4回連続の総合1位。住みやすく、暮らしやすい、クオリティ・オブ・ライフの高い県でもある。

近い将来、起きると予測される
福井の大きな変化

そうした福井県を取り巻く足元の環境は厳しい。人口減少や高齢化による人手不足や持続的な地域経済の確立といった、地方都市がどこも抱える課題のほか、雪害などの自然災害、車社会における将来の地域交通確保など、地域独自の課題もある。コロナ禍におけるDX加速の必要性は、待ったなしだ。

一方で、近い将来の北陸新幹線(2024年福井・敦賀/2030年全線)開業をはじめとする高速交通体系の整備により、都市圏との距離が縮まる。京都府や滋賀県と隣接する県南地区の原子力や再生可能エネルギーを活用したスマートエネルギーエリア「嶺南Eコースト」、関西・中京からアジアへの物流の最適化を狙う「敦賀スマート港湾」など、独自のスマート化への取組みも進む。全国トップレベルの生活環境や働きやすさもあり、コロナ禍による分散社会システムへのシフトで、県内への新たな人の流れも期待される。

こうした中、積極的にDXに取り組むことで生産性を向上し、新たな人の流れを取り込むことで、都市部至近ながら豊かで安全安心な暮らしの先進地としての福井県の特質を一層磨き上げることが重要だ。

福井県では2021年4月、県知事を本部長とする「福井DX推進本部会議」を設置。4月28日に第1回本部会議を開催し、DXへの取組み方針や各部局の取組み内容について、全庁的な意識合わせを図った。

4月1日付で福井県のCDO(Chief Digital Officer)であるDX推進監に任命された米倉広毅氏は「DXは単にICTを導入するだけではなく、職員1人ひとりが『DXとは何か』を理解し、自らの働き方や行政サービスを根本から変えていくことが重要。また、県庁が単独で取組みを進めるのではなく、データが広く流通され、県民、産業、市町と連携したDXへのチャレンジを可能とする環境づくりに努めていくことが必要」と話す。

米倉 広毅 福井県地域戦略部DX推進監

推進プログラムを策定、実行

福井県では2021年3月、「福井県DX推進プログラムver1.0」を策定。生活・産業・行政の各分野において幅広くデジタル技術を社会実装していくべく、「生活のDX」「産業のDX」「行政のDX」の3本柱での取組みを進めている。

中でも行政のDXにおいては、県と市町が連携し、電子申請拡充(押印廃止、ペーパーレス化)やテレワーク環境の充実、ビッグデータの収集・分析や政策への応用、広報広聴のデジタル化などを推進。デジタル自治体の実現を目指す。

具体的には、デジタル県庁を実現するため、電子決裁・文書管理システムや県・市町のファイル共有システムの構築、電子申請の拡充などを推進。AI・RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)の積極的な活用や、テレワーク・モバイルワーク環境も整え、コロナ禍で一気に進展したニューノーマルに速やかに対応するための庁内環境を整備する。

「例えば、新型コロナウイルス感染症に関わる給付金支払いにおいて、RPAを活用し大幅な業務効率化を達成した職員が存在。そうした職員を組織的に増やしていく、また、誰もが『チャレンジしたい』と思えるような文化や仕組みづくりを精力的に進めているところ」と、米倉DX推進監は福井県職員のDX推進への取組み状況を分析する。

財務会計事務におけるDX推進については、クラウドシステムあるいはパッケージソフトをベースとした、業務をシステムに合わせる大胆なBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を検討。県内市町との共同利用も視野に入れ、2025(令和7)年度からの新財務会計システムの導入を目指している。

行政のDXでは、こうしたデジタル県庁、財務会計事務におけるDX推進のほか、AIを活用した道路データ等の収集・分析など様々な分野で12の取組みを行っていく。

併せて、生活のDXでは、県民生活の質の向上を目指し、未来技術を活かしたまちづくりを推進する。MaaSなどの新交通システムの導入、福祉分野のICT活用、デジタル技術を活用した地域防災力の向上、教育分野のデジタル化など、17の取組みを進めていく。また、産業面では、DXによる県内企業の高付加価値化を目指す。ビジネスモデルの変革や業務効率化、人材の確保・育成、スマート農林水産業やデジタル技術を活用した新たな観光施策など、18の取組みを推進していく。

 

みずから変わる、みんなで変わる、
ふくいが変わる

DX推進において、「みずから」変わる、「みんなで」変わる、「ふくいが」変わるの3本柱を掲げる福井県。

「みずから」変わるは、DXありきで考え、実務プロセスを意識的に変革していく姿勢。デジタルデータのリアルタイム性を活用することで現状を見える化し、先手先手での政策立案を進めていく。「デジタルファーストで、まずはやってみる文化を形成していくことが大事と考えている」。

福井県では今年度から、各所属でDXを活用し業務効率化や新たな価値創造を積極的に進める旗振り役としてDXリーダーを設置した。現在、163の所属で240名の体制になっており、DXリーダーに対しては、一歩踏み込んだハンズオンや専門家が伴走する研修を準備。併せて、全庁的なITリテラシーを底上げするための全職員向けの研修や職員の前向きな取組を可視化するイントラネットでの情報流通についても充実させていく。

「みんなで」変わるは、県庁自らのDXに加え「チームふくい」全体でのDXを支援するため、県民・産業・市町などのDX推進の挑戦をサポートする取組。

「DXを推進する人、享受する人、誰ひとり取り残さない環境の整備を目指していく」(米倉氏)。あわせて、県民と連携した形でのオープンデータの積極的な取組も進める。

そして、「ふくいが」変わるは、みずから変わり、みんなで変わった福井県の目指す姿。

「DXをカタチだけの一過性の流行り言葉にしないよう、県民に実感いただける便益を提供することからはじめ、継続的に取組む空気を作ることが重要。1つずつ成功事例を積み重ね、それらを見える化していくことで、気運を醸成していく。そのために、福井県DX推進プログラムを、スピード感を持って実行し、そうした取組を福井ならではのスマートエリアの形成に繋げていきたい」と米倉氏は話した。