観光客を呼び込む環境整備 自治体の挑戦に不可欠な市民と企業の「応援」

北陸新幹線延伸を前に、観光振興を目指した様々な挑戦を続けている福井県坂井市。官民連携の取組も進み始めた現在と今後の展望について、池田禎孝坂井市長に話を聞いた。

池田 禎孝 福井県坂井市長

認知度アップと
観光地整備を両輪で

福井県坂井市における観光の目玉の1つは丸岡城だ。江戸時代前期に建てられた天守閣は、日本全国にある「現存十二天守」の一角を占める。国指定名勝の「東尋坊」も、かつて北前船の寄港地として栄えた三国湊も坂井市だ。魅力的な観光スポットはあるものの「やはり一番の課題は認知度の低さ。坂井市だけではなく福井県全体にいえることだと思います」と坂井市長の池田禎孝氏。特に、関東などの大都市圏に対するPRが今の大きな課題だと話す。

北陸新幹線の金沢~敦賀間延伸を2024年春に控えた今、坂井市では様々な観光振興を目指した取組が進められている。認知度の向上に関しては、一例として、2023年4月に東京都品川区の戸越銀座にアンテナショップをオープン。イートインコーナーや移住の相談窓口なども設け、今後、首都圏における坂井市PRの一翼を担う。

地元では、丸岡城で新しい観光情報センターの新築移転等の事業が進行中だ。「VR体験コーナーを設けるなど、お城に上ることが難しい方も楽しめる施設となる予定です」と池田氏。城とその周辺整備を行うための歴史的風致維持向上計画も策定中だ。国による認定を目指しており、実現すれば、歴史的建造物の修理や修景等に国の支援が受けられようになる。

そして、東尋坊を核とした「三国エリア」における誘客向上構想として策定されたのが「三国グランドビジョン」だ。三国湊町から東尋坊・雄島をコアエリアに、三国エリアにおける滞在人数、消費単価、新規企業数を増やす目標を掲げる。具体的には、駐車場整備を含めた東尋坊再整備事業や、三国港市場周辺整備、そして、海浜自然公園におけるグランピング等の宿泊機能整備や三国湊町の空き家を活用した宿泊施設の整備などが行われる。「やはり、消費に結びつくのは滞在。三国エリアに隣接するあわら温泉などとの連携も含めて取組を進めています」。

地元企業出資の観光事業会社
「Actibaseふくい」も始動

三国グランドビジョンのエリアに含まれる三国湊で、官民連携で進められているのが観光まちづくりを通した地域経済活性化への取組。西日本の各地でICTを活用したサステナブル・ツーリズム構築を手がけるNTT西日本が主導し、2022年10月、観光事業会社「Actibaseふくい」が立ち上げられた。町家を活用したホテル、地域食材を使ったレストラン、アクティビティの創出、町並みや通りなどの環境整備も手がけていく。出資企業は、NTT西日本と10社の地元企業だ。Actibaseふくい、地元住民、行政が三位一体となって盛り上げていきたいと話した。

三国湊のまちづくりでは、地元でもこれまで独自に進めており、取組の積み重ねがある。しかし、何かしらのブレークスルーが必要だとみられていた。その点で、大手企業が参画し、地元企業がパートナーとなって新会社が発足したことには大きな意義があるという。「その中で行政の役割は、コーディネーターであること。ビジョンを共有しつつ、地元や企業との意見調整を行っていくことが役目だと考えています」。

坂井市にとって北陸新幹線の延伸は、様々な面で100年に一度のチャンスだと見ている。「それを逃さずに、市民も企業も行政も、失敗を恐れずに挑戦していかなければなりません。そしてさらに大事なのは、挑戦に応援が加わることです」。

行政は市民を応援し、市民は行政を応援する。そこに企業も加われば、地方にもおのずと活気が生まれ、関係人口も増えていく。人口は少なくても、つながることで力は倍増すると池田氏。「その仕組みを構築することが、広い意味の地域創生ではないでしょうか」。