NTT西日本グループ ICTで地域住民の健康寿命延伸へ

NTT西日本と地域創生Coデザイン研究所は、奈良県天理市と連携し「睡眠センサーを活用した介護予防事業」を推進。睡眠センサーを活用して睡眠状態を可視化し、睡眠改善に向けた行動変容を促すことで、地域住民の健康寿命の延伸と社会保障費の増加抑制をめざしている。

「睡眠」に着目した介護予防事業

過去に健康寿命が全国平均を下回る結果が出た奈良県は、男女とも「健康寿命日本一」の達成をめざし、高齢者や障害者を含む誰もが健やかに暮らせる地域づくりに取り組んできた。しかし、実際に健康づくりを効果的に実施し、社会保障費の増加抑制にまでつなげていくことは難しい。

こうした課題に対して、NTT西日本は多くの高齢者が悩みを抱える「睡眠」に着目し、奈良県天理市の介護予防事業として「睡眠センサーを活用した睡眠改善事業」を推進している。NTT西日本奈良支店の佐々木猛氏はその狙いを次のように話す。

図 睡眠センサーを活用した睡眠改善事業の概要

出典:NTT西日本/地域創生Coデザイン研究所

「私たちは介護施設や医療機関の連携だけではなく地域住民が互いに支えて・支えられる関係をあるべき地域包括ケアの姿と捉え、その中でICTを活用し、未病対策に取り組むことが重要だと考えています。なかでも、日常生活において無拘束でバイタルデータを取得できるのが睡眠センサーです。これを活用して睡眠の可視化や、データに基づくアドバイスを実施することで、地域住民に行動変容を促し、健康の維持・改善や高齢者の方のQoLの向上と社会保障費の増加抑制を実現したいと考えています」

睡眠の見える化で行動変容を促進

天理市では、認知症予防プログラム「活脳教室」を市内公民館などで週1回実施し、参加者の脳機能の維持・改善に努めてきた。教室終了後でも継続的に認知機能を測定できるよう、2020年度からはNTT西日本と連携し、睡眠センサーとAIエンジンによって、認知機能を推計するAIエンジンの精度向上に取り組んできた。

「睡眠センサーで得られたデータから睡眠の質を点数化して、可視化するといった取り組みも行いました。互いに点数を公表し合って会話を弾ませている方も多く、自身の眠りを客観的に捉えることは非常に意義のあることだと実感しました」(佐々木氏)

高齢者の睡眠への関心の高さを目の当たりにしたことがきっかけとなり、2021年度の実証では、経済産業省「ヘルスケアサービス社会実装事業費補助金」の採択を受け、天理市とともに睡眠改善サービスの開発に取り組んだ。同事業では、半年間かけて実証実験を実施。特に、初回・中間・最終と3回にわたる面談に注力し、ライフスタイルや睡眠改善状況の確認、目標設定、アドバイスなどを通じて、健康に対する行動変容を促し、睡眠の質の維持・向上に取り組んだ。

「ポイントは、睡眠の質が悪い理由を参加者の方の生活に当てはめて解りやすく説明することです。例えば、寝つきが悪い方には、入浴後から布団に入るまでの行動をヒアリングします。その上で、『眠る1~2時間前に入浴すると、布団に入る頃には体内温度が下がって自然に眠れますよ』といったお話をしています」(佐々木氏)

また、NTT西日本と共同事業を推進する地域創生Coデザイン研究所の高橋洋司氏は「大事なことは、数値から読み取れることを元に、いかにコミュニケーションを取れるかだと思います。関係性を構築した上で根拠を持ってアドバイスすると、納得感を得て実行していただけるので、それによって睡眠の質が改善していくという好循環を回せたと感じています」と感想を話す。

健康維持・改善と
社会保障費抑制の両立へ

本取り組みを元に、今年度は、睡眠に着目した地域住民の健康維持・改善、疾病の予防をめざす自治体向けサービスを「ねむりの見守り」としてグループ会社のNTT PARAVITAにて事業化した。天理市に向けては、介護予防を目的に、健康無関心層にも働きかけながら参加者の分母を増やして、健康的な生活へと行動変容を促し、得られたデータの蓄積から将来的には社会保障費の増加抑制効果をエビデンスとして示したい考えだ。

最後に、高橋氏は「本事業はあくまで入り口であり、最終的な目的は高齢になってもいきいきと活躍できるようなまちをつくることにあります。収集したデータをヘルスケアプラットフォームとして整備し、異業種連携・医療連携によりデータに基づいた未病対策や健康サポートを通じ、高齢になっても変わらず生活し続けることのできる地域社会モデルの実現をめざします。ヘルスケア領域を皮切りに、教育や産業など地域が抱える多様な課題の解決につなげていきたいと思います」と意気込みを語った。

 

SLEEP TECHを活用した精神的フレイルへの介入

睡眠を可視化し、健康意識を向上させ睡眠改善を図る。良質な睡眠による高齢者の精神的健康状態の維持改善をめざしPFS(成果連動型民間委託契約方式)事業に取り組んでいます。認知症の危険因子とされているうつ病へのリスクの影響なども検証し、新たな認知症予防事業のモデルケースとなるようNTT西日本グループと連携を図って参ります。

天理市長 並河 健氏

約75%の参加者に睡眠改善の効果

天理市では、要介護等認定率が21.5%(2020年9月末時点)と全国及び奈良県の平均よりも2ポイント以上高く、また、要介護認定に係る審査件数のうち半数以上に日常生活に支障をきたす認知症状があるなど、フレイル予防と認知症予防に大きな課題を抱えていました。そうした折にNTT西日本より睡眠センサーを活用した実証事業の提案を受け 、2019年度から実証事業を開始しております。

前年度の実証では、男性参加率が従来の介護予防事業に比べて大幅に増加したことや約75%の参加者に睡眠改善の成果が見られ、アンケートでは「外出や運動をするようになった」などポジティブなご意見を多くいただき、手応えを感じました。

今年度は、天理市薬剤師会とも連携を図り薬局での事業周知に協力をいただいたり、6か月後の事業終了後も身近な場所で睡眠相談ができる体制を構築するためにNTT PARAVITAによる薬剤師向けの睡眠勉強会を実施したりしています。長期的視点としては、薬局が高齢者の身近な相談場所となりアウトリーチの場の一つとなることをめざしています。

市では今後も、睡眠サポートプログラムなどを通じて、市民の皆さまが健康で豊かな生活が送れるような仕組みづくりに取り組んで参ります。

天理市健康福祉部 福祉政策課 地域支え合い推進係
係長 喜多 一樹氏

 

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