地域経済の活性化へ データで磨き上げた顧客体験で消費拡大
「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」(主催・事業構想大学院大学)が報告会を6月に開催。「インバウンドの消費拡大」「地域経済への波及効果」「キャッシュレスデータの利活用」の切り口からキャッシュレスがいかに地域を活性化していくのか、これまでの議論の成果を発表した。
図 キャッシュレス決済で地域を活性化するサイクル
キャッシュレス決済を含めた顧客体験(CX)を、データで磨くことで消費行動を促し、地域経済活性化につなげる
顧客体験、データ利活用から
消費行動へのサイクルを回す
同研究会は衆議院議員で自民党デジタル社会推進本部本部長の平井卓也氏の協力により 2024 年 2 月に発足。これまで3回にわたって、国会議員、地域の首長、業界団体、企業の関係者が地域活性化に資するキャッシュレス社会のあり方について議論を重ねてきた。
今回の会合では、まず事業構想大学院大学特任教授の関孝則氏が3回の議論をふまえ、成果を報告した。関氏はまず、「利便性などを体感できる顧客体験(CX)によりキャッシュレスが普及し、そこから得られるデータから体験を磨き上げることで観光、ネットでの販売、行政サービスなどに利活用し、それによって消費行動をさらに促すというサイクルを回すことによって地域の経済を支えるということが確認できました」と全体の議論を総括した。
そのうえで、あらためて初回からの議論を振り返った。日本におけるキャッシュレス決済比率は約40%にとどまり、世界最高水準の80%には遠く及んでいない。この現状を打破するためのカギは「予約から決済までがスマホで完結するといった、キャッシュレスによる利便性を体験すること。するとキャッシュレス化がさらに進む」と述べた平井氏のコメントを挙げ、顧客体験の重要性に言及した。
実際の事例として、ふるさと納税の寄付にキャッシュレス決済を導入したことでそのデータを効果的な広告につなげている都城市、恐竜博物館の予約データの事前共有により周辺施設の需給予測につなげている福井県、店の混雑状況を把握しクーポンを出すことで観光客の動きを変える箱根町などの取り組みなどを紹介。「顧客体験とデータを掛け合わせることで、人々の行動は変わり、消費を刺激できます。データから得られる知見に基づき、地域経済活性化の戦略を練ることができるでしょう」と述べた。
また、データ利活用を推進するためのインフラとして、さまざまな自治体の活動で得られるデータや外部データ、域内企業のデータを統合、分析し、精度の高い意思決定や施策効果の最大化を実現するダッシュボードの活用が進んでいることを紹介。一方で、データの取り扱いにおいて個人情報保護との兼ね合いが重要になるとし、社会で共有すべきデータと企業が囲い込むべきデータの「協調と競争」領域を分けてデータが活用できる基盤を整備することや、個人情報を匿名化し特定の目的のために使える分野をホワイトリストで定義することなどの手法について提案がなされたことにも触れた。
経済産業省は、現状で約40%のキャッシュレス決済比率を世界水準の80%へと向上させる目標を掲げている。関氏は、「世界では、キャッシュレスで顧客体験を向上させている企業はそうでない企業と比べ2倍以上の収益の成長を実現させているとのマッキンゼーの報告があります。同時に、経験や体験を経済価値として提供し、ビジネスを行う経験経済という言葉が世界では注目を集めています。日本のキャッシュレス化は現状では世界に遅れを取っているが、経験経済に移行することで世界をリードできる可能性がある。そのためには、経験経済化をリードする主体が必要だというのが今回の研究からの1つのメッセージです」と締めくくった。
更なるキャッシュレス化へ
データ利活用による成長余地は大
続いて平井氏が研究会の成果について講評を行った。まず、自民党デジタル社会推進本部の位置づけについて「党の政務調査会の中でシンクタンクとして機能しており、官僚主導ではなく民間の知恵を集めて新しい情報に基づいた政策を作っていくことを目指して、『デジタル・ニッポン2024』の提言をまとめたところです」と述べた。日本のデジタル化が世界から取り残されている現状については「全力で飛ばしすぎたランナーを横目で見ながら周回遅れのトップランナーになりうる。幸い日本のインフラは世界に負けていないので、それを使う考え方を整理すれば、データ利活用による日本の伸びしろはどこよりも大きいと言えます」と期待を示した。
報告会の最後には、同研究会に協賛したビザ・ワールドワイド(Visa)の日本法人代表取締役社長のシータン・キトニー氏があいさつした。キトニー氏は報告の内容について「未来を見据えたものでありながら実践的な提案だった」と評価。また、キャッシュレス比率80%の目標を掲げていることについて「量が増えていくことが質の違いを生む。この目標が実現した未来は、現在の日本とは様相が全く変わっているでしょう」との見方を示した。
Visaでは現在、日本中の交通機関をコンタクトレスで乗り換えることのできるようにするため6月末時点で76のプロジェクトを進めているという。また、データを収集するだけでなく、政府や商店がそのデータを容易に利活用できるようにするための投資も行っていることを紹介した。例えば、中小企業向けに、容易に実装可能で価格面にも配慮したサービスを検討しているほか、消費者向けには電子決済をより使いやすい、使いたいと思えるようなデザインを生み出している。「決済データが公共の利益に役立つ未来を考えていくとともに、そうした未来を実現するため、日本のデジタル・リーダーと協業していきたい」と、キトニー氏は国内のキャッシュレス化でさらに貢献する意向を強調した。
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