変容が求められる個人情報保護法 産業改革へデータ活用を容易に
今後のキャッシュレス社会のあるべき姿を議論する「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」(主催:事業構想大学院大学)。最終回となる3回目のテーマはデータ活用。収集したデータを生かせる個人情報保護のあり方について議論がなされ、具体的な事例が共有された。
デジタル・ニッポン2024で
データ戦略の方向性を示す
第1回の「キャッシュレスとデータ利活用についての発表・インバウンド消費の拡大」、第2回の「データ共有によって生み出されるエコシステム」のテーマを受け、第3回となる今回は、産業や行政におけるデータ利用の現状や課題について議論が行われた。
冒頭、自由民主党デジタル社会推進本部事務局長で衆議院議員の大串正樹氏が、同本部によって5月にまとめられた「デジタル・ニッポン2024」の骨子に触れながら、「デジタル・ニッポンのデータ戦略と産業に与える影響」を論点に特別講演を行った。「デジタル・ニッポン」は、政府のデジタル政策の方向性を示すため同本部が毎年策定している。今年のテーマは「データ戦略」で「技術の進歩に合わせながら制度を柔軟に変え、臨機応変に戦略をアップデートしていく『プロセス指向のデータ戦略』を前提に議論を進めた」という。
データの利活用では、医療データが難病治療や新薬開発に活用できる可能性や、マイナンバーカードのスマホ搭載により防災、子育てのDX推進につながることへの期待について述べたうえで「個人情報保護制度については規制強化一辺倒ではなく、保護と利活用を両立させる運用に見直すべき」と述べた。また、地方自治体においてはシステム運用とデータ利活用に関する政策立案を切り離して人材を育成し、データ戦略が描ける仕組みを整える一方、国際的なデータ流通が経済成長をもたらすとの考えに立ち日本が主導で進めているDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)を具体化していくことの大切さについても言及した。
データはあくまでも手段
活用する構想力こそ重要
続いて、野村総合研究所ヘルスケア・サービスコンサルティング部プリンシパルの田中大輔氏と一般社団法人 キャッシュレス推進協議会事務局長・常務理事の福田好郎氏が、3回の議論を通じて浮き彫りになったデータ活用における課題について話し合った。田中氏は、「キャッシュレスのデータを分析する前に、クレジット、電子マネー、コード決済の各データがそのままでは連携できない構造になっているという課題があるし、ほかの分野のデータと組み合わせる場合にもデータを整理する作業が発生する。その改善が急務」と指摘した。福田氏は「データは公共財との位置づけのもと、政府が利活用を促進するためのルール作りを進めるべき。そうなれば、キャッシュレス決済事業者にとっての事業機会が増え、手数料の低減にもつながる。また、政府が個人情報保護の方向性について長期的なロードマップを示すことで利活用したいという事業者が増えるのでは」と述べた。
これを受け、大串氏は個人情報保護とデータ利活用について改めて言及。「医療において、ある人がどんな病気にかかってどんな治療を受けて、どんな結果が出たかという個人の一連の情報は機微情報ではあるが、匿名化ではなく仮名加工することで初めてデータが生きてくる。消費行動についても同じことが言える。データに基づいた分析は、消費者教育や資産運用などのアドバイスに生かすことができる。守るべきものは守り、使えるものはしっかり使っていくのだという議論を今後は進めていくべき」と、産業利用に向け阻害要因を取り除くことの重要性についてコメントした。
また、公益財団法人大阪観光局理事長の溝畑宏氏は「我々は、世界の都市間競争を勝ち抜いて、大阪に国内外の人、金を呼び込み、税収、雇用を増やし、都市のブランドを高めていくということをミッションにデータの活用を進めている。データは手段であり、データを活用して何を目指すかという構想力こそ重要」とデータ活用の前提にある目的の重要性を説いた。
ふるさと納税、観光における
データを生かした施策
研究会の後半は、キャッシュレスとデータ活用の具体的事例が紹介された。まず、宮崎県都城市総合政策部デジタル統括課主幹の佐藤泰格氏が発表。同市のふるさと納税は肉と焼酎に特化し、肉を前面に打ち出した「ミートツーリズム」による観光PRに取り組んでいる。2014年10月に、寄付手段にクレジットカードなどのキャッシュレス決済も選べるようにした。2016年に84%だったキャッシュレス決済の比率は、2022年には94%に上昇し、2023年の寄付額は196億円にまで増えた。「楽天市場における購入者の地域、年齢、購買履歴と同市のふるさと納税寄付履歴のデータを連携させ、セグメントごとに費用対効果の高い広告戦略が実現できています」と話す。
続いて、リクルートのじゃらんリサーチセンター・センター長の沢登次彦氏が、神奈川県箱根町における取組を紹介。地域のDMOを介して、事前に宿泊予約状況を飲食店や観光施設に共有することで、来場者数が確度高く推測できるようになった。それに合わせた人員配置を実施しているという。飲食店の混雑状況を可視化することで、利用客が待ち時間の間、他施設を訪問できるようになったほか、施設の繁閑を平均化する取り組みも進めている。「地域における総消費額を上げるというゴールを設定するとともに、誰が活用主体者で何を活用していくか、を明確にしていくことも重要です」と沢登氏は述べた。