キャッシュレスによるビジネス創出へ データ共有が生むエコシステム

今後のキャッシュレス社会のあるべき姿を議論する「キャッシュレスとデータ活用による地域経済活性化研究会」(主催:事業構想大学院大学)。第2回のテーマは、データ共有によって生み出されるエコシステムだ。個人の社会生活が生み出す様々なデータの活用に向けて議論が交わされた。

平 将明
衆議院議員

消費動向のリアルタイムな把握可能に
データを活かせるライドシェア

第2回目の研究会は2024年4月12日に東京・青山の事業構想大学院大学で開催された。まず、キャッシュレスデータ利活用による成長戦略について、自由民主党デジタル社会推進本部に所属する衆議院議員の平将明氏が特別講演を行った。平氏は、世界でビジネスにおいてAI を活用した熾烈な競争が繰り広げられる中で、日本が独自のAIファンデーションモデルと協調モデルをつくり、世界の結節点を目指すことが重要だとした。「今後は産官学が連携して、協調領域と競争領域を明確に分けてデータの有効活用を進めていくべきです」と同氏は述べた。

また、地方からイノベーションを起こすべく国家戦略特区が導入されたこと、さらに、科学的根拠に基づいて政策を立案し予算配分を進めるべく、キャッシュレスによる消費動向をリアルタイムで把握できる地域経済分析システム(RESAS)が開発された経緯を説明。「キャッシュレスについては本業で直面している課題を解決し、単価と数量をあげて事業を伸ばすことが肝要だ」と指摘した。その一例がライドシェアサービスへの活用だ。また、「これまでの日本のデジタル化はコスト削減にばかり目が向けられてきた。成長戦略のためには売り上げを増やす、すなわち単価と数量を上げていくことに注力していく必要がある」と話した。その文脈から、法制度をリデザインするスピードを、技術発展のスピードに合わせることがイノベーション実現に必要だと語った。

家計簿アプリは価値の高い
情報を収集する好モデル

続いて、日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリストの若目田光生氏が「データ利活用連携による新たな価値創造に向けて」のテーマで発表。個人情報保護の厳格化という潮流に加え、事業者は消費者のプライバシーに対する懸念にも真摯に向き合い、サービス設計の上流までさかのぼって対策すべきだと指摘した。

若目田 光生
日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト

決済データについては統計に基づく知見の二次活用は進んでいるが、企業間のデータ共有については個人の新たな同意が求められるため慎重に扱わざるを得ないという。一方で、消費者の具体的な欲求に沿うことで成功している事例として、複数の商品購入サイトの情報を束ねた家計簿アプリを挙げた。最後に、データ流通に係る具体的ケースの留意事項をホワイトリスト化し、現在の枠組みの中でデータをどう活用できるかを示すことが重要だと述べた。

この後の全体議論では、宮崎県都城市総合政策部デジタル統括課主幹の佐藤泰格氏が同市の事例を紹介した。マイナンバーカードが市民の9割に普及していることから、事前の本人による同意を前提に、救急車による搬送時に健康保険情報を活用、適切な搬送に繋げた。データ活用の明確な目的を提示、市民が明らかに受益者になることを背景に多数からの同意を得ており、地域の課題解決にもつながる事例だ。これについて、野村総合研究所プリンシパルの田中大輔氏は「情報の利用の同意だけを求めると、消費者は抵抗感を覚えるが、明確なメリットが示されていれば納得感が上がりやすい」と指摘した。

自治体のデータ利活用を
分かりやすい可視化で後押し

研究会の後半の発表では、「地域経済分析システムを用いたデータ利活用推進について」をテーマに内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局ビッグデータチーム企画官の角田憲亮氏が登壇した。同氏は、自治体におけるデータ利活用に向けた課題として、データ分析に取り組む時間的余裕や分析方法に関する知識の不足を挙げた。その解決に資するシステムがRESASだ。POSデータによる消費の傾向なども把握できる。例えば、ある県の商品が県外のどこで消費されているかといったデータが把握できる。

角田 憲亮
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局ビッグデータチーム企画官

また、24年1月に開設された、効果的なデジタル実装を支援するRAIDA(デジタル田園都市国家構想データ分析評価プラットフォーム)にも触れた。現在はデジ田交付金の採択結果に加えて、「感染症回復:旅行」及び、「物価高騰・円安」の2つの政策課題のデータを可視化し、デジタル実装の検討加速を支援する。地方自治体の担当向けに生成AIを使ってデータ分析を支援する機能も搭載している、と紹介した。

自治体が主体になって
ふるさと納税のデータを生かす

ふるさと納税仲介サイト運営のさとふる取締役副社長兼COOの青木大介氏は「地域活性化などのためのデータ利活用の可能性と課題」のテーマで発表した。ふるさと納税の規模は現在年間1兆円規模に拡大しており、一自治体あたり5.7億円分の寄付が行われている。そこでやり取りされる取引情報やレビューなどのログ情報を基盤に、顧客属性に応じた広告、コンテンツ展開を行うなどファーストパーティならではのデータ利活用を行っている。

青木 大介
さとふる取締役副社長兼COO

一方で、自治体のデータ活用は、再度の寄付の依頼など担当部署レベルでとどまっているという。青木氏は「行政や自治体がデータのオーナーになり、地域の顧客関係管理(CRM)を担うといった目的意識をもって他のオープンデータと統合することで、継続的に有効な施策を打つための意思決定に役立てるべき」と提案。「我々もふるさと納税のデータと広い範囲のデータを活用できるようパッケージ化し地域経営をサポートしたい」と述べた。

全国でもいち早くDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を手掛けた公益財団法人大阪観光局企画・マーケティング戦略部部長の牧田拡樹氏によると、自治体はふるさと納税データやクレジット消費データなどを分析に生かしているものの「なぜそういう消費行動を起こしたのかについてはヒアリングをしないとわからずPDCAを回せない」という課題があるという。一般社団法人キャッシュレス推進協議会事務局長常務理事の福田好郎氏は、キャッシュレスデータの活用については受益者と負担者が一致すれば問題ないが、それが異なる場合に意識のずれが生じ、あつれきが生まれる。ふるさと納税はステークホルダーすべてにメリットがあり受け入れられやすい」と、ふるさと納税が生み出すデータの利点を強調した。