2025年までのDX重要施策 業務の見直しから始まる自治体DX
自治体情報システムの標準化、オンライン申請の推進、デジタル田園都市構想の推進など、自治体のDXを推進する重要施策が2025年にかけて目白押しだ。総務省デジタル統括アドバイザーの三木氏が、急ピッチで求められるDXのための自治体の対応や人員・体制のあり方についてアドバイスした。
情報化・システム化とDXの違い
コロナ禍以降、自治体におけるITトレンドはどのようになっていくのだろうか。今回のセミナーで、総務省でデジタル統括アドバイザーを務める三木 浩平氏は「コロナ禍で始まった働き方改革やオンラインサービス提供の方向性は変わらない」「システム標準化とガバメントクラウドにより、ITの利用環境が大きく変わる」「ITと行政改革が結びついたDXの取組が多様化する」の3点を挙げた。
図1 DXで取り組む3つのポイント
自治体DXが成功すれば、単なる情報化にとどまらない新しい価値が創出できる
また、自治体がDXを進めるに当たって認識しておくべき「情報化・システム化」と「DX」の違いについては、「情報化・システム化は従来の紙の仕事をITに置き換えるなどして主に庁内業務の効率化を目指したのに対し、DXでは住民サービスの向上を目的にサービスの提供の仕方自体を変えようとしています」と説明した。
具体例として、千葉市が開発した、破損した公共インフラを市民が写真に撮影して報告できるGPS機能付きのスマホアプリを紹介。対応するのは、市役所だけでなく、市民の力で解決できる事案については市民と協働するためのツールとしても活用されている例を紹介した。そしてDXで取り組む3つのポイントとして「利用者目線で設計する」「サービス提供の方法を根本的に見直す」「新たな価値が提供される」を挙げた。
2025年までの3つの重要施策
続いて、2025年にかけての国の自治体IT関連重要事業について紹介した。まずは「自治体情報システムの標準化」だ。住民情報系のシステムを、2025年までに国の標準仕様に基づいたものに刷新する事業で、新しいシステムは国の整備するクラウド環境(ガバメントクラウド)からオンラインで利用することになる。「従来とは仕様が変わるので、システム利用者には新環境に合わせた業務変革が求められる」と述べた。
図2 標準準拠システムへの移行
自治体の標準準拠システムへの移行スケジュール。2022年度以降、市町村は標準化とガバメントクラウドへの移行を最優先で進めることになる
2つ目が、自治体の各種手続きにおいて、利用者がオンラインで申請できるようにする「オンライン申請」だ。どの手続きをオンライン化するかは、各団体が任意に選択できるが、子育てや介護等の重点分野が設定されている。重点分野の手続きツールについては、マイナポータルの利用が原則とされるが、それ以外は各団体が利用者ニーズに即して任意に選ぶことができる。
「どのオンラインツールを使うか選択肢があり、利用者のユーザビリティ・セキュリティ・コストを勘案しながら決めることが重要だ」と語る。
3つ目が、社会の様々な活動をデジタルで変革するデジタル田園都市構想(スーパーシティ/スマートシティ)だ。「行政だけでなく、産業や教育など様々な分野(準公共分野)を含むため官民の協働が不可欠であり、サービス実現のためのデータ流通に必要な基盤を、国・自治体等で開発している」という。
メリハリをつけた資源配分が重要
では、自治体はこれらのIT関連施策をどのように進めていけばよいのか。「大きな変革を伴う事業群であり、全てを同時に進めるのは人員・予算の関係から難しい。自団体における重要度を計り、メリハリをつけた資源配分が肝要です」と、三木氏は施策の優先順位を決める必要性を強調する。市区町村の対応としては、「標準化とガバメントクラウドへの移行が優先されるので、オンライン申請やデジタル田園都市については、どのようなまちづくりをするのかに合わせて取組度合いが変わってくるでしょう」と話した。
また、情報化担当部門の役割の変化については「ITを効率化のための処理ツールとしてだけではなく、事業経営・サービス強化へ繋げる企画が求められる」とし、サービス所管課については「DXにより、利用者側に寄り添ってサービス提供の方法を再構築することが求められる」と述べた。
一方、都道府県の対応としては、市区町村と違って直接かかる事業は少ないとしたうえで「市区町村の支援をどこまでやるかで大きな差が出てくる」とし、その際「DXにより、健康、介護、インフラ維持、防災、感染症対策などで企業や住民とWebサイトやアプリを使って直接コミュニケーションを取るサービスが出てくるのではないか」と見通しを示した。
責任あるポストには
十分なリソースと権限を
DXを推進する人員・体制については、「ITを活用する場面は増加することから、定常的に必要となる人材は、庁内で育成するか、常勤で雇用等安定的な確保を図りたい」とあるべき姿を提示。その際、全てを1人や少人数に依存することは避け、庁内での役割分担を考えたうえで、責任あるポストには十分なリソース(人員・予算)や権限を付与しないと思ったような成果は出ない、と指摘した。具体的な体制としては、幹部職・管理職・事務職・技術職に至るまですべての階層においてそれぞれの役割でITの推進が必要である。従来のように担当部署に任せていればよい、幹部職員は知識がなくてもよいでは済まされないことから、安易な体制づくりに警鐘を鳴らした。
この際、不足する部分については外部人材の活用(登用・委託・協働)、外部機関とのコラボが重要と述べ、中でもCIO補佐官の役割について言及。CIO補佐官の役割には「コストを削減するための調達案件査定者」「仕様策定やセキュリティ確保のための技術アドバイザー」「ITを活用した市民サービス等情報政策の企画者」「庁内全体のIT資産・事業をマネジメントする統括者」など複数の側面があり、団体により重視する面は異なるという。
また、外部人材を職員として登用する際には、どのような役割(職位・業務)を担うのかによって、必要とされる経験や資質が異なる点も忘れてはならない。全てを高いレベルでこなす人材は稀なことから、要件を明確にして採用に当たることが重要になるという。
セミナーを締めくくるにあたって三木氏は「今後3年間重要な事業が目白押しだ。人員・体制の整備を進めてしっかり取り組んでいきましょう」と、聴衆に呼びかけた。