京の飲食・安全対策向上事業 3000店舗のデータを自治体が生かす

京都府は、新型コロナウイルス感染防止と社会経済活動の両立を目指して、飲食店と一緒に店内のCO2の見える化を図り、換気の習慣づけを促す「“京の飲食”安全対策向上事業」に着手した。データの収集・活用に関する課題は、Salesforceとの協働で、円滑な導入を実現した。

2020年の感染拡大以降、京都府では医療、産業、生活の面から新型コロナウイルス感染症対策に取り組んでいる。大きなダメージを受けた飲食店に対しては、緊急事態措置・まん延防止等重点措置による営業時間短縮などの要請に伴う協力金の速やかな支給に注力しているところだ。

飲食店に換気の習慣づけを促す

「ただ、今後生じるであろう新たな波に対応するためには、感染防止対策を徹底しながらも社会経済活動を取り戻す取り組みが必要になってくるでしょう」と、京都府商工労働観光部の池田公司氏はいう。新型コロナウイルス感染防止と社会経済活動の両立を見据え、新たな対策を考える必要があった。

池田 公司 京都府商工労働観光部産業労働総務課総務係課長補佐兼係長

そこで、京都府が飲食店に対し、通常のパーティションの設置や消毒などの感染防止対策に加えて実施することになった新たな施策が、室内の二酸化炭素(CO2)濃度の継続的な計測により換気の習慣づけを行う、というものだ。こうして安心安全な飲食店を目指す「京の飲食安全対策補助事業」が、2020年4月から始まっている。同事業では、CO2濃度測定器を購入した飲食店に対し補助を行い、店内のCO2濃度が1000ppm を超えた際にアラームを鳴らすことで換気を促す。また、一定期間モニタリングに協力した店舗に対し協力金を支給することで換気の習慣づけにつなげる内容だ。

図1 京の飲食安全対策事業の流れ

京都府による、CO2濃度測定器からの効率的なデータ収集の流れ。協力する飲食店に負担をかけない仕組みを構築した

 

立ちはだかった3つの課題

池田氏はこの事業を執行していく上での3つの課題を説明した。1つ目が、「何を使って、どのくらいの頻度で報告してもらえば協力店の負担にならないようにできるか」という、継続的に簡潔に報告できる手法の検討。2つ目が、「多種多様のCO2濃度測定器があり、大量の協力店がある。そのような状況下で、統一的なデータをどのように収集するか」という、大量の報告データを効率的にデータベース化する手法の検討。そして3つ目が、「せっかく集めたデータをカーボンニュートラルやSDGs目標達成などの促進につなげる「当該事業目的達成後の新たな展開の検討」だ。

Salesforceは、2020年度に緊急事態宣言時の支援給付金システム構築の際、迅速な対応で京都府を支援していた。そこで、池田氏が同社に相談したところ、「特定の機器から毎⽇データをクラウドサーバへ転送する仕組み(REST API連携)なら実績がある」という話が出、「一気に視界が開けた」と池田氏は振り返る。その提案をもとに、京都府として推奨する機器を公募で決定し、その購入に対して飲食店を補助するスキームを考案した。これは、「店舗の意思でCO2濃度測定器を購入して換気を習慣づけるとことに意味がある」という考えに基づいたものだ。CO2測定機能、表示機能、通知機能の仕様を固める一方で、通信手法については、Salesforceから提案のあった クラウド型、メール型の二つの送信手法に限定し公募を実施。5社、5種類の機器のCO2濃度測定器を事業に用いることを決定した。

フィードバックで自発的に

この事業では、1店舗当たり5分間隔で収集されるCO2濃度、気温、湿度の1日分のデータがモニタリング協力店の数だけ送られてくる。大容量データをサマリ化してデータを連係する日々の執行についてはSalesforceのシステムで実施。分析したデータは店舗別、業種別、地域別にグラフ化したうえで、モニタリング協力店にフィードバックする仕組みを作り上げた。

2021年11月から、モニタリング協力店約3000軒に対して一軒一軒訪問しており、「CO2濃度が1000ppmを超えた回数や、1000ppmを超えたタイミングで換気が行えていたかどうか、24時間単位での平均CO2などの店舗の状況を報告するとともに、同業種の平均CO2濃度を知ることで、自分の店の環境を客観的に把握してもらうことも目的にしています」と池田氏。1000ppmを超えた回数が一番多かった日については時間ごとにデータを提示し、改善策を検討できるようにする。

京都府のHPでも分野別のCO2濃度の状況や、換気の取り組み事例などを公表している。自店に適した換気方法を考えてもらうほか、感染防止対策の方法や来店客への協力依頼の仕方などについてもアドバイスを実施。「今回の事業をきっかけに、飲食店などに換気の重要性を理解して欲しい。京都府にある飲食店の感染防止対策は万全だと来店者が実感できるようにしたい」と期待する。

並行して、CO2濃度測定を行ったデータの有効活用についても取り組みが進みつつある。京都府が事務局を務める官民連携の「京都ビッグデータ活用プラットホーム」のワーキンググループが10月に発足した。CO2濃度のデータに加え人流データ、下水データなどをエリア観測情報とともに収集し、データクレンジングをした後にAI分析を行い、感染状況の推移予測などに役立てていくという。

Slack-First
Customer 360に進化

Salesforceは、顧客に関するあらゆるデータを1カ所に集めて、顧客を全方向から捉える「Customer 360」を提唱している。サービスの中心は顧客情報の管理を行うカスタマリレーションシップマネージメントシステム(CRM)である。CRMは、自治体においては、住民や地域の事業者の情報の管理、一元化に活用できる。Salesforceのシステムを使えば、このような自治体CRMを高いセキュリティ基盤のもと短期間で構築可能なだけでなく、地域ごとの要件に合わせた機能拡張や機能変更にも柔軟に対応できる。また、Slackと連携することで、そのコンセプトを「Slack-First Customer 360」に進化させ、場所、時間、働き方を問わず、同僚、顧客、パートナーとのコラボレーションを可能にしている。

Salesforceの自治体での活用事例としては、様々なメディアを通じた施策の周知や、情報を入手した住民、事業者が実際に来庁した際の相談管理や申請の受け付け、審査などにも使われている。また、オンラインでも相談や申請ができるよう、住民向け、事業者向けにポータルサイトを短時間で立ち上げることもできる。そして申請を済ませた住民や事業者からの、電話での問い合わせ時には、CRMにより一貫した対応が可能になる。過去の職員とのやり取りや申請内容がすべて一元管理されており、コールセンター向け製品を活用することもできるからだ。住民・事業者とのオンライン、オフラインでのやりとりを全て蓄積し、情報を分析すれば、将来の施策にも生かせるようになる。

コロナ禍においてCRMの重要性が増す中で、Salesforceが自治体でその役割を発揮する機会は増えている。京都府の今回の事例は、同社の多様な実績の蓄積が貢献した事例と言える。

 

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