干したくあんの伝統を守ることで、市場縮小を乗り越える

江戸時代後期に、備蓄や自然災害への備えとして盛んになった「干し野菜」。その伝統を継承する宮崎県田野・清武地域は2021年2月、日本農業遺産に認定された。同地域を拠点とする、日本で唯一の干したくあん専業メーカーである道本食品の道本社長に、同社の発展過程と事業構想を聞いた。

道本 英之(道本食品株式会社 代表取締役社長)

宮崎空港から車で約20分の山あいに位置する宮崎市田野町。ここを拠点とする道本(みちもと)食品は、日本で唯一の「干したくあん」専業メーカーだ。干したくあんは、収穫した大根を屋外で2週間ほど天日で干して漬け込む、伝統的な製造方法が特徴。手間暇がかかることと、品質が天候に左右されやすいことから、多くのたくあんメーカーでは大根を干さずに作る製法を主力としており、専業は今では同社のみである。

「田野町は100メートルの高台にあります。霧島連山を代表する九州山地を控えており、冬の西高東低の気圧配置になると西風が吹いてくるので、それが大根を乾かすのに有効なのです」と3代目の道本英之社長は語る。

日本農業遺産に認定された宮崎県田野・清武地域での大根天日干し風景

広島の干したくあんを宮崎で

道本食品は1937年、広島県出身だった英之氏の祖父・道本尊次郎氏が宮崎県に移住し、甘藷でんぷん工場として創業した。宮崎県は原料となる良質なサツマイモの産地であり、でんぷん製造に適していたからだ。ところが戦後、安価な輸入品に押されて、国内生産が立ち行かなくなってしまう。

「宮崎でサツマイモを使った仕事をしていましたので、転業を考える上で焼酎づくりも考えたそうですが、祖父は日本酒党で、焼酎には手を出しませんでした。故郷の広島県江田島町では大根を干してたくあんにし、海軍に納めていた風景をよく見たことを思い出し、1966年に干したくあんづくりに業種を転換したのです」

干したくあんづくりは順調に発展したが、一方で、同業他社は次々と手間のかかる天日干したくあんから撤退していった。

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