『はじまりのアートマネジメント』新時代のアートの現場から

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、文化の現場は大きく揺れた。イベントの中止や文化施設の休館が相次ぎ、雇用の不安定さを含めた文化産業の脆弱性が浮き彫りとなった。同時に、文化が地域経済に与える影響の大きさを改めて認識した人も多いだろう。だが、根本的な課題は、従来のアートマネジメントのあり方ではないか。文化施設や芸術団体が危機を乗り越えるためには、マネジメントの再構築が不可欠である。こうした問題意識のもとに編纂されたのが本書である。

本書の特色は4つある。まず、2017年に制定・施行された文化芸術基本法など、近年の法整備を踏まえていること。2つめに、現場の声を反映させるためにインタビューを多く取り入れている点。3つめに、文化産業の営利面にも目を向けていること。4つめは、気鋭の若手・中堅研究者が執筆し、現在進行中の課題をリアルに描いている点だ。

数多くの興味深い事例が取り上げられているが、その1つが北海道白老町の「飛生とびうアートコミュニティー」である。飛生はわずか10世帯ほどの小さな集落で、1986年に児童数の減少により小学校が廃校となった。その校舎を活用した芸術家の共同アトリエが「飛生アートコミュニティー」である。ここでは、地域住民と交流しながら作品を制作する滞在型ワークショップや、「飛生芸術祭」など、さまざまな取り組みが行われている。2011年からは校舎裏の荒れ果てた森を整備し、芸術祭の会場としても活用する「TOBIU CAMP」も始まった。

さらに2018年には、「飛生アートコミュニティー」のメンバーの一人が「ウイマム文化芸術プロジェクト」を立ち上げた。「ウイマム」とはアイヌ語で「交易」を意味し、多様性・多文化共生をテーマに、地域内外の交流を促すプロジェクトである。札幌市や白老町のNPO、芸術団体、企業などが連携し、2018年から2022年にかけてさまざまな活動を展開した。この事例が示すように、アートマネジメントの対象は文化施設にとどまらず、地域全体に広がっていると本書は指摘する。

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