未来のための5つの方向転換を提示 『Earth for All』
50年前の予言が現実のものに
本書は、2022年にローマクラブから発表されたレポート『Earth for All : A Survival Guide for Humanity(万人のための地球)』の日本語翻訳版である。
ローマクラブはスイスに本部を置く1968年設立の民間シンクタンクであり、1972年に発表した第1号レポート『成長の限界(The Limits of Growth)』が世界的なベストセラーとなった。『成長の限界』では、爆発的な人口増加と食料および資源の枯渇、環境汚染による地球の生態系と人類社会の崩壊の可能性を警告した。
それから50年。『成長の限界』で予言されたとおり、人類社会は危機的な状況にあると言えよう。2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けたアジェンダは先進国を中心に広く共有されているものの、2030年までの目標達成には黄信号が点滅している。地球温暖化や生物多様性の喪失には歯止めはかからず、COVID-19というパンデミックの発生により世界経済は大きく揺らぎ、ロシアのウクライナ侵攻によって世界の食料・エネルギー安全保障は崩壊しつつある。
この危機的状況を人類はどうすれば打開できるのだろうか。本書『万人のための地球』は、世界経済と地球の生命維持システムとの関係性を分析し、2つの人類のシナリオを提示した上で、5つの「劇的な方向転換」をすることで、社会的緊張の増大、人間の苦しみの増大、環境破壊の増大を回避できると提言している。
未来のための5つの方向転換
その方向転換とは、①貧困の解消、②重大な不平等への対処、③女性のエンパワメント、④人と生態系にとって健全な食料システムの実現、⑤クリーンエネルギーへの移行の5つだ。本書ではこれらの方向転換には何が必要で、どのようにすれば達成できるかを、現状の課題および障壁とともに詳しく議論している。
例えば貧困では、政策策定範囲の拡大と債務への対応、金融構造の変革、世界貿易の変革、技術へのアクセスの改善(知的財産権の体制見直し)と技術のリープフロッグによって、破綻した経済システムを改革し、成長の質と量の両方に重点を置いて再起動させることで、低所得国でも2050年までに平均国民所得を年間1万5000ドルのレベルに到達できると試算している。
5つの方向転換は深く相互に関連しており、エネルギーは食料に影響を与え、貧困をなくすには富の再配分と不平等の是正が必要だ。現代の経済システムのあり方を根本から変え、新たな経済モデル=「変革のためのウェルビーイング経済学」を導入するべきだと本書は訴える。
ローマクラブの未来予想がまとめられた本書には、事業構想家が注目すべき課題とチャンスがはっきりと描かれている。
『Earth for All 万人のための地球』
- S.ディクソン=デクレーブ他 著、
ローマクラブ日本 監修 - 本体2,400円+税
- 丸善出版
- 2022年11月
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