CSR・ESGのへの法からの多面的接近ー企業と環境・社会

「CSR経営元年」と呼ばれた2003年から、すでに20年以上が経過した。当初は先進的とされたCSR(企業の社会的責任)も、いまや企業経営における前提として定着している。さらに現在では、環境・社会・ガバナンスといった要素に実際にどう取り組んでいるかを測るESG投資について、その活動の実効性を数値とともに開示しなければならない時代に入っている。

環境問題や人権問題など、グローバルな社会課題にどう向き合うのか。その責任のあり方を、あえて「法」というフィルターを通して見つめ直すのが本書の狙いである。CSRやESGといった概念に対し、法学の観点からどのような枠組みや限界があるのかを示す点において、きわめて示唆に富む。

本書は、著者が2009年から2024年に発表した8つの論考を再構成したもので、第1篇ではCSRと法の基本的な関係性を総論的に論じ、第2篇では6つの個別テーマに分けて、より具体的な論点に切り込んでいる。各論のキーワードは、「法を超えるCSR」「人権デューデリジェンス」「透明性の陥穽」など、いずれも現代的な問題意識を反映したものばかりだ。CSRやESGにおける価値判断や企業の義務について検討する論考はどれも読み応えがある。

例えば、比較的新しいテーマである「グリーンウォッシングへの対応と課題」がある。従来は環境NGOなどの指摘にとどまっていたこの問題だが、2022年には国連に専門家グループが設置され、さらに2024年にはEUにおいてグリーンウォッシュ禁止を掲げた指令案が採択されるなど、国際的にも関心が高まっている。本書では、日本における金融庁のガイドラインや開示基準を踏まえつつ、EUの「タクソノミー規則」との比較検討を通して、それぞれのアプローチの特徴や課題を浮き彫りにしている。

また、「ESGと取締役の義務」という論考では、ESG情報の開示義務が取締役にどのような責任を課すかについて論じている。企業統治の根幹にかかわる問題として、実務家にとっても見逃せない視点だ。

本書に収められた各論は、いずれもアカデミズムに裏打ちされた本格的な法的議論で構成されており、軽々しく読み流せる内容ではない。ビジネスの現場に立つ読者にとっては、初めは敷居が高く感じられるかもしれないが、理解が進むにつれ、CSR・ESGをめぐる実務的課題に対し、法的な道しるべという手応えを得られるだろう。

先行きの不透明さが増す現代において、企業と社会の関係を再考するためには、「法」という切り口が有効だ。本書はその手がかりを与えてくれる。理念と現実、規範と実務の間で揺れるCSR・ESGに、法という軸で一貫した視座を与えてくれる一冊である。

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