『ウェルビーイング・マネジメント』 優秀社員が辞めない組織とは

「選ばれる組織」になるための
社員体験の構築方法とは

新型コロナウイルス感染症の大流行により、人々の行動様式が一気に多様化した。リモートワークの広がりなどを要因に、ビジネスパーソンの価値観も多様化している。米国を起点に各国では「大退職時代」が到来。コロナ禍が沈静化し始めて以降、米国では自主退職者が急増し、その数は2021年で約5000万人と、前年より40%も多い水準であった。より良い仕事と働き方などを求めて、柔軟な働き方ができる企業に移動する人材は日本でも増えている。

こうした状況下で企業には、いかに良質な社員体験(ウェルビーイング)を構築するかが求められている。そのためには、オフィスのあり方、マネジメントのあり方、教育のあり方などを大きく見直す必要がある。

「選ばれる組織」になるためのウェルビーイング・マネジメントの重要性や要点を解説した本書からは、取り組みのヒントが多数得られるだろう。社員から選ばれる会社は何が違うのか、充実した社員体験をどのように創造するかを丁寧に説明している。

著者の加藤守和氏は、シチズン時計人事部を経て外資系コンサルティングファームなどで組織・人事コンサルタントとして活躍、20年間にわたり100社以上の組織づくりに関わってきた人物だ。

幸福度を高める4つの指標

本書では、新時代の組織・個人にとって重要な指標として、ワーク・ピープル・コミュニティ・ライフの4つのエンゲージメントを挙げている。

ワークは、夢中になれる仕事そのもの。意味と大義を見出せて、自己の重要性が認識でき、自分の能力が活かせて成長実感を持てる仕事を与えられる環境を整えることが企業の大きな責任である。ピープルは、相互に敬意を持てるパートナーを指す。尊敬できる上司・同僚・後輩がいて、他者からの学びや刺激が多いこと、人間関係が快適で、他者との関わりが自身の心の安定や成長に繋がるような環境づくりが重要だと指摘する。

コミュニティは、一員であることに誇りが持てる組織を指す。会社を信頼することができその方向性に共感を覚えられること、また、多様な社内コミュニティに居場所を実感できることが幸福感に影響を及ぼす。そしてライフは、充実し、自分らしさを実感できるプライベートのこと。家族や友人との交流や、趣味や副業、学びに打ち込める環境であるかが重要である。

そして、これら4つのエンゲージメントを高めるために企業がどのような取り組みを行っていくべきかを、6つのファクター(働き方、オフィス、仕事、人間関係、上司、ビジョンとパーパス)から解説している。企業規模を問わず、組織づくりに取り組む人は必読の一冊だろう。

 

『ウェルビーイング・マネジメント』

  1. 加藤 守和 著
  2. 本体1,800円+税
  3. 日経BP
  4. 2022年9月

今月の注目の3冊

ベンチャーキャピタル全史

  1. トム・ニコラス 著
  2. 新潮社
  3. 本体3,600円+税

 

スタートアップにリスクマネーを供給するベンチャーキャピタルは、イノベーション創出のエコシステムにおいて不可欠な存在だ。日本でも浸透しているベンチャーキャピタルは、どのように生まれて、いかに歴史を重ねていったのか。本書では、ハーバード・ビジネス・スクールのトム・ニコラス教授が、19世紀後半から21世紀に至るベンチャーキャピタルの歴史を解説している。

歴史を紐解けば、ベンチャーキャピタルの元祖は植民地時代のアメリカで遠洋捕鯨を支えていた投資モデルに類似しているという。こうしたリスク投資の源流から、1940年代以降の現代的なベンチャーキャピタル組織形態の誕生、エコシステムの形成、シリコンバレーの勃興など、まさにベンチャーキャピタルの「全史」を詳細に記している。本書は、米国の起業家精神の全史とも言い換えられる内容である。

 

ウェルビーイングを実現する
スマートモビリティ

  1. 石田 東生、宿利 正史 編著
  2. 学芸出版社
  3. 本体2,300円+税

 

少子高齢化による地域経済の衰退と地域交通インフラの疲弊は日本全国の共通課題だ。モビリティは市民の生存と生きがい(ウェルビーイング)を支える最重要な機能であり、都市部や過疎地を問わず、各地でMaaSやAIデマンド交通の検討が始められている。しかし、社会実装にはさまざまな課題が存在する。

スマートモビリティに関する産官学の有識者が執筆した本書は、MaaS等の新しいサービスを活用するための3つのステップと8つのポイントをまとめている。多様なプレイヤーとの共創、組織と人材づくり、利用者の行動変容のしかけ、オープンデータの構築、持続可能な事業設計などの手法と、スマートモビリティが街にもたらす効果を、全国の多数の先進事例をもとに解説している。

行政・観光・交通・ITなど、幅広い事業者に手にとってほしい一冊だ。

 

新規事業を成功させる
PMFの教科書

  1. 栗原 康太 著
  2. 翔泳社
  3. 本体1,800円+税

 

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品やサービスを提供できている状態を指す。著名ベンチャーキャピタリストが提唱したこの概念は、ビジネスを行う上で当たり前のことのように思えるが、新規事業ではPMFの手法が体系化されておらず、顧客ニーズを検証せずに自分たちの思いつきや思い込みのままプロダクトをリリースしてしまい、失敗に陥るケースが多い。

本書はPFMの基礎知識から具体的な達成方法を解説。PMF達成のプロセスや、バリューポジション(自社のみが顧客に提供できる価値)の固め方、PMFの計測方法、組織づくりなどを、14社の取り組み事例とノウハウを含めて紹介している。

大企業から中小企業、スタートアップまで、新規事業や事業再生に取り組む人に、大いに参考になるはずだ。