山形市における公民共創の新事業創出 地域の発展に向かう10の構想

山形市とモリサワ、事業構想大学院大学は、公民共創による新事業創出プロジェクト研究を実施した。山形市の経済活性化と創造都市推進を研究テーマに、様々なバックグラウンドを持つ研究員が市内外から参加した。担当教員や参加者、関係者の視点から、山形市での取組内容や成果を振り返る。

「やまがた創生プロジェクト研究」は、2022年5月から翌年2月までの10か月間、公募選考された10名(山形市内企業7名、市外企業3名)の研究員により行われた。

山形市が課題を提示
新事業で解決を目指す

山形市から示された研究課題は、山形市の経済活性化及び創造都市推進であり、各研究員はこれらの課題に資する新事業の構想に取り組んだ。

研究の具体的なカリキュラムは、事業構想大学院大学の事業構想サイクルを基本とする。(1)各研究員の気づき・問題意識の明確化(2)事業で目指すべき理想と実現したいビジョン設定(3)解決すべき課題や顧客等の探索(4)事業アイデアの創造(5)バリュープロポジションやビジネスモデルの検討(6)事業構想計画書作成(7)山形市長・副市長や市内経済界、研究員所属企業等への最終発表、の構成で、基本知識習得・事例把握のための座学や討議で構成される講義部分と各研究員が個々に行うホームワーク・フィールドリサーチ部分を組み合わせて進めた。

各研究員は、各自の持つ知見や所属企業の経営資源に加え、フィールドリサーチによる新たな知見を加え、示された課題に対し多様なアプローチでの事業を構想した。

各構想の最終的なテーマは、(1)外国人労働者の雇用・生活環境整備(2)地域課題解決に資する自社技術の新たな活用(3)運動・食による健康づくりと交流拠点の創出(4)企業内のデジタル化推進人材育成(5)公民共創によるカーシェアサービス(6)中心市街地活性化(7)コーチングによるウエルビーイング創出(8)山形市と都市の若者・企業をつなぐ新サービス(9)市内企業へのブランディング支援(10)フォント活用による外国人が住みやすいまちづくり、となった。

これらの構想には、社会・地域的必要性と実現可能性が非常に高いものが多いことが、本研究の実施効果を最も端的に示しているであろう。

研究から得られた知見
現場の調査と共創が奏功

今回の研究で意義ある事業が数多く構想された理由としては、各研究員が事業構想サイクルに基づく検討を真摯に進めたことは前提として、最大のポイントは、各研究員が事業構想で必須となるフィールドリサーチ及び共創(Co-Creation)活動を地道かつ積極的に行っていたことだろう。

事業の入口となる、解決すべき具体的課題の発見段階では、市内企業の研究員らは、地元ならではの現場・人脈に根差したリアルな課題を見出す努力をし、市外企業の研究員らは、現場を訪れて知見や人脈を得つつ外からの視点ならではの課題を見出していた。

また、事業のアイデアづくりやビジネスモデル構築段階においても、各自が継続的に地道なフィールドリサーチや共創活動を行っていた。アンケートなども活用しながらの反復的な仮説検証・ピボット、山形市雇用創出課との連携による担当・関連部門へのリサーチ、事業実現のために必要な民間パートナー探し・づくりなど、講義以外の現場での積極的な活動が目立った。

このように本研究では、前向きで素晴らしい研究員らのおかげで、探索・検証の段階に応じた適宜のフィールドリサーチ及び幅広い主体との共創が、地域課題解決に資する新事業構想の一連の流れの中でとても重要であることを、実践の中で再認識できた。

山形市中心街を活性化したい
事業承継者の想い

富岡 宏一郎(とみおか・こういちろう)
株式会社富岡本店 教室営業部 次長

私は山形市中心街で生まれ育ち、この地域が衰退してしまっている現状を悔しく、不甲斐なく思っていました。家業である富岡本店は、明治時代から山形市で楽器販売と音楽教室などを運営している企業です。コロナ禍においては「楽器、音楽と言えばトミオカ」の地域ブランド力を実感しました。

今回、アイデアを事業としてしっかり成功させるためにも体系的に学びたいと思い、やまがた創生プロジェクト研究に参加しました。新しいことを考えるのは好きだったのですが、どうしてもアイデア勝負になってしまっているところがあると感じていたのです。自分と同じような「後継ぎ」、事業承継者の方にはお勧めのプログラムだと考えています。

最終発表会で発表したのは中心市街地の活性化策です。幸いにも、是非実現してほしいというお声もいただいているので、その人たちのためにも頑張らねばと、逆に勇気をいただいております。今後はテストを繰り返し、必要な段階をクリアして、出来るだけ早く実現をしたいと思います。

地域で挑戦する人材育成を
企業版ふるさと納税で実現

井上 貴至(いのうえ・たかし)
山形市 副市長

事業構想大学院大学で講演をした際、山形市の課題をお伝えしたところ、事業構想大学院大学からモリサワをご紹介いただき、同社からの企業版ふるさと納税を活用して、山形市でこの研究会を実施することができました。

山形市は100年企業が京都の次に多く、家族経営だからこその大胆なチャレンジを繰り返している企業が多くあります。今回の研究会でも、創業家一族が自身の企業の強みを的確に分析し、それを生かした新規事業提案を多数見ることができました。また人口25万人という規模の都市であり、経営者同士のつながりが強く、異業種とのコラボレーションが起きやすいです。今回の研究会でも、コラボレーションによる新規提案が生まれました。

他にも、職人肌で質の高さを追求している企業が多いこと、東北芸術工科大学が市内にあって、芸術やデザイン、建築に優れた人材が多いことなども強みです。来期へ向けては、研究や研修にとどまらず、実際の新規事業につながることを期待しています。

研究会をきっかけに
フォントの力をPR

小野 大輔(おの・だいすけ)
モリサワ
営業企画部 公共ビジネス課 課長

モリサワは「文字を通じて社会に貢献する」という社是を掲げています。ただ、ブランドの認知度は低く、文字・フォントの社会における重要性もあまり知られていないと感じています。「このフォントだと情報が伝わりやすい」ということもあるのですが、普段は意識されていないと思います。この研究会をきっかけに、より多くの人にモリサワの事業やフォントの有用性なども伝えたいと考えました

研究会では、プレゼン資料作りの場面でフォントの重要性に気づいていただいたケースが多くありました。企業向けには、自社で伝えたいこと、表現したいことが伝わるように、色やグラフィックデザインなどと同じくらい、文字が重要なファクターになるということをアピールしなければいけないと考えています。それを山形市というフィールドで実行し、山形市と市内事業者にお知らせできたかと思います。今後は、企業・組織などに向けた特別なフォントづくりなど、ユーザーの支援策を増やしていきたいです。