チャレンジ&アジャイルでDXを推進 前橋市の官民連携モデル

群馬県前橋市は2021年3月に「前橋市DX推進計画」を策定し、住民サービスの向上を目的に、デジタル技術活用とデータ活用の推進や、DX人材育成や民間企業との連携を行っている。推進計画の担当者に、DXの現状と課題、展望について聞いた。

岡田 寿史(前橋市 未来創造部 情報政策課 課長)

市民目線での改革を推進

新型コロナウィルス感染症対応では、各種助成金などのオンライン申請や教育分野のオンライン環境が構築されていなかったこと、国・地方を通じて情報システムや業務プロセスがバラバラで非効率だったことなど、全国で行政の課題が明らかになった。2019年から自治体行政スマートプロジェクト(総務省)など各種ICT化に先進的に取り組んできた前橋市では、社会情勢を踏まえ、単なる新技術の導入ではなく制度政策の在り方を変えていく決意で、「前橋市自治体DX推進計画」を2021年3月に策定した。

5年間という長期的な計画ではあるものの、チャレンジ&アジャイルの価値観を組織内に共有し、国の計画やガバメントクラウドなどの政策に柔軟に対応しつつ、行政手続きのオンライン化や市役所のDX推進など、できるところから着実に取組みを進めている。

今回の計画策定・実行に関わってきた前橋市未来創造部情報政策課の岡田寿史課長は、行政手続きのDXについて、現状と課題を次のように語る。

「前橋市では9月時点でマイナンバーカードの交付率が39.1%になりますが、そこに行政手続きのオンライン化を組み合わせて、今年度はマイナポータルを活用して市民が児童手当等に関する主な手続きをオンラインでできるようにしました。また、高齢者の移動困難支援として、マイナンバーカードをタクシー車内でかざしてタクシー費用助成を行う『マイタク』事業も進めており、ビジョンとして掲げている『住民本位の行政及び地域社会の実現』に向けて着実に取組んでいます。

図1 マイナンバーカードを活用した「マイタク」

出典:前橋市

 

一方で、行政向け手続きが一気にオンライン化できたかと言うとそうではなく、例えば介護領域の申請などに関しては、本人の意思確認等について運用を整理中のためまだ公開できていません。これまで対面で厳正化を図ってきたものをデジタル化するという方向性は決めているものの、スムーズに完結させるためにどこに課題があるのか、解決のための段取りを固めています」

市では子育て・介護・引っ越し等ライフイベントに伴う手続きを優先的にオンライン化する予定で、2025年度までにはすべての手続きのオンライン完結を目指している。

77人のDX推進員と価値創出へ

市役所業務のDX、いわゆる働き方改革も重要だ。市ではコロナ禍対応としてWeb会議、テレワーク導入、ペーパーレス化、AI・RPAによる業務自動化などの取組みを試行しており、2022年度にはモバイル端末、無線LAN、ビジネスチャットなどの導入とセキュリティ対策の両輪で、機動的に働ける体制を構築していく計画だ。

計画の推進では、ドコモの提供する閉域simを活用してテレワークを実現した。AI-OCR・RPAの導入では、情報システムの専門職以外の職員でも自身でRPAのシナリオ(作業手順)をカスタマイズできるような組織的サポートをしている。

計画の推進体制は最高情報統括責任者(CIO、副市長)を中心として、庁内に77名の「DX推進員」を各部署からの推薦のもと任命。必要な研修を行いつつ、所属や所管業務を超えた横串の取組みを促している。

オープンデータの利活用にも力を入れている。市役所は地域における「最大のデータホルダー」だという考えのもと、庁内だけでなく、住民や民間企業、教育機関にも積極的に行政情報を公開・連携をしている。官民の相互連携を前提としたデータ整備を行うとともに、EBPM(データに基づく政策立案)をはじめとするデータ活用で、地域全体の効率化・高度化を進める。今年度は市が保有するクローズドデータを活用して空き家を可視化・推計する取組みを試行しており、市の活性化や市民の生活満足度の向上など新たな価値創出を描いている。

ドコモとの官民連携で
デジタルディバイドを解消

さらに市が力を入れる取組みはスマートシティとデジタルディバイド対応だ。交通分野では、スマートシティモデル事業(国土交通省)とスマートモビリティチャレンジ(経済産業省・国土交通省)の採択を受け、5Gを活用した自動運転バスの実証実験や、マイナンバーカードと交通系ICカードを紐づける前橋版MaaSなど、移動の利便性を高める取組みを進めている。市民の行動変容から、新しい暮らしの形や地域課題解決のモデルを生み出すねらいだ。

図2 5Gを活用した自動運転バスの実証実験

出典:前橋市

 

デジタルディバイドの対応については、社会のDXに伴ってデジタル化の恩恵に格差が生じないよう、様々な方法で取組んでいる。「前橋市ではドコモと連携して高齢者向けの『スマホ教室』を開催しているほか、マイナンバーカードの普及促進として、マイナポイント活用のブースを市役所内に開設しました」と岡田氏は語る。

市民向けサービスと市役所業務のDX、両面で先進的な取組みを行う前橋市。今後民間企業との連携について、岡田氏は「市として色々なチャレンジを進めているところで、ドコモからはタイミングごとに自治体向けのツールの案内をいただき、大変ありがたいです。今後は自治体向けのツールだけでなく民間企業で使われているツールや業務の考え方も勉強して取り入れていきたいと思っています。DX推進員77人のレベルアップもしていきたいので、ドコモとぜひ議論したいと思っています」と語った。

 

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