NTT西日本グループ 宮島で地域との共創による観光まちづくり

NTT西日本と地域創生Coデザイン研究所は、広島県廿日市市宮島地域での観光を起点とした地域活性化事業を推進。アフターコロナを見据え、地域の魅力を再定義し、ICTを活かした観光による持続可能なまちづくりを目指している。

通過型観光地からの脱却へ

世界遺産である嚴島神社を擁する宮島エリアは、1996年に世界遺産として登録されて以降、政府のインバウンド政策と相まって、国内外から多くの観光客を集めてきた。人口1,500人の島に年間450万人以上(コロナ禍前の実績)が訪れるようになり、宮島口周辺では交通渋滞などのオーバーツーリズム問題が発生していた。一方、観光客の多くは嚴島神社が目的の日帰り客のため、いかに滞在時間を増やし観光消費額を上げるかが課題となっていた。そうした中、NTT西日本は宮島エリアに適した観光DXを推進し地域課題を解決すべく、2021年5月に廿日市市などと連携協定を締結。観光事業者、住民、観光客と共に持続可能なまちづくりに向けた取り組みを進めている。

「宮島(嚴島神社)は高い知名度を誇るものの、それ以外の豊かな自然や歴史、文化といった観光資源は広く知られていません。それゆえ、通過型観光地となっており、コロナ禍前からの課題となっていました。またコロナ禍の影響もあり、個人単位での観光がさらに増える中、個人の興味関心に合った観光体験を提供していくことも求められています」とNTT西日本中国支店長の猪倉稔正氏は話す。

猪倉 稔正 NTT西日本 執行役員 中国支店長

DXで新たな観光体験を創出

広島県が掲げる「2030年までに観光消費額を2016年の2倍となる8,000億円」という目標達成に貢献するためにも、地域の多様な観光資源と観光客のさまざまなニーズをマッチングした観光体験を創出し、観光需要の拡大を図ることが必要である。

そのような考えのもと、2023年の本格提供を目指し、廿日市市、中国地域創造研究センター、中国放送とともに、準備を進めているのが「観光体験プロデュース事業」の実証だ。猪倉氏によれば、同事業は島内の多様な観光資源の魅力を、より深く分かりやすく観光客に理解してもらうためにデジタル技術を活用して新しい観光体験を創出するもので、「人気スポットをSNSに投稿して終わり」ではなく、観光客が地域の物語を理解し十分に学んで満足につながる仕組みを作っていくという。具体的には、貸し出した端末などに観光客が旅の目的を入力すると、複数のコースをレコメンドするほか、位置情報(GPS)と連動した音声ガイドが流れ、地域のニッチなコンテンツやストーリーを伝えるなどのサービスを検討している。

観光体験プロデュース事業の構想段階では、自治体や観光事業者、観光ガイド、住民などとフィールドワークを実施。多様な関係者とまち歩きをし、アイデアソンやワークショップを行うことで、それぞれの立場からまちの魅力や大事にしたい価値観を再発見することができたという。NTT西日本と共同事業を推進する地域創生Coデザイン研究所Coデザイン事業部担当部長である杉原薫子氏は、フィールドワークの成果を次のように話す。

杉原 薫子 地域創生Coデザイン研究所
Coデザイン事業部担当部長

「地域のガイドさんと言っても、建物に詳しい人や健康という観点から観光スポットを紹介できる人など、一人ひとりの知見は異なります。また、同じ場所だとしても、季節や天候、時間帯や角度によって見え方が違うため、仲居さんなどは観光客のニーズや時期、天候に合わせてご紹介していることも分かりました。こうした暗黙知をICTの力で抽出し伝承すれば、観光ガイドの担い手不足を解消しつつ、個人の興味関心に合わせたニッチな観光コンテンツがつくれるようになります。今後もフィールドワークを継続し、個人の興味関心にあったコンテンツを提供し、事業開発をしていきたいと思います」

運用後は、観光客に開発した観光コンテンツを巡ってもらい、島内の動線分析や滞在時間、リピーター分析などを行うことで、観光客の興味・関心やニーズを把握し、観光コンテンツのさらなる充実を図っていく。さらには地域の観光事業者の運営・経営効率化や事業戦略への活用など、観光地経営の効率化にも活かしていきたい方針だ。

「まだ活用できていない観光資源はどこにあるか、それをどのような方法で観光体験としてデザインできるか。それらを見つけるためにデータを活用した仮説検証を進める必要があり、そこに『ソーシャルICTパイオニア』としての我々の役割があると考えています」と猪倉氏は話す。

住民や観光客が共につくる
「地域循環モデル」の構築

観光体験プロデュース事業は、観光客に新たな体験を提供するだけにとどまらない。最終的に目指しているのは、住民や観光客が共につくる地域循環モデルの構築だ。本事業を通じて住民や観光客を巻き込み、共に地域への愛着を持って文化・環境を守りながら持続可能な観光まちづくりを実現していくという。

図 観光を起点とした地域活性化イメージ

観光を起点とした地域活性化イメージ。リアルは地域が主体、デジタルはNTTが支援しながら推進していく。

出典:地域創生Coデザイン研究所

 

目下の目標は、観光体験プロデュース事業を成功させ、地域活性化に貢献することだが、「将来的には、同事業で培った手法を他の地域に水平展開していきたいと思います」と猪倉氏は抱負を語る。

杉原氏も「音声ガイドなどの観光ツールは、類似の取り組みもありますが、成功事例はわずかです。ネットですぐに見つけられるような情報を発信するだけでは観光客の関心は惹けません。パーソナライズされた観光体験をつくるには、地域の方々しか知り得ない情報を多面的、多層的に提供いただく必要があります。またニーズが多様化し陳腐化のサイクルも早くなる中では情報は更新し続ける事が必要であり、ここにも地域の方々との共創は欠かせません。廿日市市で実施している手法を、他の地域にも展開することで、観光振興によるまちづくりを広げていくことができると考えています。観光振興を起点として、地域の良さを引きだし、地域の方々にも参画いただくことで、シビックプライドを更に深めていき、地域経済活性化とウェルビーイングの両立に繋げていきます」と結んだ。

パートナーの声 廿日市市 環境産業部次長兼観光課長 村上 雅信氏

宮島は島全体をフィールドに歴史・自然・文化などの価値ある資源を体感できる、屋根のない博物館「全島博物館」であり、今後は、デジタル技術を活用して島内の様々な魅力を観光客にしっかり伝えていきます。

ポストコロナの新たな時代の観光に向けて、官民連携による観光DXを推進することで、宮島を快適に観光できる環境が整備され、旅の満足度が向上し、宮島を何度も訪れたい観光客が増えることを期待しています。

 

お問い合わせ



株式会社地域創生Coデザイン研究所
戦略企画部
E-mail:codips-hp-ml@west.ntt.co.jp

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。