蓄電池から製造工程全般へ──!自動車業界が目指す「LCA」とは

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年3月23日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

ウラノス・エコシステムの下でのサービス提供1号となったのが、自動車用蓄電池の原材料調達からリサイクルに至るまでのCO2排出量を算出・可視化する「トレーサビリティ(生産履歴の追跡)サービス」だ。国内の自動車メーカーや日本自動車部品工業会、電池サプライチェーン協議会などが会員として名を連ねる「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」(ABtC)が実施している。

この実績を元にABtCは今、蓄電池からさらに対象を広げ、自動車の製造全体を通してサプライチェーンをまたいだデータ連携体制の構築を目指している。

「挑戦プロジェクト」に選定

2025年7月、経済産業省はABtCが推進する「自動車LCAプラットフォームプロジェクト(自動車LCA)」を、ウラノス・エコシステムの「挑戦プロジェクト」に選定した。「挑戦プロジェクト」とは、ウラノス・エコシステムの下で、将来的にサービス提供を目指している事業を選び、先進的な取り組み例として公表するものだ。

経済産業省情報経済課課長補佐の坂本侑紀さんは、「車載用の蓄電池に限っていたものを、自動車全体に広げ、アセスメントを通じてCO2排出量の削減を目指すプロジェクトです。これを進めていけば、製造工程のどの段階で重点的に対策すればCO2が削減できるかが『見える化』されます。言い換えると、頑張っている企業の努力が『見える化』されるとも言えます」と語る。

ライフサイクル全体を通して環境負荷を評価

LCAとは「Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)」の略で、製品やサービスのライフサイクル全体を通して環境負荷を評価する手法のこと。

自動車LCAのスキーム構築を、専門的立場から支援している「LCAエキスパートセンター」代表取締役社長の神崎昌之さんは、「ライフサイクル全体のエネルギーと物質の流れをしっかりと把握し、そこからCO2のような環境負荷物質を、全体最適化を考えながら、削減していくという考え方です」と説明する。

資源採取、原料生産、製品生産、流通・消費、廃棄・リサイクルといった各段階での環境への影響を測定し、その評価結果は、製造プロセスの改善や原材料の見直しなどに活用される。CO2の削減にとどまらず、資源循環、生物多様性の保全など、持続可能な社会を実現する指針として注目されている。

自動車LCAの実現には、自動車業界との緊密な連携が不可欠となる。このため、ABtCは自動車業界のルール・評価基準に対応し、各企業からの理解を得ながら、自動車LCA実現に向けたデータ連携体制の整備を進めてきた。日本自動車工業会は自らも、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを適正かつ公平に評価できる手法として自動車の温室効果ガス排出に関わるCFP算定ガイドラインを策定。 自動車用LCA手法の議論が進められている国連の自動車基準調和世界フォーラムでは、ワーキンググループに参加し提案を行うなど、国際調和を目指す活動を行っている。

※CFP…「Carbon Footprint of Product」の略。製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの量をCO2排出量に換算し、製品やサービスに表示する数値もしくはその仕組み。

「LCAとは、ライフサイクル全体のエネルギーと物質の流れをしっかりと把握し、そこからCO2のような環境負荷物質を、全体最適化を考えながら、削減していくという考え方です」と語るLCAエキスパートセンター代表取締役社長の神崎昌之さん
「LCAとは、ライフサイクル全体のエネルギーと物質の流れをしっかりと把握し、そこからCO2のような環境負荷物質を、全体最適化を考えながら、削減していくという考え方です」と語るLCAエキスパートセンター代表取締役社長の神崎昌之さん

キーワードは「カーボンニュートラル」「資源循環」

自動車LCAの実現に向け、ABtCは素材、部品メーカーを含む自動車業界全体で、各企業のデータ主権を担保しながら、企業間でデータ共有を促進する基盤構築やデータを登録するためのアプリケーション開発を促進。ライフサイクル全体を通じて自動車1台あたりのCO2排出量を定量的に算定するための、サプライチェーンをまたいだ企業間連携を目指している。

神崎さんは、「データ流通は、これからの大きなトレンドになる」とした上で、「カーボンニュートラル」と「資源循環」の二つがキーワードになると指摘する。

「抽出した地下資源を原料にして、使い終わったら最終処分という一方通行ではなく、『資源は徹底的に循環させて使っていこう』という流れが、今後は基本となっていくでしょう。自社が資源循環の枠組みの中で、どんな再生資源を使っているのか。また、生産過程でどの程度CO2削減に努力しているか。効率的にデータとしてまとめ、流通させていくことは、自動車産業を皮切りに様々な業界で始まると思います」

※カーボンニュートラル…CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計をゼロにすること。

自動車LCAプラットフォームプロジェクトの概念図
自動車LCAプラットフォームプロジェクトの概念図(※画像クリックで拡大)

データ連携の土台、国際競争力、グローバル化

2050年までにカーボンニュートラルを達成するという、国としての大きな目標がある中、ウラノス・エコシステムの役割は決して小さくない。神崎さんは三つの役割に期待を寄せる。

一つ目は、今は業界がそれぞれのやり方で集計したり、やり取りしたりしているデータを、一つにまとめていく土台としての役割だ。「上流の素材メーカーは、様々な業界からそれぞれ違った算定ルールやフォーマットでデータ提供を求められ消耗している」という。これを収斂(しゅうれん)させる可能性を秘めている。

二つ目は国際競争力強化への貢献だ。「サプライチェーン上で様々な企業が取り組んでいる削減努力を効率的にまとめ、『勝てる環境パフォーマンスの指標』を出していくことが国際競争力につながります。その意味でウラノス・エコシステムへの期待は大きい」と指摘する。

そして、三つ目はグローバル化。「海外のデジタルプラットフォームに直接アクセスして、データ提供を求められるのは、『信頼性の担保はできるのか、情報漏洩の危険はないのか』と不安。ウラノス・エコシステムが海外のプラットフォームと連携することで、安心して海外企業にアクセスできる。日本企業の中には、この点での期待感も大きい」という。

「ウラノス・エコシステムの役割は大きい」と語る神崎さん
「ウラノス・エコシステムの役割は大きい」と語る神崎さん

産業全体への波及効果は絶大

実現に向けて、歩みを進めている自動車LCAは、ウラノス・エコシステムを活用したデータ共有・連携の動きを、他の産業へ横展開していくための試金石でもある。神崎さんは自動車LCAへの期待を込めて、こう強調する。

「自動車のサプライチェーンは、非常に多くの産業界を巻き込んだ大きなものです。そこでデータ流通の流れを、見える形にすることができれば、産業界全体への波及効果は極めて大きいと思います」

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