事業構想大学院大学15周年のこの先 「構想」が一段と問われる時代へ
事業構想大学院大学は2012年の開学から15周年を迎えた。事業構想修士は1000名に迫り、拠点は全国5校舎とサテライトへ拡大。次の10年は47都道府県への大学院設置や専門職博士課程の構想を掲げ、実務と学術を架橋する構想人材の育成をさらに進める。
事業構想大学院大学は、2012年4月、東京・南青山の地に開学して以来、本年で15周年の節目を迎えます。これもひとえに、本学の教育理念にご賛同いただき、支えてくださる院生、修了生の皆様、教職員、そして社会の各方面でご協力いただいた皆様のおかげであり、心より御礼申し上げます。
開学当初、私たちが掲げたのは「構想の普及」と「構想人材の育成」という、当時としては未だ言葉にされていなかった理念でした。既存の枠組みを改善するだけでなく、理想とする未来の姿を描き、そこから現在を再定義する力――この「構想力」こそが、これからの社会に不可欠であるとの確信のもと、教育研究を積み重ねてまいりました。
この15年で、本学は東京・南青山を起点に、2018年に大阪・福岡、2019年に名古屋、2022年にはNEXCO東日本との共創により仙台へと校舎を広げ、2025年には北海道にサテライト拠点を設けるまでに成長しました。今春には第15期生を迎え、これまでに輩出した事業構想修士(MPD)は1000名に迫ります。修了生の多くは、企業における新規事業の立ち上げや事業承継、地域社会の活性化、行政の政策立案など、それぞれの現場で「構想」を実践し、社会に新たな価値をもたらしてきました。
実務の現場に埋もれた経験や暗黙知を、学術的な理論として体系化し、再び実社会へと還流させる――この知の循環こそ、本学が一貫して大切にしてきた研究の姿です。月刊『事業構想』『先端教育』をはじめとする出版活動、附属の事業構想研究所における企業・自治体との共同研究、そして各界の第一線で活躍する実務家教員・客員教授陣による双方向の授業を通じて、この循環を着実に広げてこられたことは、私たちの大きな誇りです。
しかし、私たちが目指す到達点は、まだ道半ばです。技術革新の加速、人口構造の不可逆的な変化、価値観の多様化、そして地政学的な緊張――現代社会は、数年単位で在り方そのものが問い直される、非連続かつ構造的な変動のただ中にあります。このような時代において必要なのは、変化に翻弄されることではなく、変化そのものを資源として、自らの手で望ましい未来を設計する力です。
図1 事業構想の枠組みと流れの概念図

2030年ビジョンを具現化
そのために、2030ビジョンを踏まえ、これからの10年、新たな挑戦を続けてまいります。その柱の一つが、全国47都道府県への大学院設置構想です。地域の課題を根本から解決し得るのは、中央から与えられた画一的な処方箋ではなく、その土地に根ざし、生活を営む地域の人々自身にほかなりません。私たちは全国への拠点展開を通じて、地域の実務家やリーダーが自らの手で課題を定義し、解決策を構想し、実行する「内発的発展」の仕組みを築いてまいります。
少子高齢化や産業空洞化、文化継承といった各地域の切実な課題そのものを最高の研究資源とし、地域に埋もれた「土着の知」を学術的に理論化することで、その土地でしか生まれ得ないイノベーションを生み出します。各都道府県に自律した「知の拠点」を確立し、それらを緩やかに結びつけることで、ある地域の成功が瞬時に他地域へと参照・応用される、日本全体の知の循環を実現していきます。すでに東京・名古屋・大阪・福岡・仙台の5校舎、そして北海道サテライトを軸に、地域の自治体や主要企業、金融機関、メディアと連携したプロジェクトが各地で動き出しています。こうした取り組みを一つひとつ積み重ね、都市部だけでなく、人口減少に直面する地方にこそ構想人材が根づく社会を実現してまいります。
加えて、実務家としての集大成を学位として認定する専門職博士課程の設置構想にも取り組みます。海外では実務家を対象とした専門職博士がキャリアの到達点として確立されている一方、我が国ではこうした研究と学びの場は十分に整っていません。第一線で活躍する社会人が、実務を離れることなく自らの実践を理論として深化させ、学位として認定される道を開くことは、日本の高度人材の流動性を高める上でも大きな意味を持つと考えています。
図2 MPDとは何か(MBAとの違い)
事業構想修士(MPD)の位置づけ。新ビジネスをゼロの段階から構想し、ビジネスを成熟~継続の段階まで導く
さらに、幼児期から初等中等教育、修士・博士後期課程に至るまで、「構想する力」を生涯にわたって育む垂直統合型の教育の在り方についても検討を重ねてまいります。教育DXやGX(グリーントランスフォーメーション)、ウェルビーイングといった、これからの社会が必要とする新たな学問領域の開拓にも、既存の枠組みにとらわれることなく取り組んでいく所存です。
いま、生成AIをはじめとする技術革新は、既存の知識や定型業務の価値を急速に変えつつあります。答えを探すこと、情報を整理することの多くは、これからテクノロジーが担っていくでしょう。だからこそ、正解のない問いに自ら向き合い、理想とする未来の姿を描き、それを現実の計画へと落とし込む「構想力」は、代替の利かない人間の力として、これまで以上に社会から求められる資質になると、私たちは考えています。少子高齢化が進み、一つの企業、一つの地域だけでは解決できない課題が増えていく時代だからこそ、実務と学術を架橋し、現場から未来を構想できる人材の存在は、日本の活力そのものを左右します。
事業構想大学院大学は、この15年で培った実務と学術の知の循環を土台に、次の10年、より多くの構想人材を社会に送り出し、日本各地の、そして一人ひとりの未来を切り拓く一助となることを、ここに改めてお約束いたします。開学以来ともに歩んでくださった修了生の皆様は、すでに全国各地で「構想」の担い手として活躍されています。その一人ひとりのネットワークこそが、これから私たちが築こうとする知の生態系の礎です。皆様と議論を重ね、学び合いながら、次の15年、そしてその先へと、理想の社会の実現に向け歩んでまいります。
これからも変わらぬご支援、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。