『広報構想原論 理念を社会へ翻訳する関係性構築の体系』
『広報構想原論
理念を社会へ翻訳する関係性構築の体系』
- 東 英弥 著
- 本体2,800円+税
- 事業構想大学院大学出版部
- 2026年10月
日本の長期停滞の深層にあるのは資金や技術の不足ではなく「構想力の空洞化」である。本書の著者であり、先端教育機構理事長の東英弥は、15社の経営を牽引しながら強い危機感を抱いてきた。この問題意識に立ち、「構想の普及と構想人材の育成」を掲げて2012年に事業構想大学院大学、2017年に社会構想大学院大学を開学。両大学院で展開される「構想の学」を体系化する試みとして、2026年1月に『事業構想原論』が刊行された。その第二弾が本書『広報構想原論』である。
ここで定義される「広報」とは、企業から外部に向けた「発信」と「危機管理」の技術や方法論ではない。企業や組織が、社会との間に信頼を育み、共感を形成する営みであり、「未来」をともに描きながら価値を共有する働きかけのことだ。
事業の成否は、商品や技術、サービスの競争力だけで決まるものではなく、どれほど優れた構想も、社会との関係性の中で価値づけられなければ真の意味で「実現」はしない。企業や組織の理念もまた、どれほど崇高であろうとも、社会と共有された価値へと「翻訳」されなければ、内部論理にすぎないものになる。
とりわけ今、デジタル化の進展、SNSの浸透、そしてAIの進化は「情報」の価値とコミュニケーションのルールを根底から覆しつつある。その中で企業や組織は、価値観の多様化と社会の分断を前に立ちすくむのではなく、望ましい未来像を描きながら社会と対話し、「この未来に参加したい」という共感によって社会と繋がっていかなければならない。理念の言語化や論理構築にとどまらず、深い人間洞察をともなう営為だけがそれを可能にする。この統合的知性を本書では「広報構想力」と呼ぶ。
「広報構想」の定義や「学」としての方法論を提示した上で、古今東西の文献や先行研究から理論的源泉を押さえつつ、広大で緻密な学問的体系を展開する。その中で本書は、理論と現場における実践との「断絶」にも深く注意を向け、それを乗り越える導きを得るべく、国内企業広報の事例の数々を検証する。例えば、マザーハウスに代表される「理念共感型」、岡山県西粟倉村にみる「地域資源編集型」、日本航空のような「危機突破型」。これら類型を通して明確に打ち出される理論と実践が融合した「知」は、読者を納得させ、考えるべきこと、やるべきことへと踏み出すように背中を押すはずだ。
本書の射程は、広報・コミュニケーションの実務にとどまらない。広報を経営そのものの中核に据え、組織変革を伴いながら社会との関係を再構築しようとする経営者やリーダーにとって、堅固な知的基盤となる一冊だ。
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