多様な地域を舞台に、研究を事業へと変える事業構想大4校舎の今

企業の新規事業創出から地域課題の解決まで、事業構想大学院大学の学びは各地で実装されつつある。関西の多様性を力に変える大阪校、産官学金言で地域の未来を描く名古屋校、修了後も構想を問い続ける福岡校、島牧村に住み込んで学ぶ仙台校。四つの校舎の活動を紹介する。

大阪校 関西の多様性を力に
地域をつなぐ構想人材を育成

グランフロント大阪に校舎を構える大阪校は、大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀の関西各地域を舞台に、構想人材の育成に取り組んできた。企業の新規事業創出、産官学連携による地域共創プロジェクト、事業承継者の育成、地域・社会課題の解決に挑む起業家の輩出など、その成果は多方面に広がっている。

大阪校は、「うめきた」エリアのグランフラント大阪で、関西圏の未来を担う構想人材を育成すべく活動している

関西は一つの圏域でありながら、地域ごとに独自の文化や産業、経済圏を形成している。大阪校では、こうした多様な背景を持つ院生が集い、地域や業種を越えて学び合う。実務家教員とアカデミック教員による指導のもと、互いの経験や視点を交わすことで研究を深め、各地域の特色を生かした事業構想につなげてきた。

さらに、関西全体を視野に入れた広域的な取り組みとして、関西経済連合会との連携も進めている。本誌連載「先駆ける関西、ファーストペンギンの心意気」での企業取材や、大阪校での企業経営者・有識者を招いた講演イベントの開催を通じ、先進的な企業の挑戦を広く共有するとともに、産業界との対話を深めながら、関西の未来を担う構想人材の重要性を発信している。

今後は、各地域に根ざした取り組みを深めながら、共通の課題を持つ地域や企業をつなぐ活動を広げる。関西経済連合会や京都市などと連携し、森・農・食をめぐる課題を切り口に、地域資源を生かした新たな事業の可能性を探るイベントも開催予定だ。地域の資源と多様な知を結び、新たな事業を生み出す拠点として、関西の未来を切り拓いていく。

関西経済連合会との連携のもと、様々なセミナーやイベントを開催

名古屋校がはぐくむ
「地域未来構想プラットフォーム」

中部・東海は一枚岩ではない。名古屋、三重、東三河、浜松では、産業構造も地域が抱える課題も大きく異なる。事業構想大学院大学名古屋校では、こうした地域ごとの特色を生かしながら、個人の研究を地域の変革へと繋げる取り組みを進めている。

名古屋駅直結のJRゲートタワーにある名古屋校。様々な人材が集まり活発な議論が生まれる

その成果は、修了生の活動にも表れている。JPコーチ&コンサルティング代表の栗田恵世氏は、在学中に構想した事業を実装し、出身地である岐阜県の大垣商業高校を起点に、高校生と地域企業を結びつける活動を展開。企業が抱える経営課題に若者が向き合うことで、企業側にも生徒側にも新たな気づきが生まれ、その成果は全国商業高校商業研究発表大会で2年連続日本一に輝いた。現在は第3期を迎え、参加校は6校276名に拡大。工業高校や私立校、中学校にも対象が広がり、群馬・富山など県外への展開も進んでいる。

一方、龍野雅美氏は旧日本ガイシ(現NGK)に勤務しながら、本学のプロジェクト研究を経て修士課程へ進学。そこで深めた新規事業の研究を会社へ持ち帰り、超薄型二次電池を活用した「推し活」などエンターテインメント分野への事業展開につなげた。同電池は『推しの子』公式グッズに採用され、SKE48公演でも実証された。自ら事業を営む栗田氏と、企業の内部から新事業を生み出した龍野氏。立場は異なっても、構想を社会へ実装した点で共通している。

さらに名古屋校では現在、文部科学省の「産学連携リ・スキリング・エコシステム構築事業」を通じ、名古屋、三重、東三河、浜松の4地域で構想人材育成を展開している。企業、行政、大学、金融機関、メディアなどが垣根を越えて交わり、継続的に学び、地域の未来をともに構想する「産官学金言」の地域未来構想プラットフォームへ。一過性の研修ではなく、地域を越えて人と知見が循環する、継続的な人材育成の基盤をつくることが、名古屋校の目指す未来像である。

地域の産業界と連携した人材育成プログラムに力を入れる。写真は名古屋校における文部科学省「産学連携リ・スキリング・エコシステム構築事業」地域委員会の様子

福岡校 地域課題に向き合い
構想を育て続ける

福岡校には、九州地域を中心に、多様なバックグラウンドをもつ院生が集まっている。近年では海外から学ぶ院生も在籍しており、幅広い地域・分野の実践知が交わる場となっている。教員の多くが実務家教員であり、院生は現実の社会課題や事業機会に向き合いながら事業構想を磨いている。近年は大同窓会を開催するなど、修了生を含めた校舎単位のつながりも深まってきた。地域の主要企業や自治体との接点も広がり、多様な実践者と関わりながら研究する機会が広がっている。

福岡校修了生の古賀雄大氏は家業の技術を生かした新規事業への挑戦を続ける

院生には、地域企業の経営者や後継者、自治体職員に加え、大企業に所属しながら新規事業や事業変革に挑戦する実務家も多い。それぞれが異なる立場から課題や機会を持ち寄り、多様な視点を交わしながら構想を深めている。

修了後もその挑戦は続く。12期生の古賀雄大さんは、在学中、自社における新規事業の可能性を探究していた。事業構想の検討を重ねるなかで、自社の強みや地域資源を新たな視点から捉える力を養ったという。修了後、事業構想大学院大学の先輩が参加していた福岡県の新商品開発プログラムに刺激を受け、自らも挑戦を決意した。現在は、家業である古賀金属工業が長年培ってきた「折足」の技術を活かし、地域企業との協働による家具ブランド「ORIASHI」の展開に取り組んでいる。

本学には、修了後も研究員として研究活動を継続できる制度がある。福岡校でも、この制度を活用しながら事業構想の深化に取り組む修了生がいる。事業構想は修了によって完成するものではなく、社会の変化とともに問い続けられるものである。福岡校では、在学中から修了後に至るまで、多様な実践者とのつながりのなかで構想を深め続ける環境が形成されている。

仙台校 実践と研究の往還
島牧村の未来を構想

北海道南西部、日本海に面した人口約1200人の島牧村で、「地域おこし協力隊×事業構想大学院大学」という先駆的な取り組みが進められている。大学院生が地域おこし協力隊として移住し、地域の現場で活動しながら研究に取り組むこのプログラムは、地域課題の解決と人材育成を同時に目指す新たな挑戦として、2026年10月で開始から1年半を迎える。

協力隊員たちは、日中はサテライトキャンパスでもある道の駅「よってけ!島牧」などを拠点に活動し、夜間や週末には大学院での研究を進めながら、それぞれの事業構想を磨いている。現場で得た気づきや問いを研究によって深め、その成果を再び地域へ還元する。協力隊活動と暮らしを通じた実践と研究の往還こそが、本プログラムの大きな特徴である。

現在、仙台校に所属する大学院生たちは、2027年2月の審査を目指して事業構想計画書の作成に取り組んでいる。その構想の源泉は、豊かな地域資源に囲まれた島牧村での日々の暮らしにある。協力隊員たちは村役場や地域住民との対話を重ねながら、さまざまな挑戦に取り組んでいる。新しい旅行会社の形に関する研究、島牧ワインの復興に向けた調査、SNSを活用した情報発信、地域住民とのコラボレーションなど、新たな試みも着実に広がりつつある。こうした実践の積み重ねが、「地域の未来にどのような価値を生み出せるのか」という問いを育み、それぞれの事業構想へとつながっている。

大学院生が地域おこし協力隊として島牧村に移住。島牧村のワイン復興に向けた活動などに取り組む

本取り組みの特色は、協力隊員が地域社会の中に身を置き、多様な主体との対話を通じて未来を構想し、その実現に向けて行動できる人材を育成することにある。この実践と研究を往還する先駆的な試みは、その可能性を着実に示しつつある。ここから生まれる構想と実践が、島牧村の未来のみならず、日本各地の地域づくりや人材育成に新たな示唆をもたらすことを期待したい。