理念を社会と共鳴させる論理 2冊の『構想原論』に込めた次世代への指針

日本の長期停滞の深層にあるのは資金や技術の不足ではなく「構想力の空洞化」である。実務と学術を架橋してきた東英弥理事長が、二冊の「構想原論」で理念から価値を創り、社会と共鳴させる論理を体系化する。

『事業構想原論』2026年1月に刊行。
『広報構想原論』は2026年10月1日に出版された

実務と学術を往還する

2026年1月、学校法人先端教育機構理事長・東英弥は『事業構想原論 理念を基軸とした価値構想の体系』を上梓した。1978年の広告会社創業以来、半世紀近くにわたり15社の経営を牽引してきた実践知と、大学院で重ねてきた学術研究とを融合させ、「事業構想学」という新たな学問領域を初めて体系立てて示した一冊である。

その背景には、研究を続ける事業家として抱く強い危機感があった。日本の長期停滞の深層にあるのは、資金や技術の不足ではなく「構想力の空洞化」である――理念を羅針盤として社会に眠る価値の種を見出し、持続可能な事業の理想像を描き切る力こそが失われている。東京大学名誉教授の吉見俊哉氏が本書を「経営学の書でありながら、ありきたりの経営思考の限界を構想力で突破する」と評したように、本書は単なる経営指南にとどまらず、既存の学問の枠組みそのものを問い直す。

2012年開学の事業構想大学院大学は「構想の普及と構想人材の育成」を掲げ、実務と学術を往還する教育を実践してきた。同時に、その根底にある思想を体系的な理論として言語化し、後進や社会に手渡す作業が動いていた。実務家が現場で培った経験知を、誰もが研究し、応用できる再現可能な形式知へと昇華させること――それが『事業構想原論』執筆の動機であった。18社にのぼる起業と経営の実践、そして大学院での研究を経て商学の博士号を取得した自身の歩みそのものが、この一冊の中に体現されている。

そして2026年10月、『広報構想原論』が刊行された。『事業構想原論』が理念から出発し、社会に潜在する価値を発見して事業という形へと結晶させる体系に対し、本書はその理念を社会に届け、共感と信頼を通じて価値を「共鳴させる設計」を担う。広報を、メディア露出の獲得や炎上の鎮静に象徴される「伝達の技術」から解き放ち、組織と社会の望ましい関係性を理念に基づいて構想する「構想の学」として再定位する試みである。

京都大学名誉教授で、現代文明論の大家でもある思想家・佐伯啓思氏は、本書が広報を「組織による情報の伝達の技術」から「組織と社会の望ましい価値を作り出す構想の学」へと捉え直した点をとらえ、「『広報』の概念を一新する『広報学』の誕生」と評した。送り手と受け手を、共に価値を生み出す「共創パートナー」とみるその視座は、まさに今日の時代の要請に応えるものであるという。理論・方法論・実践という広い視野で論じられた本書を、佐伯氏は「新しい文明論」とまで呼んでいる。

『事業構想原論』で理念から事業を構想する論理を示し、『広報構想原論』で理念を社会と共鳴させる論理を示す。二冊は対をなしながら、生涯をかけて追い求めてきた「構想」という思想は、次の世代への知の基盤となる。事業構想大学院大学、社会構想大学院大学という、二つの専門職大学院の存在もまた、この理念を体現する装置にほかならない。

実務と学術を架橋し、理念を軸に据えて社会をより良く変えていく人材を、一人でも多く育てたい。「地図は荒野を歩かない」という言葉に象徴されるように、理論という地図を手にしながらも、最後は自らの足で荒野に道を切り拓く構想力こそが、これからの時代に問われている。その復権への強い願いが、この二冊の「原論」には貫かれている。