実務家教員と新たな知の形式 社会が求める知識生産の担い手に
実務家教員が知識生産の担い手に
実務家教員が必要とされる理由の一つに、社会で新たな知識が求められている点がある。現代社会では、産業のグローバル化やデジタル化の進展、環境問題など、様々な課題に対応するために新たな知識やスキルが必要とされている。このような社会的背景のもとで、実務家教員が持つ実践的な知識や経験を、新たな知識の形式に変換することは重要であると考える。
これから求められる知
これからの社会において求められる知は、おおきく分けて三つあると筆者は考えている。一つめの知識は、専門分野に裏打ちされた専門知である。いわゆるアカデミズム的(学問分野的)な知識――たとえば物理学、生物学、経済学のような知――を指している。専門知はこれまでもこれからも社会を支えていく知識である。
二つめの知識は、実務実践に裏打ちされた実践知である。アカデミックな専門知ではないけれども、確かに実務実践で成果を出すために用いられている知識がある。専門分野に分類できなくても知識として社会を支えている知識がある。三つめの知識は、知識のための知識であるメタ知である。これは専門知や実践知をどのように活用すれば、成果と結びつけることができるのかを問う知識である。知識を活用するための知識も一つの知識である。これは、専門知にも実践知にも当てはまらない第三の知といえる。
これからの社会は、これらの三つの知識の組み合わせが重要となるのではないだろうか。これら三つは知識ではあるけれども、種類が異なる。だからこそ知識のつくられ方も異なるはずだ。
三つの知識の共通点
さて、三つの知識の共通点とはなんだろうか。筆者は、「いかに成果を生み出すか」という点だと考えている。
専門知はどうだろうか。例えば、物理学など基礎研究から生み出される知識は、成果と関係が薄いように思われるのではないだろうか。物理学の知識も成果と深く結びついている。新たな物理学的な知識を生み出せば、その新たな物理学的な知識を元にして、さらなる新たな物理学的な知識を生み出すことができる。つまり物理学の知識を生み出すことは、さらに新しい物理学の知識を生み出すという成果に貢献しているのである。専門知は、さらなる専門知という成果を生み出しているのである。
これはとうぜん実践知にも当てはまる。例えば、マーケティングの実践を行う実践知があれば、それはマーケティングを行いその成果を出すことが目的となる知識である。少なくとも、知識を適用させた成果が生じることが前提である。いいかえれば、課題を解決することが成果としてダイレクトにつながる。実践知は、どのような成果が出せるのかということをあらかじめ同定させておくことが必要である。
加えてメタ知についても言及しておこう。メタ知は、知識をどのように活用したら成果を生み出すことができるのかを考える知識である。加えていえば、知識と知識を組み合わせて新たな知識を生み出すための知識である。例えば、専門知は新たな専門知を生み出すことで成果にコミットメントしているが、専門知が別の場面で役立つことも当然あるだろう。そうした専門知が社会のどのような場面で活用することができるかを考えるのがメタ知である。
だからよく聞かれる「実社会と学問が乖離している」というのは、メタ知の部分が足りていないだけなのだ。あるいは、実践知も同様で実際に実践知を現場でどのように落とし込めばよいのかというのがわからないと成果があがらない。そういった知識と知識のすき間や、知識と実践のすき間を埋めるのがメタ知なのである