自治体DX推進のカギを握る、人材の確保と育成 先を見据えた組織作り

1月25日に開催された「NTT東日本グループSolution Forum 2023 地域創生DX会議」では、基調講演で総務省自治行政局の小牧兼太郎氏が登壇し、自治体DX推進計画の動向を解説した。DX推進のカギを握る人材については、デジタルを活用する能力を持つ職員の育成の重要性を語った。

小牧 兼太郎 総務省 自治行政局
地域情報化 企画室長・マイナポイント施策推進室長

急激な人口減少で
サービス維持に支障も

今回のフォーラムで基調講演した総務省自治行政局の小牧兼太郎氏はまず、自治体DX推進の流れを生み出しているものとして、人口減少問題に言及した。現在約1億2000万人いる日本の人口のうち、もっとも多いのは団塊世代。戦後、社会が落ち着いた1947~1949年ごろまでに生まれた人々で、約260万人が出生した。彼らが親となって生まれた人々が団塊ジュニア世代で、約200万人が出生。「しかし2013年の出生数は100万人。最新の発表である2021年の出生見込みは80万人を下回りました。今後も、想定を超えるスピードで人口が減っていくことになります」。

これが国や地方自治体にもたらすものは何か。小牧氏は「公務員の数をどのレベルで維持するのかという問題」だと指摘する。1994年には地方公務員が日本全体で300万人を超えたが、その後、国も地方自治体も一貫し、公務員の人員削減を続けた。近年は新型コロナウイルス感染症の蔓延で、保健師など、人材を増やさなければならない分野はあるが、公務員数は少ない状態が続いている。

「そんな中で、現場は限界を迎えています。でも、だからといって公務員数を増やすことができるのか。個人的見解ではありますが、人口が減れば、自治体職員の数も減らさざるを得ません」。これまでの公務員数削減と、人口減による公務員数削減は、問題が違うと小牧氏。「少子高齢化が社会に与えるインパクトは大きい。社会保障にかかる経費や、公務員の仕事のボリュームは増加。インフラも更新の時期を迎えているものが多くあり、それをどうするのか、その選択も迫られています」。

取り組まなければいけないことは山積みながら、人口が減ればそれを支える人材も財源も足りないのは明らかだ。かなりの制約の中で、国民が求める行政サービスのレベルは上げなければいけないという大きな課題を、国も自治体も抱えている。

DXの本質は、住民への
新しい価値の創出

「その問題を解決する処方箋の1つが、デジタルの力。デジタルを使って効率を上げていくことが大変重要です」と小牧氏。デジタル化については、地方制度調査会による「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」でも触れられており、この中では、地方公共団体同士の連携や、都道府県による市町村支援など、さまざまなことが提案されている。

もう1つが、進歩するIT技術をいかに行政に取り込んでいくか。これまでも、政府ではIT基本法の成立をはじめとしてさまざまな取り組みを進め、地方自治体においても住基ネットやLGWANといったネットワークが整備されてきた。これらは、システムを使い、いかに地方自治体の業務を効率化させるか、ということが念頭に置かれて進められたICT化である。

これに対し、近年進められるDXについて小牧氏は、「DXで求められているのは、もう一つ上の次元の効率化。デジタルの力で新しい価値を住民に提供することです。住民本位であることがDXの本質だと、私は理解しています」。

行政手続のオンライン化推進に関しては、自治体職員から「役所の仕事の本質は、福祉を中心として困っている人に寄り添うことであり、手続を何もかもオンライン化して対面の機会を奪うのは、役所のミッションから外れるのではないか」という反論を受けたこともあるという。これに対し小牧氏は、「手続の中には、同じ書類を同じように作り、平日しか開いていない役所に仕事を休んで行く、というものもあり、それに苦痛を感じている国民は多い。職員数を減らすためのオンライン化ではなく、対面の必要がない手続を、デジタルを活用しオンライン化することで、大切な対面によるサービスに人員を割けるという視点を持ってほしいと思います」。

各地方自治体は、国の指示にただ従ってDXに取り組むのではなく、何を目的として行っているのか、やったことで何を生み出すのかをしっかりと念頭に置いて推進してほしいと話した。

国も支援する
デジタル人材の確保と育成

地方公共団体の情報システムの標準化・共通化は2025年度が達成目標期限とされている。「その中で非常に重要なことが、デジタル人材の確保と育成」だと小牧氏。デジタルに対応するには深い専門性が必要であり、少し勉強した程度で多岐にわたるデジタル分野のプロフェッショナルになれるわけではない。デジタル人材の確保と育成に対する総務省としての考えは、「最も高度な最先端部分に関しては、外部の高度専門人材の活用やCIO補佐官の登用などが考えられます。しかし中長期的には、地方公共団体の一般職員とデジタル分野の高度人材をつなぐ職員の育成を、20年、30年先を見据えて行ってほしいと考えています」。

図 デジタル人材の確保・育成の全体像(イメージ)

一般の行政職員と、高度専門人材の橋渡しができる自治体職員が求められる

この「間をつなぐ」職員を、総務省では「DX推進リーダー」と名付けている。デジタルツールを活用できることはもちろんだが、デジタル化に関する要件を整理し、高度人材へ「発注」もできる人材だ。国も、その人材の育成を、国が経費を負担する形で2023年4月から充実させる。「これまでこういった人材育成の研修などに対し国がお金を出して支援するということは、ほとんど行われていませんでした。しかしデジタル分野については、その意気込みを持ち地方自治体を支援するということです」と小牧氏は話した。

「今、官民問わず、国・地方問わず、デジタル人材は非常にひっ迫している。その中で、1700もの市町村が同じようにデジタル化に取り組まなければならない状況です。例えばCIO補佐官を1700市町村分揃えられればいいのですが、それは現実的ではありません。ということはやはり、都道府県がしっかりと音頭を取り、悩める市町村を着実にフォローしていってほしいと考えています」。

最後に、「この人口減少に立ち向かい、地方自治体はさまざまな取り組みを行っていかなければならない。メインとなるのはデジタルの力。それを使った社会変革である」とし、繰り返しにはなるが、「何のために、何を目的に、ゴールはどこにあるのか、を常に意識しながら取り組んでほしいと思います」と強調し、講演を締めくくった。