自治体トップランナーが語る、クリエイティブ内製化による広報強化

自治体が広報紙や動画の制作を内製化し、コミュニケーションの質の向上や制作コストの削減などを図るケースが増えている。クリエイティブ内製化にいち早く取り組んできた3自治体に、内製化の背景や現在の取り組み、アドビのツール活用法、成果などを聞いた。

北本市・内子町・むつ市が内製化した広報ツール

アドビと月刊事業構想は、自治体広報の認知度・訴求力向上方法を事例ベースで解説する全4回の実践講座「クリエイティブの内製化による自治体広報の変革」をオンラインで開講する。第一回目は内製化をいち早く進めている埼玉県北本市、愛媛県内子町、青森県むつ市の広報担当者3名を招き、内製化の背景や効果、アドビのツール活用方法などを話し合った。進行は、埼玉県三芳町で「全国広報コンクール」で日本一に輝き、現在は自治体の広報アドバイザーなどを務めるPRDESIGN JAPAN株式会社代表取締役の佐久間智之が担当した。

左から、埼玉県北本市の秋葉 恵実氏、愛媛県内子町の兵頭 裕次氏、青森県むつ市の鎌田 隆夫氏、PRDESIGN JAPAN株式会社代表取締役(元埼玉県三芳町)の佐久間 智之氏

埼玉県北本市

埼玉県北本市は都心まで約50分の距離でありながら豊かな自然が残り、子育て世代に人気を集めるまちだ。広報活動に注力しており、市民と進めた屋外の仮設マーケット事業が2022年度の「全国広報コンクール」で日本一の内閣総理大臣賞を受賞している。

北本市では『Adobe Creative Cloud(CC)』を2020年度に導入し、広報紙の内製化をスタートした。その経緯を市長公室シティプロモーション・広報担当主任の秋葉恵実氏は次のように説明する。

「以前は職員がPowerPointで簡単なレイアウトイメージを作り、それをもとに印刷会社がデザインしていました。制作費の高さは課題でしたが、市職員にプロのようなデザインはできないだろうと内製化には足踏みしていました」。しかし全国広報コンクールで他の自治体が内製化している広報紙に衝撃を受け、北本市でも内製化を目指すようになった。「まずは印刷会社に送るPowerPointのレイアウトを作り込むことからスタートしました。頑張りや成果を見た上司が『ここまでできるなら内製化もできそうだね』と言ってくれ、DTPソフト『InDe sign』を使った内製化にGOサインが出ました」

現在、毎月32Pの広報紙を秋葉氏ら専任職員2名で制作している。市販雑誌などを参考にデザインを勉強し、写真を多用したり小さな記事まで表現・レイアウトをこだわる広報紙を制作。市民から「わかりやすくなった」「最近の広報紙は面白い」等の声が聞かれるようになっている。

また、レイアウトテンプレートを制作・保存できる「マスターページ」機能を活用し、InDesignの知識が少ない人でも編集作業が行える環境をつくっている。佐久間氏は「クリエイティブの内製化では属人化や引き継ぎが課題になりますが、北本市のようにInDesignの機能を活用すれば属人化を防ぐことも可能です」と指摘した。

愛媛県内子町

愛媛県内子町は2007年に広報紙の内製化を開始。長年アドビのソフトを活用し、2018年9月にはAdobe CCを導入した。全国広報コンクールでは2015年から8年連続入選、2度の内閣総理大臣賞にも輝いている。

2013年以降広報紙の制作を担当する総務課政策調整班広報広聴係長の兵頭裕次氏は「広報グループでは『ふるさとの香りがする広報紙づくり』を目指していますが、そのためには季節ごとにまちに出かけ、たくさんの市民に取材する必要があります。内製化によって外部デザイナー等とのやりとりの時間を省き、まちに出る時間を作ることができました」と経緯を話す。

『InDesign』など様々なツールを駆使して広報紙を制作しているが、なかでも兵頭氏がこだわっているのが写真だ。例えば2022年6月号では、高齢化によって減少している棚田と夕空を巻頭ページで取り上げた。明暗差のある風景の撮影はプロでも難しいが、写真編集・整理ソフトの『Photoshop Lightroom』を使いレタッチし、夕空を映す美しい棚田写真に仕上げた。ほかにも花火の写真では、カメラを固定してインターバル撮影した画像を比較明合成し、花火に照らされる内子の街並みを美しく表現した。

「Lightroomには空や被写体をワンクリックで選択し加工できるなど、便利な機能が多数搭載されています。写真整理も簡単で時間を上手に使えるようになりました」と兵頭氏。佐久間氏は「内子町はInDesignやLightroomの活用で表現の幅を広げ、まさに『ふるさとの香りがする広報紙づくり』を実現しています」と太鼓判を押す。

青森県むつ市

青森県むつ市は、記者会見や市政情報を発信する「むつ市長の62ちゃんねる」を2020年1月に開設。これまで300本以上の動画をアップし、チャンネル登録者数は1万人(市人口の約20%)を突破している。

企画政策部市民連携課広報グループ主任主査の鎌田隆夫氏は、チャンネルの動画制作を1人で担当している。2020年7月にAdobe CCを導入、動画編集ソフト『Premiere Pro』の利用を開始した。「チャンネル開設当初は他のパッケージソフトを使用していました。Premiere Proは利用者が多く、多数のYouTuberが使い方を動画で教えてくれたり、テンプレートを無料配布しています。無料で技術を学べるため、従来の表現の限界を次々に突破していけている実感があります」と鎌田氏。

5~10分の動画を約5時間かけて編集し、BGMやテロップ、エフェクト、効果音などを入れているが、「特に自動字幕の精度が高く、あっという間にテロップが付けられるため助かっています」という。以前は週2本の制作が限界だったが、Premiere Proの導入後すぐに週3本に増えたそうだ。2020年6月には全国初の自治体YouTubeチャンネルの収益化を開始し、現在は月に2~3万円の広告収入を得ている。このほか、『After Effects』を使ったアニメーションなど、新たな映像表現にも挑戦している。「市民はもちろん、市外の方にも『むつ市って素敵だな』と思ってもらえるよう、動画制作を続けていきます」と鎌田氏は意気込む。

内製化のメリット

 最後に改めて3名にクリエイティブ内製化のメリットを尋ねた。鎌田氏は「内製化は予算削減に繋がります。動画制作は外注すれば数十万円かかりますが、内製化すれば仮に予算ゼロでも、どんどん情報発信をすることができます」と述べる。秋葉氏も「外注に比べて広報紙の制作費が半減でき、職員や取材した市民の想いをダイレクトに紙面へ反映できるようになりました」と話した。兵頭氏は効率化に加えて、「アイデアやイメージ、本当に伝えたいことを自分自身で表現できることが一番のメリットです。培ったクリエイティビティは他の部署に異動しても発揮できるはずです」と語った。

佐久間氏は「3名のように、普通の公務員でもクリエイティブを内製化し、素晴らしい広報ツールを制作することができます。4回の実践講座を通じて、内製化のハードルの低さや、アドビ製品の多彩な機能に気づいて頂きたいです」と締めくくった。

 

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