自国へのポジティブな偏見を利用し世界中の消費者の心を捉えよう

カントリー・バイアスとは、外国に対する先入態度のことだ。例えば、中国や韓国で時折表面化する反日感情は、「消費者アニモシティ(敵対心)」というネガティブなカントリー・バイアスととらえられる。

アニモシティから生じる日本製品のボイコット運動がメディアで取り上げられることもあるが、著者が着目するのは「消費者アフィニティ(好意、愛着、感嘆)」と呼ばれるポジティブなカントリー・バイアスだ。アフィニティが影響を及ぼしやすい条件や要因を特定できれば、アニモシティを緩和したり、乗り越えたりするコミュニケーションが可能になるからだ。

そもそも、日本製品のボイコット運動などが生じる場合、その主な原因は政治経済上の軋轢である。一企業や個人の力でコントロールできるものではない。一方、ポジティブなカントリー・バイアスを醸成したり、増幅するようなコミュニケーションを行うことができれば、こうした運動を抑えつつ、製品・サービスの評価をより好ましいものに導けるかもしれない。さらには、日本のファンになってもらう契機ともなり得る。

では、消費者アフィニティはいかに醸成すればよいのか。強力な武器になり得るのが、日本製のアニメやゲーム、ドラマといったコンテンツだ。これらがいかに対日アフィリティにプラスに働き、日本の国家イメージ、ひいてはその経済に好ましい影響を及ぼしているか。教育研究現場に立つ著者が、さまざまな国籍の関係者と接するなかで常々感じることだという。例えば、ロンドンに留学していた際、日本の人気漫画に触発され、日本車に魅せられる人々にしばしば出会ってきたという。日本車に対する機能面での評価を超え、熱狂、もしくは神話的な盲信を伴う感情面での高い評価がひしひしと伝わってきたそうだ。

こうした現象を本書では、カントリー・バイアスの類型の1つである「カントリー・オブ・オリジン(COO)」として扱っている。COOとは製品・サービスの原産国のことだ。価格や機能、デザインといった数ある製品属性の1つに過ぎないというとらえ方もある。だが、新たな製品・サービスの購入や導入を検討している消費者の立場で考えれば、そのスペックを推論する際にCOOが有用な手掛かりとなることは想像に難くない。

コンテンツによって醸成されたCOOイメージを、製品・サービスのCOOイメージにいかに波及させていくか。それこそがCOOイメージのレバレッジ戦略であり、包括的な取り組みがなされるべきだと著者は期待を寄せている。

本書のもとになった同じ著者の『多文化社会の消費者認知構造――グローバル化とカントリー・バイアス』は数々の学会賞を受賞。インバウンドビジネスに携わる人には特に一読を勧めたい。

 

『グローバル社会の消費者心理──
カントリー・バイアスから読む〈こころ〉』

  1. 寺﨑 新一郎 著
  2. 本体900円+税
  3. 早稲田大学出版部
  4. 2024年6月

 

今月の注目の3冊

イノベーションの経済学

「繁栄のパラドクス」に学ぶ巨大市場の創り方

  1. クレイトン・M・クリステンセン 著
  2. ハーパーコリンズ・ジャパン
  3. 本体2,000円+税

 

電気のない村に暮らすアフリカの約6億人は極貧の指標?いや、むしろ巨大市場創造の好機として見るべきだ。本書はそう説く。

今日の先進国も、かつて貧困にあえいだ過去がある。その歴史を紐解くと、市場創造型イノベーションへの投資が、繁栄への確実性の高い道であることが分かる。ひとたび「無消費者」を消費者にする市場が生まれれば、インフラや教育、文化的変容を引き入れ、社会の軌道が変わり始めるのだ。

本書には、ソニーやトヨタを含む世界各国の企業が、いかに存在しない市場を創造してきたのか、そのビジネスモデルやストーリーが数多く紹介されている。本書を読めば、チャンスがないと嘆く暇などないと思えるほど希望が湧いてくる。

『繁栄のパラドクス─絶望を希望に変えるイノベーションの経済学』改題・改訂版。

 

2028年 街から書店が消える日

本屋再生!識者30人からのメッセージ

  1. 小島 俊一 著
  2. プレジデント社
  3. 本体1,700円+税

 

今、街から本屋が消えている。データを参照するまでもなく実感で分かるほどだ。根本的な原因は何なのか? 出版界のプロたちがそれぞれ異なる立場から熱く本音を語っている。

書店という商売は経営構造として成立し得ない。書店の現場からそうした実情を訴える声があれば、配送の担い手からは、発売日の朝に雑誌をコンビニに届けるため、深夜勤務を強いられる厳しさが語られる。

一方、読書文化をブーストする仕組みの構築や、書籍の個体管理による書店のマーケティング向上など、前向きな提案も盛り込まれ、明るい未来への希望も感じ取ることができる。

書店業界に就活中の甥っ子と、コンサルタントの叔父との対話形式という読みやすい構成で、出版業界の仕組みがよく分かる。読後はぜひ本屋に出かけてほしい。

 

縁と善の好循環

  1. 北尾 吉孝 著
  2. 財界研究所
  3. 本体1,600円+税

 

今やスマホひとつで、多様な金融サービスを利用できる時代だが、その背景には絶え間ない事業革新があった。1999年の創業以来、そうした革新を精力的に推し進めてきたのがSBIグループだ。

証券・銀行・保険などを幅広く手掛ける世界初の「インターネット金融生態系」を確立。さらに、ベンチャー企業への投資を主とするアセットマネジメント事業からバイオ・ヘルスケア事業まで、新領域の開拓を進めてきた。

同グループを創業し、一連の事業を牽引するのが、本書の著者である北尾吉孝氏だ。現在、SBIホールディングス代表取締役 会長 兼 社長を務める。その北尾氏が16年間書き続けている人気ブログの書籍化最新刊が本書だ。

混迷の世に、「人」として成長するために必要なこととは何か。そのヒントが存分に語られる。著者の思索の軌跡に学びたい。